第7話 村へのお誘い
チャイムがあり、出てみると瑛華だった。
茶色の髪を肩まで伸ばし、くっきりとした二重で瞳は栗のように大きい。眉は細く、鼻は小さく口も小さい。仕事ではコンタクトだが、普段は赤いフレームのメガネをかけていた。
昔は、長い黒髪を後ろにくぐり、面白味のないメガネをかけた地味な見た目だったが、垢抜けた。人気女優の風格すら感じる。しかし中身はまったく変わっておらず、いい意味で成長はしていなかった。おれの後ろについてまわっていたあの頃と同じだ。
「なに笑ってのももちゃん」
「相変わらず瑛華は可愛いなって思ってな」
「どうもー」
と瑛華は気のないように言った。本音だと言うのに、いつも信じてくれないのだ。
リビングに腰を下ろすと、おれは訊ねた。
「変な男はいなかったか?」
「うん、いなかったよ」
瑛華はほ〜い粗茶をカバンから取り出すと、一口飲んだ。
「そうか。なんだったんだろうな……」
気味の悪い。
危ないファンならば、次の日ポストに、カラスの頭でも入れてくるかもしれない。刺されることだってないとは言えない。それならばカラスの方がいい。カラスには悪いが、おれの盾となってもらいたい。
「ほらその人、ももちゃんの探偵としての才能を見込んで、依頼したかったんじゃない?」
「芸人としての依頼なら嬉しいんだけどな」
「探偵としても凄いからいいじゃん!」
探偵としても、という言葉におれは少し気を良くした。芸人としても実力があると思ってくれているのだ。
「なあ、瑛華。ゴールデンウィークって空いてるか?」
「うん、空いてるけど。ドラマの撮影も終わったところだし」
沢村ディレクターの言う通りだった。あとは落神村へ同行してくれるかだ。おれとしてはついてきてもらいたい。一人では心細いしなにより神隠しだし怖いし。
「そういえばゴールデンウィークどうするか決めてなかったよね。ももちゃんは仕事?」
「実はだな――」
おれは説明した。落神村のこと、神隠しの伝承があること、そして雑誌のコラム作成のため向かわなければならないことを。
「そこでだな、遊びに行けないが瑛華も一緒にどうかと思ってさ」
「いいね面白そう!」
「お、面白そうか?」
「うん。私、結構オカルト好きだし。それに私もそのコラムの作成を手伝うよ」
「それはありがたいなぁ、おれ文才ないし。瑛華はどうだ?」
「ううん、ぜんぜん!」
瑛華は元気に言い切った。実に清々しかった。
「もし神隠しが起こったら、なんとか解決してね」
「沢村さんと同じこと言うなぁ。相手は神様だぞ」
「確かに。祟られるかもね、はははっ」
「だから笑い事じゃないんだって……」
瑛華はそのあと、機嫌良くスマホで落神村のことを調べていた。今から楽しみにしているみたいだ。
良かった。観光地でもないし、一日だけでも遊びに連れて行けと怒られると思ったのだが、事なきを得た。また暇を見つけ、二人で出かけよう。
おれたちが神隠しにあわなければの話だが……。
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