第13話 8月に読んだ本

今月もカクヨムからの書籍化の作品「グレンデールの祈り」を読むことができました。


この作品は私の好きなカクヨム作家さんのお一人であるウタさんが「すごく良かった」と教えてくださった作品です。


私は「死」をテーマにした作品を読むのを少し躊躇う時があります。

だから、ウタさんが感想を伝えてくれなかったら、きっと手に取らなかったと思います。


ここであらためてお礼を言わせてください。

ウタさん、素敵な作品に出逢わせてくださって、ありがとうございました!


ウタさんは、いろんな事情を抱かえた子供達が、時に絶望感と戦いながら、理不尽さに打ちのめされながら、それでも必死で生きている物語をいろいろと書いてみえます。

幸せの形、救いの方法は一つだけではないという事を私も自分に問いかけながら読んでいます。


1番新しい物語は「いらない存在」として捨てられた子供たちが集められた不思議な島のお話です。

謎だらけの島の姿が徐々あきらかになっていく様は、怖いけど、残酷なシーンもあるけど、ラストまで読み終えた時、また違うものが見えてきます。

私も泣きながら読み終えました。

子供達の哀しい記憶、残酷さの奥にある子供達の切なさや優しさ、健気さ、儚さ、強さ…


この物語の世界に張り巡らされた伏線が一つ一つ回収され真実に辿りついていく様は圧巻!お見事としか言いようがありません。

私も読み返したりしながら謎を一生懸命考えました。


ウタさんの物語「hell」

https://kakuyomu.jp/works/16816452221114354351

1人でも多くの人に読んでもらいたい。そう思います。


そんな8月に読んだ本は

「水底フェスタ」

「サクラ咲く」辻村深月さん

「センセイの鞄」川上弘美さん

「花束みたいな恋をした」坂元 裕二さん、黒住 光さん

「レゾンデートルの祈り」楪 一志さん

「これは花子による花子の為の花物語」木爾チレンさん

「家守綺譚」梨木 香歩さん

「こちらあみ子」今村夏子さん

「あきない世傳 金と銀(十一) 風待ち篇」高田郁さん

「リカ」五十嵐貴久さん

「ことばと Vol 1」書肆侃侃房さん(出版社)

の小説10冊と文芸誌1冊。


特に好きだった作品は「レゾンデートルの祈り」「こちらあみ子」「「あきない世傳 金と銀(十一) 風待ち篇」」です。


「レゾンデートルの祈り」

安楽死が認められている未来の日本。

安楽死の申請にはいくつかの条件があり、その中の一つに「人命幇助者」(アシスター)との面談が義務付けられています。

「死にたい」のその奥にある微かな、あって欲しいと願う「生きたい」という想い。

死ぬことを選んだ人達と、生きる事の光を見つけたいと願うアシスターの物語です。


私は、自ら死を選ぶという事は人の思いより自分の気持ちを優先した結果だと思っていました。

苦しい気持ち、悲しい気持ち、絶望。

そう言った気持ちからの解放を切実に願い、心が支配され、自分を愛してくれる人の悲しむ思いに心が至らない…そんなふうに思っていました。


例え、愛する人がこの世にいなくても、その人が喜んでくれる生き方をするべきだ…それが相手を大切に思うことになる、そう思っていました。

「愛してる」の一歩は「喜んでもらいたい」だと思うから。


それも間違いではないと今でも思っています。

でも、物語の後半、私はずっと自問自答を続けていました。

そもそも、もし、愛する人自体がいなかったら。大切に思う人が1人もいなくて、自分の命が消えても、それを知る人もいないそんな孤独。


「死ななくてもいいと思える人間になりたかった」

こんな胸が張り裂けそうな言葉を心の奥に持たなければならなかった哀しみ。苦しみ。

その思いに至るまでの辿ってきた道のり。

簡単に一つの答えを出せませんでした。


私もアシスターである眞白さんと一緒に考え続け、そして、眞白さんの心を通して同じ想いに辿り着きました。


読み終えた時、心の中に青空が広がるような、その青空を見上げているような、そんな気持ちになりました。


「こちらあみ子」

「花束みたいな恋をした」で主人公の2人が価値観の象徴のように話題にしていた「ピクニック」

この「こちらあみ子」に収録されていたので読みたくて読みました。

でも、私は「ピクニック」よりも表題作の「こちらあみ子」が心に刺さりました。


物語の冒頭、あみ子ちゃんの友達として小学生の女の子が登場していたので、てっきりあみ子ちゃんも同じくらいの小さな女の子だと思いました。

2人のやりとりは可愛らしくて、微笑ましくて、一気にこの物語が好きになりました。


でも、読み進めていくとどんどん印象が変わっていきます。

あみ子ちゃんは少なくとも中学を卒業した女の子であること。

知的障害なのか、発達障害とかなのか…詳しくは語られていないけれど、明らかに学校生活にも、世の中にも馴染めていません。


中学で1番多くかけられた言葉は「おはよう」でもなく「きもちわるい」

でも、あみ子ちゃんは「キモい」という言葉も聞き流します。


その酷い言葉を聞き流し、傷ついた描写もなく平然としているあみ子ちゃんの姿に、悲しいのにホッとしました。

この言葉に宿る冷たい蔑む気持ちが、あみ子ちゃんの世界に届いていない事を切実に願いました。

あみ子ちゃんの世界を傷つけて欲しくない、そう強く思いました。


あみ子ちゃんの世界に悪意はありません。邪気がないんです。

嘘もなくて、気持ちを抑えられなかったり、行動がズレていたり突拍子もなかったりするけれど、その一つ一つにちゃんと意味があるんです。


あみ子ちゃんの世界には素晴らしいものがたくさんあるのに、他の人は見ようとしない、だから知らないだけなんです。


もし現実に、あみ子ちゃんのような人に出会った時、私はもうただ単に「変わった人」とは思えません。

その人の中にもかけがえのない、その人だけの世界が広がっているんだと、そう思うと思います。

忘れられない物語となりました。


「あきない世傳 金と銀(十一) 風待ち篇」

半年に一度のお楽しみ。

江戸時代の呉服屋さん(紆余曲折があり、今は呉服(絹)は扱えず太物(木綿)だけのお店となってます)の大好きなシリーズです。

11巻の今回もとっても感動的でした!


大火、阿漕で非道な仕打ちもありました。

でも、それらに屈する事なく、己れは神仏の定める「則り」に従いひたすらに努力に邁進する姿は美しく、涙が出てきます。


自分だけ、利益だけ、今だけ、というのは儚いものだと思いました。

長い目で見たら、人の心にも、縁にも、結局は利益にも、残るものは気持ちの良いものは何もありません。


毎回、読む度に心が洗われていくような物語です。


前回のエッセイで登場した「ことばと Vol 1」も読み終えました。

又吉さんも参加されていた対談が面白かったです。

そっかぁ、こういう気持ちで物語が生まれてきたんだなって。

又吉さんの作品はまだ読んでないから、今度読んでみたいな…と思いました。


載っていた短編は結構ハードな(…だと思うような…可愛らしい表紙からは思いつかないような…一筋縄ではいかないような)物語が多かった印象でした。

ちょっと好みとは違ったけど興味深い読書体験でした。


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