第12回 江戸の桜餅
寅衛門「ようやく『冬青木』の作業が終わったか…」
寅吉「GWだけでどうにかなると思っていた作者の甘い考えが粉砕されましたなあ」
寅衛門「しかし、番外編ってこんなに重いものだったか」
寅吉「単に、この時代に関する作者の知識が無さ過ぎたことが原因なんじゃあないですかのう。半分、自分が勉強するための教科書になっております」
寅衛門「ちなみに、いちばん汎用性が高かった参考文献は、『新装改版 日本の歴史19開国と攘夷』と『新装改版 日本の歴史20明治維新』だったそうだ」
寅吉「ああ、これは普通に書店で手に入る書籍ですなあ。…他の参考文献、めちゃくちゃマニアックなものもあったりしましたが」
寅衛門「しかし番外編でこの調子だと、本編が大変なことになるんじゃあ」
寅吉「毎回のことです」
寅衛門「何が怖ろしいかって、本編『翠雨』では江戸時代の民間信仰という、その道の研究者すら体系化できていない領域に足を突っ込むという無謀さ」
寅吉「参考文献がほとんど原著論文というのも恐ろしいですな」
寅衛門「科研費報告書という論文になる前の段階の資料も引っ張り出してきているらしい」
寅吉「それは学術的に認められている事実なんですかのう?」
寅衛門「いや」
寅吉「どうすんすか、それ」
寅衛門「そんなレアすぎて火が全く通っていない参考文献は置いておくとして」
寅吉「レア、ってそういう意味でしたっけ」
寅衛門「それより、桜餅だ」
寅吉「はあ」
寅衛門「江戸の桜餅と上方の桜餅が違うのは知っておるだろう」
寅吉「江戸の方が上新粉を焼いたふかふかのパンの様な皮で餡を包んで、上方はもち米で餡を包んでいるんですよね。それぞれ長命寺、道明寺という別名がございますな」
寅衛門「作者、京都に住んでいた時は江戸の桜餅が売っていなくて涙を流したそうだ」
寅吉「東京にはどちらも売っております」
寅衛門「なので東京在住の今は、季節になると右手に江戸、左手に上方の桜餅を掴んで食べるそうだ」
寅吉「生活習慣病待ったなし!」
寅衛門「で、この江戸の桜餅、売られ始めたのが文政元年」
寅吉「1818年ですか。古いですね」
寅衛門「それから今日まで売られているわけだが、元祖というか本家は向島の長命寺の門前で売られたのがそれらしい」
寅吉「この地図のどこでしょうなあ… https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1286678(国立国会図書館デジタルコレクション) あ、あった!川沿いに!ちゃんと名物サクラモチとも書いてありますな!」
寅衛門「桜餅を売り始めた一代目店主は、若く麗しい女性だったそうだ」
寅吉「それは通う」
寅衛門「二代目はその息子、イケメン」
寅吉「ふーん(無関心)」
寅衛門「三代目の娘がこれまた美人で、店は大繁盛。時の老中阿部正弘も通ったとか」
寅吉「…行ってみたかった!」
寅衛門「…潔いほど反応が正直だな。作者の次の取材先はここらしい」
寅吉「まだ歩いているんですか」
寅衛門「むしろ『翠雨』は主に4月から7月にかけての話だから、これからこそ積極的に歩くらしい」
寅吉「いうて『冬青木』も随分取材に歩き回って、本文のそこかしこに無駄に坂をアップダウンする様子が書かれておりますな」
寅衛門「足のマメを潰した作者の怨念のこもった坂の描写」
寅吉「いい年して自分の足に合った靴すら選べないとは」
寅衛門「…靴はけっこう不可抗力なところがあるだろう」
寅吉「しかしこの調子で『翠雨』、夏公開に間に合うんですかのう」
寅衛門「仕事もきゅうきゅうに詰まっているというのにな」
寅吉「まったくです」
寅衛門「おせば押すほど、年末が厳しいことになるというのに」
寅吉「計画性は作者に欠落している能力です」
寅衛門「あかん。エロ(『鼈甲の細工品』https://kakuyomu.jp/works/16816452220477248850)書いている場合ではないぞ」
寅衛門「落ちはないけど」
寅吉「虎猫ズ!」
寅衛門「『冬青木』、なんとか最後までたどり着いての作者の息抜きにお付き合いいただき」
寅衛門・寅吉「ありがとうございました!」
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寅衛門「…『冬青木』、最後までたどり着いてからが本格的な改稿作業だと、作者が不穏なことを言っております」
寅吉「いつまでたっても完成しない、サグラダファミリアですかのう」
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