第5回 プロットの秘密・中編
寅衛門「いやー、しかし久々に大きい地震だったな」
寅吉「殿、ぶいやんの鍋は無事ですか」
寅衛門「ちょっと零れたが無事だ」
寅吉「…そのぶいやんにも気になることが」
寅衛門「それより変なところで前編を切ると思わぬ被害が生じる。とっとと話を先に進めるぞ」
寅吉「え、ああ、まあ殿がそれでいいのなら。で、作者がプロット作りに日活ロマン〇ルノ(伏字がめんどうなので以下日ポと略)の濡れ場の法則を用いているというところからですな」
寅衛門「儂はブイヤベース作成を続行しながら話を聞くことにする」
寅吉「ちゃんと突っ込みとボケ、入れて下さいよ」
寅衛門「で!なんだ、その法則とは」
寅吉「はあそれが、濡れ場は10分に1回必ず入れること、だそうです」
寅衛門「上映時間は70分、か」
寅吉「はい。そして映画ですからね、ストーリーが無いとあかんのです」
寅衛門「つまり濡れ場にも必然性が求められるということか」
寅吉「しかも10分に1回」
寅衛門「けっこう厳しくないか、それ」
寅吉「全体として70分の一貫したストーリーの中で、10分おきに必然性のある濡れ場を入れるということですからな。ただヤッていればいいAVとは違います」
寅衛門「なるほど、プロットを作り込まないと破綻するな」
寅吉「作者はこれを参考に、ある一定文字数ごとに濡れ場を入れてそれに必然性を付与するストーリを作る、という方法で『千鳥』を書き始めました」
寅衛門「(そろそろ具材の準備をするか)」
寅吉「まずストーリーの基本である起承転結を設定し、その節目ごとに濡れ場を入れるという方法です。起(濡れ場)承(濡れ場)転(濡れ場)結(濡れ場)」
寅衛門「…なんか頭悪いライトノベルを読んでいる気になるな、この文字列」
寅吉「作者曰く、けっこう捗ったそうです」
寅衛門「(冷凍のシーフードミックスと、あとは鱈でいいか)」
寅吉「そして濡れ場にも起承転結を」
寅衛門「あ?」
寅吉「作者が得意とする知識の無駄遣い、フロイトの心理性発達理論をモチーフにしたそうです」
寅衛門「ここでまさかのフロイト」
寅吉「フロイトは人間の精神の発達段階を五段階に分けました(wiki)」
寅衛門「何か聞いたことあるな」
寅吉「乳児期の口唇期に始まり、Analen Phase、ödipalen Phase、潜在期そして思春期」
寅衛門「途中ドイツ語なのは」
寅吉「察してください」
寅衛門「…それをそのまま」
寅吉「はい、文字通りそのまま。つまり、起(口唇期)承(Analen Phase)…」
寅衛門「いや、全部言わなくていい」
寅吉「多少は調節した、と作者は言っています」
寅衛門「なんというか、公開停止も必然のプロットだな」
寅吉「そうですなあ、ただ、濡れ場を別のシーンにすれば非常に汎用性の高いプロット作成法になります。たとえば、濡れ場を何か印象的な背景に変えるとどうなるか」
寅衛門「主人公の思い入れのある場所とか、物語のモチーフとなる心象風景とか、あるいは強調された会話とか、思い出とか、それこそ神話・伝承など、互換性のある要素はいくつかあるな」
寅吉「そういった要素が、定期的に物語の中で繰り返されることによって、ストーリーにリズムと深みを与える、そう作者は考えております」
寅衛門「…日ポの真髄か」
寅吉「実際、日ポからその後の日本の映画界で活躍した映画監督が多数輩出されています」
寅衛門「日ポの真髄はプロット作りの基本でもあった、ということか」
寅吉「10分に1回の濡れ場、という縛りが」
寅衛門「…うーん」
寅吉「まあ、プロット作成方法なんて人それぞれですから、ここの作者にとっては日ポ形式が使いやすかった、ということでしょう」
寅衛門「『風浪』のプロットにもその日ポ方式が見え隠れしているな」
寅吉「日ポ方式は作者にとってプロトタイプ、『風浪』はさらにそのプロット作成方法を改良しています」
寅衛門「ほう、と言いたいところだが、ここで一回鍋を火から下ろして具材投入の手順に入りたいのだが」
寅吉「分かりました。続きは、では後編で」
寅衛門「うむ」
寅吉「殿、肉球、熱くないですか」
寅衛門「そう思うなら手伝え」
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