死神の思し召し!~役立たずだと追放された。死を視て罠を解除していたのに……。今さら戻って来いといわれても、もう遅い。可愛い死神たちに好かれてそれどころじゃねぇ!
1-32 愚者はすべてを嘲笑う【ザフール一行(4)】
1-32 愚者はすべてを嘲笑う【ザフール一行(4)】
草原を馬が駆ける。
風のように速い。
それもそうだ。馬車という足かせがないのだから。
ザフールは馬に跨り、一路街を目指す。
マギシアの
マギシア、トルエンの二人はダンジョンから出た途端、気絶してしまった。無理もない。マギシアは極度の疲労と、
ともかく治療が必要だった。馬車で近隣の村まで移動した一行は、村の者に頼み込み、部屋を借りることができた。二人はしばらくの間村から離れることはできないだろう。
また、ポペも村にとどまることを選んだ。
それはパーティーメンバー二人への祈祷術による治療を行うためだが、なによりもザフールと距離を取りたかったのだろう。
極限の状況とはいえ、ザフールから剣を向けられたのだ。二人の間にはちょっとやそっとでは元に戻らない、溝があった。
結果としてザフールは、一人孤独に街へ戻っていた。
依頼の結果報告と、他の三人への救助の準備を行わなければならない。
馬が駆け、走り、突き進む。
しかし突如、がくんと速度が遅くなる。
馬の力が尽きたわけではない。まだ走れそうだ。
であればあえて馬を止めた者がいるということであり、それができるのはザフールしかいなかった。
よく見ればザフールの肩が震えている。
どうしたのだろうか。
休憩だろうか、違う。
傷がうずくのか、違う。
仲間が心配なのか、違う。
「ククッ。あっはははははははははははははは!」
彼は笑っていた。
祭りではしゃぐ子供みたいに
「生きてる! 俺は生きてる!」
嬉しそうに、楽しそうに、笑う。
死を覚悟したのに、助かったのだ。
思わず
だが限度を超えた笑い方だった。
「しかも、無傷だ。あぁ神様、感謝いたします」
ザフールは喜び震え、五体満足の身体をヒシと抱きしめる。
事実、彼はとても幸運だった。
モンスターの群れから逃げる時、彼は罠を踏みぬいた。しかし罠であるギロチンは彼ではなくトルエンに向かい、戦士の命ともいえる右腕を奪い取った。
また絶対絶命の状況もマギシアの命を賭した魔法で打開することができたのだ。
ゆえに、ザフールは仲間に感謝をするべきなのだが……。
「それにしても馬鹿な女だ」
彼は
「俺と二人で逃げればいいものを」
ザフールにはマギシアが自分たちを助けた意味が分からなかった。
いや、自分を助けるのはまだわかる。禁術を使ったとしても、所詮は魔法使い。前衛が必要だし、それをあの場でこなせるのはザフールのみだから。
しかし祈祷術の唱えすぎで限界を迎えていたポペや、前衛もできないばかりか今後、利用価値のないトルエンまで助けようとするなんて。
あの役立たずの二人まで助けようとしたせいで、脱出には手間がかかったのだ。途中、
「まぁもうどうでもいいな。あいつも既に使い道のないゴミだ」
ザフールはニタリと
自分が生きている。それだけで十分だ。
「これがあれば、俺はいくらでもやり直せる」
ザフールは懐にしまい込んでいたものを取り出す。
それは鞘から柄まで、すべて真白の短剣だった。
ダンジョンの
一目見た時から、言葉にできないナニかを感じた。
恐らくマジックアイテムだろう。思えば、懐に入れてからずっと気分が高揚している気がする。このアイテムの効果かもしれない。
ともかく依頼主であるギルド長への土産はこれで十分。マジックアイテムに目がない男だ。きっと高価で買い取ってくれるはず。そして得た報酬を元手に違う街へ行き、そこで新しい仲間を募ることにしよう。
そう、ザフールは既にトルエン、マギシア、ポペを切り捨てるつもりだった。武器を振るえない隻腕の戦士、魔法が使えない魔法使い、自分をなじる僧侶。どれも不要だ。
自分が生きていればそれでいい。
ザフールの脳裏にはすでに彼ら三人のことは残っていない……いや一つだけまだこびりついているものがあった。
“キエルと和解しなさい。貴方のパーティーに……あいつは必要よ”
ダンジョンから脱出し、気を失う前のマギシアの助言だ。
何を馬鹿なことをと一笑に付したかったが、今回の失敗を踏まえると認めなければならない。
キエルの罠を解除する腕だけは確かだったということを、たとえ死を視る眼は嘘だとしてもだ。
(そうだな……これでも
ザフールはマギシアの忠告を聞いてやることにしたようだ。
(街であのホラ吹きを見つけたら、仕方がない。パーティーに入れてやることにしよう)
高慢な考えを抱きつつ、再び馬を歩ませる。
ただし、その速度はひどくゆっくりだった。
当たり前だ。急ぐ理由などないのだから。
手綱を握るため、ダンジョンで見つけた真白の短剣を懐にしまおうとしたザフールだが、その手が一度止まる。そして、短剣を天にかざす。
「それにしても、よく見れば見るほど惹きつけられる武器だ」
まじまじと眺めるとそう呟くと、今度こそしっかりと懐にしまう。
キラリと短剣が輝いた。
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