第11回 私的ミステリーの書き方

ポンッ……、ポンッ……

寅吉「おや殿、ようやく例のトリが届きましたか」

寅衛門「ッふんぬ!」

ブチィッ!

寅吉「うわあ、なにをちぎっているんですか!」

寅衛門「…儂の冬毛だ。何をそんなにうろたえている」

寅吉「ああ、びっくりした。ふわふわな部分は胴体だけ、や尾のような付属物はペラい型抜きフェルトで作られた例のトリのどこかを引きちぎったのかと思いました」

寅衛門「そんな破壊行動をしたらメルカリで売れなくなるだろう」

寅吉「売るつもりなんですか」

寅衛門「どっちが売れるかのう、電子版『千鳥』とメルカリ出品カクヨムドリ」

寅吉「また難しい質問を」


寅衛門「いうて、電子版『千鳥』はアメリカやメキシコからの読者を得られたのが今回の収穫だな」

寅吉「メキシコ?」

寅衛門「ああ、作者、全世界展開したらしい」

寅吉「オッラ、アミーゴ!」

寅衛門「どうした急に」

寅吉「ちょっと現地の言葉でご挨拶を」

寅衛門「…しばらく既刊の『千鳥』は放っておいていいだろう。表題の話題に入るぞ」

寅吉「おお、そうでしたなあ、ミステリーの話でしたわ」


寅衛門「で、ミステリーの書き方についてだが」

寅吉「作者、ミステリー書いたことありましたっけ」

寅衛門「いや、でも『夏の祭礼』はミステリーと同じ手法で作られている」

寅吉「へえ」

寅衛門「だが、あの話はそれだけでなく、怖ろしい量の伏線がぎゅうぎゅうに詰め込まれているので触らないでおこう」

寅吉「みっしりなんですよなあ、どこを切っても」


寅衛門「で、ミステリーだが」

寅吉「はあ」

寅衛門「書こうとするとき、まず何から始めるべきか」

寅吉「ライトノベル業界だと、キャラクターとか世界観からですかのう?」

寅衛門「はい、それ失敗。高確率で行き詰まるパターン」

寅吉「マジっすか」

寅衛門「キャラや世界観を書きたいんだったらラブコメか異世界モノに行け。ミステリーを書くからには主人公は"ミステリー"そのものでなくてはならん。推理物なら"トリック"こそいちばん先に考えなければならない物」

寅吉「いわれてみれば当たり前ですな。トリックを巡る攻防戦がミステリー小説の基幹プロットになるわけですから」

寅衛門「だからミステリー作家は、ストーリーよりもトリックを考えることに頭を使うらしい」


寅吉「でもトリックって、例えば、一本かと思っていた特注品の包丁が実は二本あった、程度の文章量でしょう。そこからどうやってお話にするんです?」

寅衛門「包丁が二本あったなら、もう一本はどこからきた?」

寅吉「ええっと、犯人が持っていた、ということになりますよなあ」

寅衛門「犯人はどのようにしてそれを手に入れた?」

寅吉「3Dプリンターで作った、とか?」

寅衛門「……フィギュア職人かよ一般家庭にあるのかよそれ。だが、そのもう一本の包丁を手に入れた過程こそが、犯人のキャラクターを描き出す」

寅吉「3Dプリンター、今どきどの工学部にもありますよう」

寅衛門「そこにこだわるなよ。他にも、例えば職人が複製をつくっていた、という理由だった場合、職人と犯人との間の人間関係が、物語に重要になってくるよな」

寅吉「あれですな、片平なぎさがめっちゃ真面目な顔で『AさんとBさん、実はこの二人は面識があったんです!』とか言うあたり」

寅衛門「昼のミステリードラマかよ。でもそう考えるとこのパターン、ミステリードラマでよく見ることに気づくだろ?」

寅吉「ははあ、推理モノに典型的なプロット、ということですな」

寅衛門「シャーロック・ホームズの『4つの書名』や『オレンジの種』などの長編がまさにこの形式」

寅吉「トリックを成立させる必然性をもったキャラクターをトリックの次に作る、と。メモしてみますわ」


寅衛門「そうすると背景や世界観というのもおのずから決まってくるだろう」

寅吉「3Dプリンターをトリック成立要因として使うのなら、舞台は鎌倉時代であってはいけないですな。それこそ大学の工学部が出てきたり、モノづくりが関わる背景だったり。下町の町工場モノとか面白そうですな!伝統あるけれど潰れそうな町工場の跡取り娘、その娘に片思いしつつ事業再建のために融資しようとするが嫌われる地方銀行員の推理バディに、バディはバディでもナイスバディなチャイナ娘と中国資本のメーカーとか絡むとか…」

