第10.5回 web小説から電子書籍へ

*2021年3月に単体で掲載したものの再録です。

寅衛門「虎猫とらえもんと」

寅吉「とらきちで」

寅衛門・寅吉「二匹合わせて虎猫ズ!」

寅衛門「まだお見知り頂けていないお客様、こちらが本拠地となりますのでどうぞよろしくお願いいたします」

「虎猫の巣」(エッセイ・ノンフィクション)https://kakuyomu.jp/my/works/16816452218499176835


寅衛門「さて、紙媒体の出版業界が衰退の一途を辿り、出版社の編集者新卒採用も極限にまで絞られている昨今ですが」

寅吉「今回はそっちの話ですか」

寅衛門「…大学全入時代に突入して、新卒者の学歴と学力のバランス崩壊が起きている話がいいのか」

寅吉「ええ…」

寅衛門「そんな先行き真っ暗な出版業界で、唯一希望のコンテンツ、それが電子書籍」

寅吉「なるほど、データを見ると、紙の出版の右肩下がりに比べて、電子書籍は右肩上がりですな」

寅衛門「これはなかなかに趣深い事実で、我々素人の物書きもまた、目を逸らしてはならないことだ」

寅吉「コミックにしろ小説にしろ、単独で爆発的に売れる作品に目が行きがちですが、他は軒並み右肩下がり、かつ日本人口の減少というマイナス要素しかないこの時代、紙の書籍に比べて電子書籍のみが右肩上がりですか」

寅衛門「その謎を解明すべく、我々調査隊はAma、おっとアマゾンの奥地へと向かった」

寅吉「あっぶな」


ピピーッ、ギャアギャアギャア、ザザッザザッ…

寅衛門「ここからは場所を赤道直下ブラジルの熱帯多雨林に移動してお送りします」

寅吉「めっちゃ蒸し暑いんですが」

寅衛門「そりゃあそうだ」

寅吉「しかもなんで背景がモザイクなんですか」

寅衛門「あのな、これから儂らは、"アマゾン"で"電子書籍の話"をするという、そのシチュエーションを鑑みるに」

寅吉「…ああ、モザイク」

寅衛門「いいか、この話に出てくるアマゾンという単語はすべて、ブラジルに現生する熱帯多雨林のことだ」

寅吉「大気中の二酸化炭素を固定することにより、地球の炭素循環に強力に作用する環境装置としてのアマゾン熱帯多雨林のことですな!」

寅衛門「そうそう、某大手通販サイトのことではない」

寅吉「…あっぶな」


寅衛門「IT化、グローバル化、そしてボーダレス化が浸透する現在の社会に於いて、人々の興味関心は多様化の一途を辿っている」

寅吉「多様な興味関心を満たす情報コンテンツへのアクセスが、ネットを通じて可能になりましたからなあ」

寅衛門「ほんと、一昔前は個人的な嗜好のニーズを満たすためには、同人誌即売会や同人誌を扱う数限られた店舗に直接足を運ぶしかなかった」

寅吉「そこへの物理的アクセスが制限された結果、欲求不満を自給自足で満たそうとするハングリーな素人作家が誕生したわけですな」

寅衛門「彼らの多くが持っていた希望が、いつか大手出版社に認められ、自分の著作が書店に並んで多くの人々の手に取って貰える、ということだ」

寅吉「まあ、物書きとしては普通の思考ですな」

寅衛門「ただし、このストーリーが成立しなくなっているのが現状だ」

寅吉「夢も希望もない」


寅衛門「この現状、まず、人々の嗜好の多様化が大きな原因の一つだ」

寅吉「一般受け、の一般が果たして何を指すのか分からなくなりつつある昨今ですからなあ」

寅衛門「逆に、コアな嗜好ニーズに嵌れば、作者買いとして固定ファンがつき、大ヒットは無くても自分の生活を維持しながら活動を続けるクリエーターもおる」

寅吉「音楽業界ではむしろその流れが主流になりつつありますな」

寅衛門「マンガもそうだ。ほれ、いまこのアマゾン熱帯多雨林の樹冠部の高いところにいくつかあるだろう。あれはこのアマゾンでしか取れず、かつそのためにコアな読者を獲得して成功したパターンだ。しかも印税70%」

寅吉「70%?!」

寅衛門「大手出版社が著者に払う印税は10%が最高ラインだ。1000円の本を3千部売って、著者に入るのは30万。しかしこのアマゾン(=赤道直下ブラジルにある熱帯多雨林)では210万。この差は大きい」

