第13話 祟り

あれから15日程の時間が流れ現在…。


 妖魔を狩り続けるシュラは一切の疲れを見せず戦いに明け暮れ、妖魔をまさに鬼の如く殺し尽くしていた。


 その結果、想定外の事態が起こり今に至る。




 …




 オオオォン……。




 デイダラボッチ…気づいたときにはすでに遅く俺は巨大な妖魔。


 デイダラボッチとなってしまった。


 シュラによれば妖魔を倒せばその倒した個体の妖気をわずかにではあるが吸収する事ができるらしい。


 妖気を集めればそのぶん強くなる。


 だが…集め過ぎれば暴走が起こりデイダラボッチと呼ばれる液体の様に見えるほどの妖気に包まれた個体が出来上がる。


 その個体は妖気を求め、さまよい自分以外の生物を吸収し、まるで雪玉の様に大きく成長していく。




 そして今、それが自分の体に起こっている。


 シュラそして俺は意識も無くさまよい妖魔を襲い飲み込んでいく。


 陰は闇の力、憎しみ怨み嫉みを喰らい成長する。


 最初こそは小さな存在だった。


 しかし…黒い霧を封ずる結界を抜ける時には山よりも大きく天に届かんとするばかりの大きさ。




 餓鬼…倒し殺した者のスキルを喰らい力(妖気、魔素)を喰らう。


 また周囲の空気中に存在する力も例外では無い。




 …




 カンカンカンカン




 丑三つ時。


 金属と金属のぶつかる音が街を包み人々はその音に起こされ武器を手に取り外へと出る。


 ここは、城塞都市 不楽。


 神に見捨てられた地より現れる強力な妖魔から人里を守護する為に作られた大砦。


 これまでクラス壱の妖魔を数度も退けて来た難攻不落の砦なり。




 人々はいつも通りといった具合に各家々から飛び出し今回の獲物を見据えた。


 鐘が1度鳴ればクラス参


 2度鳴ればクラス弐


 そして鳴り続ければクラス壱




 今回はそのクラス壱。


 最高クラス、小国なれば滅ぶ可能性がある危険度だ。




 「今回はなんだ?


 狼か? 百足か? まさか大鬼じゃなかろうな…」




 これまで様々な魔物と対峙して来た不楽ではあるがその中でも一番の被害は大鬼の出現だった。


 浅い傷ならすぐに再生し、弱い攻撃は通さない。


 そしてあの巨体ならではの怪力。




 大百足は硬い装甲に守られているが早いだけだ。


 鎧通しと呼ばれる打撃技で撃退できる。


 だが大鬼は違う。


 素早く怪力があり硬く。


 おまけに馬鹿げた再生能力、何よりも武器を扱う厄介さ。


 奴を倒すのにどれ程の犠牲を払ったものか…。




 …




 黒き霧の中から現れたのはその大百足だった。




 「よし、百足専門の部隊を連れてこい。


 囲って終わりだ。


 砲兵の出番はお預けだな」




 見張りは鐘を2度鳴らそうとした時。


 奴は現れた。


 デイダラボッチ。


 国造りの神と称される程の妖魔。


 通常の人生において見る事は1度。


 それも一軒家程の大きさの物だ。


 だが現れたデイダラボッチはそれを優に超えている。


 街を見下ろす存在。




 開いた口が塞がらなくなった。


 頭が混乱する。


 今すぐ砲兵に連絡、全員を叩き起こして…。


 だが…本能的に分かってしまう。


 この存在はいくら策を練ろうと、どれだけ人がいようとも、ましてどれ程の砲台や技術があろうとも。




 「勝てねぇ…」




 …




 「次の砲弾を急いでもってこい!!」


 「避難した方がいいのでは!?」


 「我らが逃げたらあいつは誰が倒す?


 ここを抜けた先にある人里への被害は?


 我らが守るのだ!!


 この地で!」




 不楽では怒号が飛び交い砲弾の音がやまない。


 地上部隊は刀を抜き構えるが相手との力の差、規模に押され近づく事すら出来ずにいた。




 オオオオン…




 砲台から放たれる玉も効かぬようでそのまま直進してくる。


 その進みは止まる事を知らず遂には砲台を飲み込み街へと侵入した。


 家々がその騒ぎで燃え飲まれていく。




 「もう…終わりだ…」


 「こんな化物…勝てるわけねえよ」




 人々が諦めの言葉を言う中 一人。


 まだ心が折れていない侍がいた。




 「皆さん、下がって下さい。


 私が戦います」




 明るく輝く名刀、蛍丸を携え彼女は山よりも大きな妖魔に立ち向かう。


 人の阿鼻叫喚に目を閉じ耳を済ます。




 この妖魔をこのまま放置すればどれ程の悲しみが生まれるのだろうか。




 「我が名は、ホタル。


 祟り神となる前はさぞ名のある神であったと見受ける。


 だが!この先へ通す訳には行かぬ。


 ここから先へ行きたくばこの私を倒してから行かれよ!!」




 極刀25工が一つ蛍丸…。


 刀は大太刀…その刀身は陽の力を秘め、蛍の如く輝く刀。




 これまでに数多くの妖魔を仕留め鎮めてきた。


 だが…この敵は…。




 「蛍火! 爽昧(夜明け)!!」




 光輝く斬撃が放たれデイダラボッチを襲う。




 オオオオオン…




 揺らめき、遂に立ち止まった。


 行ける…。


 ホタルは再び蛍丸を構え斬撃を放つ。




 負けられない。


 ここで私は負ける訳には行かない!!




 空中を蹴る事で飛び、斬撃を放った時。


 大きな手のひらが彼女を襲った。


 その一撃は強大で体が吹き飛ぶのが刀で防いだ瞬間に分かった。




 「あぁ…」




 『先生!!』


 『剣術をもっと教えて!!』


 『先生! ホタル先生』




 子供達の笑い声…私を呼ぶ声が聞こえる。




 立て!! 立ち上がれ!!


 守るんだ!!




 そう自分に言い聞かせ立ち上がる。


 体中が痛む…。


 ここは家の中らしい。


 吹き飛ばされ屋根を突き破り止まった。




 外に出て奴を見やる。




 「蛍火!!………」

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