第27話 正体……

 神社まで戻ってくると、石段に座り込み少し休憩することにした。心臓は今までに聞いたことのないくらいの爆音で、興奮で体中が熱くなっていた。


 あの男は、犯人だったのだろうか?


 わざわざ山の中に入り、おれが神社から出てくると逃げ出した。逃げ出すだけの理由があったということだ。ずっとおれをつけていたのだろうか。目的は? 襲うつもりだったのか? それならば瑛華を連れて来なかったのは正解だった。

 そうだ、と思い出したことがある。東京にいた頃、確か沢村から落神村の話を聞いた夜だった。おれは誰かにつけられた。気味が悪かったが、週刊雑誌の記者かなにかだと納得し、そのあともつけられることはなかったので、気に止めないでいた。先ほどの男となにか関係があるのか? 偶然だと処理してしまってもいいのか? もしつけていたのが同一人物だとすれば、目的はなんなのだ。


 おれは考えてみた。


 落神村のことを聞いたため、あの夜つけられたとすれば、村の者の差し金ということになる。おれの様子を探るためだ。先ほどの一件も、様子を知るため。よそ者を監視しようというのだ。

 二つの尾行に関係がないのだとすれば、街でつけてきたのは雑誌記者かおれのファン。先ほど逃げた男は犯人か。


 気味が悪い。二の腕が粟立った。


 関係がないことを祈るばかりだが、偶然と片付けられなかった。


 おれはふぅと吐き出しいったん落ち着くと、男の姿を思い出してみた。痩せ型で、グリーンのガーゴパンツをはきグリーンの長袖だった。自然の色と同化するため着ていた可能性がある。尾行をバレないよう遂行するためだ。

 年齢は、どうだろう? 若かった気もした。十代後半から、三十代か。いや、四十代でも有り得るな。後ろ姿だけだったため詳しくはわからない。髪の毛の色は黒かった。短くもなければ、長くもなかったように思う。

 黒いカバンのような物を持っていたが、なんだったのだろう。なにかの道具か、荷物だろうか。犯人は我々と同じ外部からやってきたのなら、神社を寝床にしていたのかもしれない。おれは体を捻り、神社の方を見た。だが中には人がいた気配はなかった。徹底し痕跡を残さなかったのか、同じところに留まるのは危険なため、場所を移動しようとしこの旧神社を選んだのか。おれは引っ越しにやってきた犯人とかち合わせた。そうだとすれば、旧神社にはもうやってこないだろう。


 もし持っていたものが凶器だったとしよう。痕跡は必ずあるはずだと中で粘っていれば、おれはたちまち鮮血を流していたことになる。ゾッとしない想像だった。


 おれは立ち上がり、辺りを見渡した。男が様子を探るため引き返してこないだろうかと思ったが、人の気配はない。


 斜面を下り、村へ戻ることにした。

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