第10話 いつものデートと爆弾発言
マブカでの出来事冷めやらぬある日。
僕は白石さんと一緒に、部屋でゲームを遊んでいた。
あれ以来、白石さんは僕の部屋がお気に入りになったみたいで、よく出入りしてきている。
一度身バレとかは大丈夫なの? と聞いてみたのだけど、「大丈夫!」と自信満々で言われてしまったので、たぶん大丈夫なのだろう。
実際、今のところ僕と彼女が付き合っているだとか、そういった話は全然入ってこないし。
「新曲、とってもよかったよ」
必死にモンスターを倒しながら、白石さんに話しかける。
ちなみに今日やっているのは、モンスターの生態系を調査する「モンスターレンジャー」の新作だ。
敵は現状トップクラスのモンスター。
互いに初見というのもあって、中々の苦戦中だ。
「そう? ありがとう」
ひるんだ隙にモンスターをチクチクと斬りながら、白石さんは笑った。
実はちょっと風邪ひいてて、うまく声でるか心配だったんだよねー、と付け加える。
「あー、だからちょっと声がこもってたんだ」
「そうそう。でも今回は切ないバラードだったから、怪我の功名ってやつかね」
そんなふうにだべっているうちに、モンスターが倒れていった。
簡単そうに言ってはいるものの、制限時間まで後1分と、中々の激戦だったりする。
「っふぅー、疲れたー」
「おめでとう、白石さん」
「そっちこそおめでとう」
僕もちょっと疲れていたので、ここで休憩にしようとゲーム機の電源を切る。
さっきまで明るかったモニターが一瞬で真っ黒になる。
そこにはすっかりたるみ切った僕たちの表情が。
「……フフッ、白石さん、アイドルなのに何その表情」
「そっちこそ、なんなの鼻の下伸ばしちゃって。このスケベ」
「ス、スケベなんかじゃ……!」
「はいはい。スケベはみんなそういうんですー」
「そ、そんなの見てみないとわからないじゃん!」
「サンプルは黒木くんしかいないけど、それくらいすぐにわかるよ」
ひとしきりじゃれあったら、とりあえずお菓子の時間だ。
今日は白石さんがオススメのスイーツを用意してくれるということで、僕はちょっと奮発して、わざわざスーパーでトワイライトの紅茶を買ってきたのだった。
……の、だけど。
「……たい焼きだね。それ」
「……うん。そっちは紅茶だね。それ」
白石さんが持ってきたのは、シンプルイズベストと言わんばかりのたい焼きだった。
羽もなく、白いわけでもない。しかし均等に焼かれたその姿は、確かな高級感を伴っていた。
一方の僕はトワイライトのアールグレイ。
紅茶のことは全然知らないけど、英国王室御用達という説明文と、アールグレイというちょっと高そうな響きに惹かれて買ってきたのだ。
どちらも問題はない。
ないのだけど……。
「……めちゃくちゃミスマッチだね」
そう。問題はとてつもなくミスマッチということだった。
こちらは洋であちらは和。
一品一品はともかくとして、これを組み合わせるとなると……。
「……別々に食べようか」
「そうだね」
そうして、僕はミネラルウォーターを探しに台所へと向かうのだった……。
◇ ◇ ◇
「ふー、おいしかった」
「たい焼き食べたあとの一口目はどうなるかと思ったけど、案外悪くなかったね」
たい焼きの袋をゴミ箱に入れながら、白石さんは言った。
白石さんの言う通り、蓋を開けてみればそこまでのミスマッチではなく、新鮮味もあってそれなりに面白い組み合わせであった。
とは言え、これを連続して食べたいかと言われるとNOではあるのだけど。
「さて、と」
白石さんが立ち上がった。
「もうそろそろ、迎えの時間だね」
「……うん」
さっとあらわれては、迎えと共に帰っていく。
最初に家へと招き入れて以来、それが僕たちにとってお決まりのパターンとなっていた。
なんとなく寂しげな空気が部屋を包む。
明日もまた会えるとわかっているのに、なんだか不思議だ。
「……もう! 黒木くん!」
――がばりと、白石さんが抱き着いてきた。
ダンスの練習をしているからだろう、柔らかいと同時に芯のある感触が身体中を襲い掛かる。
「――!!! し、ししっ、白石さん!?!?」
一方の僕はといえば、もうすっかりパニック状態。
視覚、聴覚、触覚、嗅覚。
五感のほとんどを白石さんに支配されてしまっている。
「……えへへ、またキスしない?」
「えっ! そ、そんな急に、な、何回も……!」
「何回もって言ってもさ、まだ2回だけだよ? ダメ」
「そ、そ、それは……」
本当にダメなのか?
僕たちは恋人なのだから、むしろ積極的にするほうが正しいのではないか?
いや、でも、そもそも恋人とは――
「――!」
そんなことを考えていた瞬間、唇へと舌が入り込んできた。
や、や、やわらかい……!
「ん~~! むぁっ!!」
「……フフ、やっちゃった」
いたずらが成功した子どものように白石さんがほほえむ。
なんで強引に、と言いたかったけど、その表情があまりにもかわいらしかったのでなにも言えなかった。
「……せめて、次はちゃんと言ってからやってよ」
「わかったわかった。その代わり、いつか黒木くんからもキスしてよ?」
「……わかった」
あ、もう時間だ。と白石さんがつぶやく。
「もう行かなくちゃ、バイバイ!」
「うん、バイバイ……」
白石さんが満面の笑顔で手を振る。
一方の僕は、赤面した顔を隠すのに必死で、小さく答えることくらいしかできなかった。
玄関から出た彼女の姿が、小さくなっていく――
「――あ、そうだ」
――と思ったら、Uターンしてこちらに戻ってきた。
なにか忘れ物でもしたんだろうか……?
「友だちが黒木くんに会いたいっていうんだけど、今度一緒に会ってもらっていい?」
こっちの車で移動するんだけど、と白石さんは付け加えた。
「え、いいけど、誰?」
困惑しながら答えると、白石さんは言いづらそうに眉を下げた。
「えっとね……赤城、焔ちゃん」
それじゃあね! と空気を切り替えるように叫ぶと、白石さんはそのまま走り去ってしまった。
――そうか、白石さんの友だちって赤城焔さんって言うんだ。
「……ん?」
赤城、焔……?
「…………あ!」
思い出した。
思い出して、しまった。
『――それでは、今度はギャラクシーズ! の皆様に質問です。まずは赤城さん』
『はい!』
赤城焔。
白石さんの所属するギャラクシーズ!
そのメンバーの名前だった。
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