第21話 同い年

 中条律の家は、右エリアにある。


 律から話を聞いたあと、できることなら佐田から話を聞きたい。神隠しについて詳しいらしく、色んな知識を持っているはずだ。参考になるかもしれない。

 律の家の前に来ると、タイミングよく誰かが出てきた。高校生くらいの男の子で、中条律と思われた。


「律くん?」

 とおれは声をかけた。

「そうだけど」

 律は切れ長の目を細めると、おれと瑛華を観察するように見た。律は髪を茶色に染め、耳にはピアスをしており、動くとキラリと光っていた。どこにでもいるやんちゃな学生という印象だった。

 律は門の近くに立った。門を開ける様子はない。警戒されているらしい。


「あんたたちは確か、東京から来た芸人と女優だっけ」

 おれと瑛華は自己紹介した。律はニヒルに笑うと、

「お姉さんの方は知ってるよ、テレビで見たことがある。でもお兄さんの方は知んないんな」

「じゃあ探偵芸人ってわかる?」

「え、なにそれ。探偵か芸人、どっちなの」

「どっちもかな」


 律は考える素振りをみせると、

「カレーうどんみたいなこと?」

「そんな感じ」

「なるほど……」

 納得されてしまった。瑛華はカレーうどんより普通のカレーライスの方がいいなぁと言った。今はどうでもいいことだった。


「で、なんなの」

「沢村結愛ちゃんが消えたことは知ってるよね」

「知ってる。神隠しだっていって、いい大人がはしゃいでるから」

「律くんは怖くないのか?」

「神隠しね」

 律は鼻で笑った。

「別に、怖くないよ」

「じゃあ信じてないんだね」

「オレも一応この村のものだから、ノーコメントってことで」

 律は年相応の愛らしい顔を見せた。


「おれたちは、人の手によるものだと思って捜査してるんだよ」

「ふうん、だから探偵芸人か」

「律くん、結愛ちゃんと揉めたことがあったみたいだね。理由はなんだった?」

「オレを疑ってんの?」

「そういうわけじゃないけど、情報は少しでも多くあった方がいい」

「……ま、いっか。揉めたって言ってもそんな大したことじゃないよ。オレ、サボり癖が合って学校にあんまり行ってなかったんだ。すると結愛が怒った。別に自分のことでもないのに、あいつは優等生なんだよ」

「律くんはなんて言ったんだ?」

「はいはいって感じだよ。その態度も気に食わなくて怒ってたけど」

 律は余裕そうに、ふふっと笑った。高校生にしてはやけにクールで、掴みどころがなかった。


「結愛ちゃんとは幼なじみなんだろ」

「そうだよ」

「なのに悲しそうにしてないんだな」

「それもそうだな……なんでだろ? 命の心配はないって、そんな気がするからかな。焦らなくてもいいって、思ってるんだ」

「どうして?」

「根拠はない。そんな感じがするってだけ。お兄さん、結愛を攫う動機がある人を探してるんだろうけど、あいつは優等生だし、怨まれるようなことはしないと思うぜ。綺麗な顔立ちをしてるけど、わざわざこんな狭い村で人攫いなんてする?」

「神隠しの伝承がある。犯人からしたら格好の隠れ蓑だ」

 律はニヤリと笑うと、門の上に腕を乗せ、顔を覗き込んできた。緩やかな風が吹き、律の前髪がかすかに揺れた。


「なるほど、筋が通ってるね。でも、これも根拠のない考えだけど、けっこう意外なことが待ってそうなんだよね、この神隠しの一件」

 おれは目を細めると、

「意外なこと?」

「そう。根拠はないし、どんな意外性かはわかんないけど。そろそろ通ってもいいかな」

「あ、ああ……」


 おれと瑛華が門から離れると、律はゆっくりとした動作で開けた。じゃあと一言だけ言うと、ポケットに手を突っ込み歩き出した。その背中は大人びていて、不思議さを残し去っていった。


「高校生って感じはしないね」

 と瑛華は律が去っていった方を見ながら言った。

「そうだな。大物になるか早死するタイプだ」

「極端だね」

「そうだな」

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