第26話 文化祭当日
長い長い会議が終わり、出し物については無事終了した。
ちなみに僕たちの出し物はちょっとしたゲームコーナー……という名のカジノだ。
最初はちょっとしたボール遊びでいいんじゃないかと思っていたのだけれど、周りの圧に負けてこうなってしまった。
だけど、むしろ実行委員の仕事はここからが本番だ。
それを知らしめるかのように、場所の選定、クラスからスタッフの選定や、プロを雇うのであれば彼らへの交渉などなど……。
僕たちもカジノみたいなものになってしまった以上、そういった経験のある人たちから話を聞かないといけない。
……今回みたいに未成年だとどうにもできないタイプの人であれば、先生にちゃんと伝えれば向こうが代行してはくれるのだけど……。
「……ここからが大変だね」
爐さんは、それにこくりとうなずくのだった。
◇ ◇ ◇
それから数日後。
僕は今日もヘトヘトの状態で家に帰っていた。
ナメたつもりで入ったわけではなかったのだけれど、レベルが違った。
ディーラーの人からの講習や、そのしぐさ、そしてスケジュールの調整。
これらを取りしきりながら、選んだ場所で(ちなみに僕たちは普通に自分たちの教室になった)行えるようにレイアウトの設計……。
わかっていた。確かにわかっていたつもりでいた。
けれども実際は、その予想をはるかに超えるレベルでにいろいろなことをしなければならなかったのだ。
『疲れた』
取り繕う余裕もなく、スマホに今の気持ちそのままを打ち込む。
するとすぐに返信が返ってきて、
『私も』
と白石さん。
今回の仕事はまだ秘密らしいのだけど、中々ハードワークらしい。
なんでもほかの仕事とダブって放り込まれているらしく、ムリとまでは言わないものの疲れる状態なのだとか。
『大丈夫?』
『大丈夫。マネージャーもそこらへんフォローしてくれているしね』
『それじゃあおやすみ』と、白石さんからメッセージが届く。
それに返信を返して、僕は部屋の電気を切った。
……時計を見ると、しっかりと日をまたいでしまっている。
「これは明日大変そうだなぁ……」
――眠ろうと目をつぶっていると、いろいろなことが頭に浮かぶ。
白石さんのこともそうだし、文化祭のことも。
……文化祭に臨もうとする先輩たちの姿は、とても勇ましいものだった。
自分たちで一から計画し、準備し、実行する。
どれもこれもとても大変なことなのに、彼らは嫌な顔ひとつせずそれらを実行していった。
同級生の子にもそう言った人はいるのだけれど、先輩たちは彼らと比べてもやる気に満ちている。
僕としてはとても不思議で、思わず彼らに聞いてしまったほどだった。
中学までの文化祭で、そんなに本気を出した覚えはなかったから。
「――そうか、なんでそんなに本気を出すのか、か……」
「……僕は、みんなが喜んでくれるから。そしてそれ以上に、自分が楽しいから、かな」
……目からうろこが落ちる思いだった。
自分のためにやる。そんなのは古今東西ありとあらゆる場所で語られている言葉だ。
だけど、それを本気でやっている彼らが語るだけで、これほどまでに説得力が増すのだと、僕は知らなかった。
彼らの目は、そしてやっている行動は、確かに自分のために、そして他人のために頑張っているものだったから。
(自分のため、か……)
彼らの頑張りを見た。
爐さんが必死に食らいついていく光景を見た。
「……ああなってみたいなぁ……」
口をついて言葉を、どこか不思議に思いながら、僕はゆっくりと眠りにつくのだった……。
◇ ◇ ◇
あれからさらに数日後。
時間が経つのは早いもので、日付はもう文化祭の当日になっていた。
僕たちのクラスの出し物へと、いろいろな人が入ってくる。
僕の役割は、ポーカーにおけるディーラーだ。
ポーカーとはいうものの、いわゆる
ゲームは複数人で執り行い、それぞれが2枚の手札を持つ。
そしてそれぞれがチップを出し、場に出ている一番高いチップと同額を出すか、そのゲームを降りるか、はたまたチップの額を引き上げるか、それを選ぶ。
最初のターンが終わると、最初は場に3枚、そのあとは1枚ずつの、合計5枚、共通の手札が出され、そしカードが出されるたび、先ほどのチップのターンが挟まれる。
最終的には場のカードと手札のカード、合計7枚から好きなカードを5枚選び、それぞれの役を一斉に見せるという内容だ。
チップは最後までゲームに残っていたひとりか、はたまた最も高い役を出した人間に渡され、次のゲームが続行する……といったルールになっている、らしい。
今回はあまり長くいられてもほかの人ができなくなってしまうので、それぞれにチップを渡し、5ゲームを一回として、最後に一番チップが高かった人が勝利というルールとさせてもらっている。
このゲーム、ディーラーがやることはカードを切ることとチップ渡しの手伝い、そして場にカードを出すことしかしないのでかなりありがたい。
やることが単純だしディーラーがゲームに参加しないので、心理戦とかそう言ったことを一切しなくて済むのだ。
……なんてことをやっていたら、スタッフ交代の時間になった。
次のスタッフたちに軽く会釈をしながら、僕は体育館へと向かった。
「ああ、そういえば約束があるとおっしゃっておりましたね」
「うん、ごめんね」
「いいえ、私こそ多く頼んでしまいましたから……それでは、気をつけて」
実は文化祭の数日前に、白石さんからメッセージが届いていたのだ。
内容は簡素で、「文化祭の当日、お昼ごろに体育館へと向かってほしい」というものだった。
……まあ正直、文化祭当日の体育館でなにが行われているのか、そして彼女はなにをしているのかを考えると、大体予想はつくけれど。
とはいえ、白石さんが直接誘ってきてくれたのはうれしい。
指定された時間も、ギリギリではあるもののフリーだったので断らなくても済む。
そんなわけで、僕は今体育館へと向かっているのだった。
「……よし、まだ大丈夫そうだな」
やけに静かな体育館前にたどり着くと、ゆっくりと扉を開ける。
ゆっくりと、慎重に――
『キャアアアアアアアアアアア!!!』
『ウオオオオオオオオオオオオ!!!』
「うわっ!」
突然、体育館の中の生徒たちが騒ぎ出す。
すさまじい声だ。耳の中がキンキンして仕方がない。
耳を必死で抑えながら、なんとか体育館の中へと入る。
そこでは――
「みんなー! おはようっス!」
「今日はサプライズ! 楽しんでいってね!」
――ギャラクシーズ! の6人が、体育館の壇上できらめていていた。
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