わたしの休日

終電

素敵な休日

眩しい陽の光で目が覚めた。

枕の近くで転がっている目覚まし時計を見ると、今は9時過ぎらしい。

先月からわたしのお城となった、六畳の部屋。ベットの脇にある出窓には、何種類ものお酒や、ラムネの瓶が置かれている。

キラキラしていて本当にきれい。

琥珀こはく色の瓶。浅葱あさぎ色の瓶。あお色の瓶。さくら色の瓶。萌葱もえぎ色の瓶。あい色の瓶。透明の瓶。

そしてなんといっても、このアイスソーダ色のラムネの瓶!

あぁ、本当にきれい。

この瓶たちはわたしの宝物だ。

以前友達にそのことを話したら「変なのー」と口を尖らせて笑われてしまった。

全然変なことじゃないのに。わたしは目の前の瓶を見つめ、心酔にも似た、うっとりとしたため息をつく。

こんなにきれいなものを知らないなんて、なんてかわいそうなんだろう。

でも、わたしはそれから一度も友達にその話をしていない。

たとえこの価値がわからないかわいそうな人の言葉でも、「変」の一言で片付けられるのは悲しいし、わたしの宝物が汚されるようで嫌だ。

今日はこれにしよう、とわたしは先週お父さんから貰った外国のお酒の瓶を手にする。他の酒瓶より小ぶりで、色もすみれ色でかわいいのだ。

「おはよー」

わたしが瓶を片手にリビングへ向かうと、そこにはすでにお母さんがいた。

「おはよう、氷乃ひの。ベーグルとイングリッシュマフィン、どっちがいい?」

「ベーグル!あと、ヨーグルトもつけてね。グラノーラ乗っけて。りんごとかが添えてあったらもっと素敵」

「はいはい、お姫様」

ほどなくしてわたしの席の前のテーブルに、ベーグルとヨーグルトとキウイフルーツが並べられた。

ベーグルにはスライスチーズ、ヨーグルトにはグラノーラが乗ってある。

わたしはキッチンからはちみつを取ってきて、ベーグルのチーズのさらに上にかける。チーズとはちみつは、日曜日と朝寝坊のような関係だ。つまり、相性バッチリ。

わたしがチーズとはちみつのマリアージュを堪能していると、いつのまにかお母さんもその仲間になっていた。

「今日は何をする予定なの?」

ベタベタになった手を拭きながらお母さんが尋ねる。

わたしたちは家族だけれど、休日だからといって一日中一緒に過ごすわけではない。

それもまた、友達によると「変」らしい。

わたしはお母さんと違いまだ子供なので、ベタベタになった手を舐めながら答える。

「今日はボタン屋さんに行こうかな。お母さんは?」

「そうねぇ。本でも読もうかしら。先週から読んでいる本が全然進まなくって。午後になったら明石あかしくんも帰ってくるし。休日出勤だって、さっき出掛けて行ったわ。大変よねぇ」

お母さんはお父さんのことを明石くんと呼ぶ。お父さんもまた、お母さんのことを尚子しょうこさんと呼ぶ。わたしはそれがとても好きだ。

「じゃあ、晩ごはんはみんな一緒だねえ」

「そうねぇ」

リネンのワンピースにコルクのポシェット。その中に入れるのは、財布とレタスとトマト、ベーコンをイングリッシュマフィンで挟んだサンドイッチ。水筒には冷たい紅茶を入れた。わがままな彼女にあげるため、ヨーグルトも小さなタッパーに入れてポシェットに放り込んだ。

すみれ色の瓶はキッチンに置いてきた。そうしているといつもお母さんが洗っておいてくれるのだ。

髪はお母さんに結ってもらう。

おまかせにしたら、長い無造作な髪はいつの間にか一本のきれいな三つ編みになっていた。

靴は歩くとかかとがコツコツと鳴るものを選んだ。お父さんが履く革靴に似ているが、もっと歩きやすい靴だ。

今日はよく晴れているから、歩くのもきっと楽しい。

「いってきまーす!」

玄関の錆びた重いドアを開けながら、部屋の方へと叫ぶ。

「気をつけてねー!」

わたしはお母さんの声を確かに受け取り、ドアを閉め、空を仰ぐ。

今日はいい日になりそうだあ!

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わたしの休日 終電 @syu-den

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