寅吉「はあ、ここアマゾン(=ブラジルにある熱帯多雨林)では、大手出版社とは違い、作者が儲けの大部分を手に入れることができるわけですなあ」

寅衛門「ここ(=ブラジルの熱帯多雨林)でなくても、電子出版の形態をとるところの印税は、紙に比べて軒並み高い」


寅吉「でもあれですわあ、やっぱり紙に印刷されて書店に並ぶのがいいんですわあ」

寅衛門「個人の努力でそれも可能だろう。書店流通にはISBNという国際標準図書番号が必要だが、これも個人で取得可能だ」

寅吉「あとは知り合いに本屋がいれば、営業をかけて自分の本を置いてもらうという努力ですなあ」

寅衛門「出版社がもつ利点はまさしくそこにある。著者が自ら出向かなくても、出版社がその営業をしてくれるし、出版社によるネームバリューというのもあるだろう」

寅吉「なるほど、その営業努力や付加価値を差し引くとあの低々ひくひくぴゅーぴゅーな印税になるわけですな」

寅衛門「…なにそのなんか卑猥な表現」

寅吉「さ、話を先に進めますぞ!」


寅衛門「そして出版社は、その作品が売れるかどうか、出版社の意図に沿っているかを吟味するのだが、そこが最近かなりシビアになっている」

寅吉「ほんと、何が売れるか、嗜好の多様化が進んでいるから分からんですな」

寅衛門「最小公倍数な作品は引っ掛かりが弱く、その時は読んでもらえても次につながらない、誰が書いても同じ話、どこかで読んだことのある話ばかりになりがちだ」

寅吉「大外れはない安心感はありますな」

寅衛門「だが」

寅吉「だが?」

寅衛門「表現者として、己の作風すら妥協させてその出版社の弱腰に付き合い、編集部の機嫌を伺い靴を舐めるような卑屈な態度で良いのかと」

寅吉「…カクヨムコンの中間選考、落ちた途端に言いたい放題ですなあ」

寅衛門「むしろ、強すぎる個性は、そのような嗜好を持つ相手にダイレクトで届け、コアなファンとなってもらうことを想定する方が良いのではないか」

寅吉「そうするとあれですな、公募要件とかレーベルのカラーなどを全く無視した作品を書き続けるインディーズな活動が合っている作者もいる、と」

寅衛門「それこそ至高の芸術活動ではないか!」

寅吉「嗜好の」

寅衛門「言い換えるな」

寅吉「なんかあれですな、幕末モノの資料を漁っていた作者がまるで"竜馬かぶれ"になったかような発言」

寅衛門「それもある」

寅吉「流されやすいですなあ」


寅衛門「ともかく、そういった独自のカラーを売りモノにする作者は、出版社に拾い上げられるなどという可能性マイナスの夢を見るのを止め、また、ようワカラン基準で評価されるコンテストに合わせて作品をつくるのではなく、もういっそ自分で自分の作品を売ったらどうかと」

寅吉「コミケがこのコロナ禍で軒並み中止され、マンガ同人作家のなかには電子書籍市場に足場を移した者も多くいるとか」

寅衛門「自分の創作活動はいったい何が目的なのか、ここで考えてみる必要があるのではないか」

寅吉「ほとんど売れず印税もスズメの涙と分かっていても出版社からの紙の書籍化を目指すか、できるだけ多くの人に自分の作品を読んでもらいたいのか、同じ嗜好を持つ同好の士に自分の作品を届けたいのか」

寅衛門「ただただ書かないと死んでしまう病というのもあるのだ。そのような芸術家堅気の人こそ、カクヨムのようなweb小説はフィットしているのかもな。そのような作者の方は外野の声を気にせず好きなように創作を続けて頂きたい」


寅吉「で、ここの作者は」

寅衛門「コアな嗜好を持つ同好の士にピンポイントで読んでもらえたら嬉しい」

寅吉「変態ですな」

寅衛門「変態だな」

寅吉「…で、作者はその思考の紆余曲折の結果として、ここブラジルの熱帯多雨林アマゾンの森林の根元に自作を植えたと」

寅衛門「リンクは貼らん」

寅吉「…ここは"熱帯雨林"です。リンクとはなんですかのう」


寅衛門「ちなみに手続きはとくに煩わしい物ではなく、カクヨムのロイヤリティを設定したことあるユーザーなら直ぐに自分の作物を植え付けることができる」

寅吉「ちょっと税金のあたりですかな、アマゾン(ブラジルの熱帯雨林)は外国なので」

寅衛門「そこで引っ掛かるような奴は商売やるな」

寅吉「あらま、ばっさり」


寅衛門「カクヨムのライバル的存在は"小説家になろう"だといわれているが、今後を見据えるとやはり最大の敵はGAFAの一角になるだろう」

寅吉「それでこそGAFA、さすがです。この世界の全てを牛耳る存在!」

寅衛門「そっちかよ」

寅吉「Book☆Walkerへカクヨム作家を誘導するはたらき、あるいはBook☆Walkerでのカクヨム作家の優遇措置をする(ピックアップ枠)など、KADOKAWAがGAFAの侵攻に対抗する手はいくらでもありそうですが」

寅衛門「今後、ぜひ、そちらの機能も検討してもらいたいものだ」

寅吉「…で、Book☆Walkerでなく、アマゾン(ブラジルの熱帯多雨林を構成する樹林のことを指す)の根元に『千鳥』をつっこんだのはやはり、中間の遺恨ですか」

寅衛門「…その辺は作者の狭量だな」

寅吉「"竜馬かぶれ"にしてはやることが小さい…」

寅衛門「この支配からの卒業…」

寅吉「尾崎豊かよ」


寅衛門「そんなこんなで」

寅吉「虎猫ズ!」

寅衛門「今回は南米ブラジルの熱帯多雨林アマゾンからお送りしましたー!」

ピピーッ、ギャアギャアギャア、ザザッザザッ…

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