寅衛門「二本の伝統のある包丁なら、現代よりも歴史モノのほうがあっているかもしれない。どこかの大名家の台所に務める奥女中と出入り職人の推理バディとかな」

寅吉「お色気ありですか」

寅衛門「…食いつくところ、そこかよ」

寅吉「ははあ、しかし先ずは何はともあれ、トリックなんですな」

寅衛門「そしてトリックを解く探偵側のキャラクターだが」

寅吉「はい、重要ですな」

寅衛門「当たり前だが、トリックと犯人と探偵と、同じ世界観にいるのが常識だ」

寅吉「包丁、江戸初期の加賀藩家老、ブルーアイズマジックドラゴン」

寅衛門「…外れ過ぎて分かりづらいわ。ドラゴンが探偵かよ」

寅吉「まあ、読者が現世に対してもつ恨みつらみの不満解消というエンタメ的視点からすると、探偵役は犯人よりも社会的地位が低い方が好まれますな!下克上、上等!」

寅衛門「身も蓋もねーな」

寅吉「俺TUEEEEE系だと、犯人よりも探偵役の方が社会的地位もしくは個人的能力が高い方が良いのですかね。今も日常的に起きているネットでの炎上なんか、ユーザーの俺TUEEEEE感を満たす欲望の発露方法ですしなあ」

寅衛門「読者のルサンチマンをどれだけ拾い上げるかという、創作の根源だな…」

寅吉「ほんま、人間の欲は底なしですわ」

寅衛門「猫で良かった」


寅吉「なにはともあれ、トリック、なんですな、ミステリーの要は」

寅衛門「トリックが無かったら当たり前だがミステリーではない」

寅吉「トリックありきでまずプロットを立てるべきだと」

寅衛門「ストーリーもキャラクターも、トリックを引き立たせるための装置だ」

寅吉「でもこんなキャラ、こんな背景で書きたい!っていうのもありますよね」

寅衛門「そういう時であっても、そのキャラや背景を練り上げる前に、キャラクターや背景を一切考えず、まずはトリックをじっくり考えるべきではないか」

寅吉「というと」

寅衛門「たとえば、包丁にしたところで、海外が舞台ならナイフになるし、異世界ミステリーだったら伝説の宝剣になるわけだし」

寅吉「トリックさえあれば後は微調整でどうとでもなる、逆を言えばトリックがなければカテゴリ不明のぐだぐだになってしまう、ということですな」

寅衛門「ただコナン・ドイルのシャーロック・ホームズ・シリーズの特に長編は、実はミステリーの部分がなくても小説として成立している。『4つの署名』の推理部分は全体の1/3程度、後は犯罪が起こった過程を描く小説だ。もともとコナンドイルは社会小説を書きたかったという話もあったり」

寅吉「トリックとそれを解く過程があるからこそ、ミステリーというカテゴリになっているということですな」


寅衛門「ちなみに、ここの作者は『千鳥』シリーズでも登場人物を使ってミステリーを書こうかと考えているらしい」

寅吉「おやあの主人公二人で、ですか」

寅衛門「…いやそれが」


(`・ω・´)「無礼があったから処分しろと命令したよ」

(゚ω゚)「処分しろって言われたから斬っただけだ」


寅衛門「主人公二人だとそもそもあかんと」

寅吉「っていうか、犯人側なんですかあの二人」


寅衛門「主人公二人は無理なので、黒河藩組の二人、礼次郎と大膳に1870年代のイギリスに出かけてもらってミステリーをやりたいなあ、ということらしい」

寅吉「また時代考証がめんどくさいことに…」

寅衛門「な!」

寅吉「いつになることやら」


寅衛門「まずはようやく固まってきた『翠雨』のプロットを今月中に完成させるのと、GWまでに『翠雨』の前フリ短編『冬青木』を書くらしい」

寅吉「本業の方も洒落にならなくなってきましたが大丈夫ですかのう」

寅衛門「なのでしばらくカクヨムに低浮上になるとの作者からの伝言だ」

寅吉「生きてます、この世の隅にもっそりと。作者の川柳ですかね」

寅衛門「だいたいしぶといから何も心配はいらんな」

寅吉「ですよね」


寅衛門「そんなこんなで」

寅吉「虎猫ズ!」

寅衛門「相変わらずのぐだぐだでお送りいたしましたー」

寅吉「にゃあ」

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