第2話


 私と同じ学年で二組の櫻井蒼波(さくらい あおば)十七歳。


 理系の進学クラスで、趣味はスポーツ全般と、楽しい事。その中でもサッカーが一番好き。だけど帰宅部。


 得意な科目は数学で、好きな科目は英語らしい。そして将来の夢は、グローバルに羽ばたくこと。


 ここまでが、私が覚えるまで櫻井が呪文のように唱えてた自己紹介。


 一年の冬に、ここでぼーっとしていた私に声を掛けてきた人。

 

 そして今日もまた。


 櫻井は、昨日と変わらない笑顔で、片手を挙げてやってきた。





 私と彼は、ここで同じ会話を繰り返す。





「好きなんだけど」


「うん、ありがとう」


「付き合って」


「ムリだよ」


「なんで?」


「まだ恋愛したくない」


 ーー本当は私だってしたい。


 でもやっぱり無理なんだ。


「まだダメかー」

 


 


 そして櫻井は別の話題を持ち出してくる。


 最初こそ驚いて動揺しまくった私。


 だけど、それが数ヶ月も続くと、一種の挨拶の様になってしまった。


 今日も内容のない話をしばらく続けた後、ふと気になったことを聞いた。


「櫻井の名前って草冠の方の『あお』と海の波の『なみ』であおばだっけ?」


「なに、急に。そうだよ」


 人懐っこい笑顔は犬みたい。

 

「うん。名前は素敵」


「名前は、って……」


 櫻井は拗ねた様な表情をした。


 櫻井の表情は、私と違って豊かに変わる。


「なんか、海と陸の両方を手に入れたような感じで少し羨ましい」


「そう?」


「うん。『蒼』って草の色を表すあおだし、波は文字通り海を想像するし」


「初めて言われたってそれ。そこまで人の名前の漢字読み解く?」


 二人で笑い始めた時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。



 そうして私達はいつものように別れた。


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