第16話 10月に読んだ本
私は食べ物のお店で働いているんですが、この前、店長さんに
「ごめんね。ちょっとセクハラするね」
と言われました。
え?セクハラ??
何事?と思っていたら、背中にお店のシールがくっついていて、それを取ってくれたんです。
セクハラ…って多分、シールを取る時に背中に触るから…ってことですよね。
100%の善意なのに、今はこうして一言添えないと誤解されるかもっていう心配があるってことなんだな…と、世知辛いというか、なんとも大変だなぁという気持ちになりました。
優しさはそのまま優しさとして受け取りたい、そう思います。
でも、きっと、いろいろな問題もあるからこういうことになるんだろうな…とも思いました。
そんな10月に読んだ本は
「太陽と豆のパスタ」宮下奈都さん
「木になった亜沙」今村夏子さん
「ツナグ 想い人の心得」辻村深月さん
「のび太の月面探査記」藤子•F•不二雄さん/原作、辻村深月さん/著
「燃えよ剣(上)」
「燃えよ剣(下)」司馬遼太郎さん
「銀二貫」高田郁さん
「おしまいのデート」瀬尾まいこさん
「いなくなれ、群青」河野佑さん
「大正浪漫」NATSUMIさん
「罪の声」塩田武士さん
「フランスの小さくて温かな暮らし365日」トリコロル•パリ(荻野雅代さん、桜井道子さん)
の全部で12冊です。
その中でも特に心打たれたのは
「ツナグ 想い人の心得」「いなくなれ、群青」「罪の声」の3冊です。
「ツナグ 想い人の心得」
前作「ツナグ」から7年後、高校生だった使者(ツナグ)の歩美くんも社会人になりました。
たった一度だけ、死者との再会を叶えることのできる「使者」の5つの物語。
亡くなった人と再会することで伝えられる事も、逆に伝えてもらえ初めて心に届く数々の想いも、その人自身を写す鏡のようでもありました。
その中で私が1番心を打たれたのは、表題にもなっている「想い人の心得」です。
戦後まもなく16才で亡くなった京都の料亭のお嬢様、絢子さまとお店で働いていた男性、蜂谷さんとの再会の物語です。
蜂谷さんは40才から数年ごとに使者に絢子さまとの面会を依頼しています。
ずっと絢子さまに断られ続け75才となった今回、やっと面会を受け入れてもらえました。
蜂谷さんは使者に打ち明けます。
「お慕いしていました。恐れ多くも、それは今でいうところの『恋』だったと思います」
だけど、それは自分の気持ちを押し付けるだけのものではありません。
将来、許嫁とする結婚を嬉しそうに話していた絢子さまを
「不思議なのですが、なぜか私まで嬉しいんですよ」
と当時の気持ちを語ります。
自分の好きな人が自分以外の人と結婚する。
普通に考えたら身を引き裂かれるように辛い筈ですよね。
絢子さまとの面会を希望するのも「分不相応なお願い」だと、何度も口にします。
自分の願い、希望を持ち、それを口にすることが当然の権利だと考える現代。
そんな現代とは違う心のありようの中で、蜂谷さんは生きてこられた方なんだ、と思いました。
どんな時も、ただひたすらに絢子さまの喜びを自分の喜びとする姿に、胸がいっぱいになりました。
面会の願いさえ、自分のためではないんです。
泣きながら読み終わり、今はすっかり好々爺となった蜂谷さんが、大好きになりました。
「いなくなれ、群青」
全6巻の階段島シリーズの第1巻。
最初の第1巻、まだ、シリーズの始まりだというのに、その世界の完成度に心を奪われ、ほとんど一気読みでした。
捨てられた人達が送り込まれる島、階段島。
島に来る前の一時期の記憶は消されています。
島を出られるのは、それぞれの「失くしたもの」を思い出せた時だけ。
島の秩序を守るのは、島を象徴する遥かな階段の上にいる魔女。
徐々に明かされていく、この島の存在する理由。
タイトル「いなくなれ、群青」この意味にたどり着いた時、胸が痛くて、苦しくなりました。
主人公、七草くんの心を通して見る世界は、諦めることで得られる平安で成り立っているように思えます。
綺麗なものは綺麗なまま、側にいないからこそ、遠くにあるからこそ、ずっとそのままあり続けることを信じていられる、願っていられる。
あくまでもその美しさを、美しくあり続けることを愛しています。
でも、それは寂しい、と私は思ってしまいました。
だけど、七草くんの訴えるような、叫んでいるような心の声を聞いていると、彼がそう思うのも理解できて…
だからこそ哀しくて、寂しくて、胸が痛くて、でもそう願うことこそが七草くんなんだなぁ…って。
相対する2人。
理想が異なる、価値観の異なる、楽園を共感できない真逆な2人。
でも全く異なる2人だからこそ、真辺由宇さんの美しさが七草くんの手を掴んだ。
掴んで2人で進む事を選んだ。決めた。
これからのシリーズ全て、それぞれに「色」にまつわるタイトルがつけられています。
その物語を象徴する「色」そして、その色に繋がる強い想いなんだと思います。
そこにどんな意味が込められているのか、これから知っていける事が楽しみです。
「罪の声」
30年以上前、日本中を震撼させた「ギンガ・萬堂事件」
年末の特別企画として特集するため事件を追う新聞記者、阿久津瑛士さん。
父の遺品から幼い自分の声で吹き込まれた事件の脅迫のカセットテープを見つけた曽根俊也さん。
それぞれの思いから事件の謎を追う2人。
その歩みが重なり、あまりにも哀しい真実に辿り着いた時、粉々に砕かれた子供の人生に、なんとか未来に繋がる希望を願わずにはいられませんでした。
本の巻末に、この作品はフィクションであること、でも、モデルにした「グリコ・森永事件」の発生日時、場所、犯人グループの脅迫、挑戦状の内容、その後の事件報道について史実通りに再現した旨が記されています。
実際に昭和の時代に起こった日本犯罪史上類をみない劇場型犯罪。
関西弁での小バカにするような警察批判、マスコミの心理の巧みな活用、大量消費社会の盲点、全ての人が運さえも味方につけたような犯人グループに踊らされ、翻弄されます。
現代とは監視カメラも通信手段の普及も格段に差があり、なおかつ、都市化が進みそれ以前のように隣近所が密接に関わっていた時代でもない。
まさに時の狭間にできた、この時だったからこその完全犯罪でした。
すごいと思いました。
実際の事件のディテールを使い、ここまで物語を組み上げられるなんて…!
この、子ども達が巻き込まれてしまった事件を、人生を粉々にされ奪われた子供達がいる、なんとしてもここのままでは終わらせたくない、そんな作者さんの心の奥底からの悲痛な声が聞こえてくるようでした。
光がいろんな方向からただ一点を目指して集結していくように、求めて、求めて、求めて、真実にたどり着いた時の、真実のその先に見た事実の虚しさに顔を覆いたくなりました。
事件に利用された3人の子供達。
その後の人生には天と地ほどの差があり、まだ未来を見れる可能性が僅かながら残されていた事が、せめてもの救いでした。
余談ですが、以前、エッセイでも話題に出てたYOASOBIの初有観客ライブのファンクラブ限定チケット抽選に当選したんです!
倍率は21.9倍だったそうです。
ikuraちゃんの歌声を生で聴けるなんて!今から12月のライブが楽しみです。
どうか、コロナで中止になりませんように…!
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