第4話 救済の王

 広場には人だかりができていた、身長が低いせいで何で人が集まってるかわわからないが、町の人が逃げてないからたぶん魔王ではないとおもう


 自分の服装は広場を歩く人々と比べると酷くみすぼらしい、なので視線があまりにも痛い

 自分と同じ位の身長の子でさえ、かなり、まともな格好をしている


 少しすると人だかりは消えいつもの広場になる、そこで目に入ったのは

 自分より少し身長が高いだろうか、銀髪の美しい髪をした少女が町を歩いている、通りを通れば誰もが振り返るそんな美少女がお供なのか、二人を連れている

 一人は少女と同じ髪色をした男の人、その人もかなりの美形だった、まるで物語に出てくる王子様のような

 もしかしたらこの人たちは王族なのだろうか、

 実際に王女様を見たことがないので、わからないが、身に着けている服装はどれも一級品に思われた

 それに、もう一人の従者っぽい女性は

 真っ白な翼を生やしているが、頭上には神々しいリングが浮かんでいる、光りを発する様は翼と比較しても劣らない。

 その女性も他二人に劣らないほど美しい。


 標的はあの人達にしよう、不思議とそう思えた


 しばらく観察していると、なにか食べ物を買う時は男の人が会計をしているようだ、きっとあの人が持ってるに違いない


 人込みに紛れながら正面ですれ違い通り過ぎる瞬間に男の懐に手を伸ばし、袋を掴む、その後は何事も無かったかの様に歩いてその場を去り暗い裏路地に入った。

 路地に入り袋を覗いてみると、銅貨でもなく銀貨でもない硬貨が入っている、これが金貨という奴なのだろうか

 恐ろしくなる程簡単に手にすることが出来た、もしかしたら私には盗賊の才能があるのかもしれない


 袋をしっかりと握り裏路地を走り抜けた、この路地を抜ければ孤児院はもうすぐだ

 少し走ると、進む先の方から光が差し込む

 私達、いや私の生活がかなり変わる、うれしさに口元が緩んでしまう


 だが―――そうは行かなかった


 路地が終わる直前後ろから腕を掴まれる、気付かれていたのかもしれない、と思ったが追ってきていたのは先程の人ではなく前にユウカに助けてもらった時にお金を奪った男達だった


「この間はよくも俺の金を盗んでくれたなぁ、そんなに急いで今度は何を盗んできたんだ?」


 握りしめていた袋を強引に取られてしまう、唯一見えた希望の光が...

 ―――これは天罰なのだろう、人の金に希望を見出した事が悪だというのか...


 男達の一人が袋を開け中を確認し驚愕の表情を浮かべる


「兄貴!!見てくだせぇこれ!」


 リーダーと思われる男が何食わぬ顔で確認し同じように驚愕している


「こりゃあ大金貨じゃねぇか‼1枚で金貨100枚分の価値がある‼それがこんなに...このガキどんな大物相手にしてんだ?まぁ俺等はそいつにあったわけじゃねぇからな全部の罪はお前さんに背負ってもらうとしようか」

「やりましたね!兄貴‼」

「返せ!!それは私の...」


 必死の抵抗も虚しく押さえつけられる、大人に勝てる訳なんてなかった、ならば助けを呼ぶしか無い


「大声出すぞ!!そしたらあんた達なんて!」

「呼びたきゃ呼ぶといい、俺達は盗人を捕まえたって言うだけだぜ?もうちっと品がありゃあ、それで行けたかもしれんがそんな成りじゃ諦めるんだな」

「クズが...」


 その言葉は心の中だけでは収まらなかった、つい、口から零れだしてしまった


「なんだと?」

「あんた達みたいなクズなんか魔王に殺されちゃえばいいのよ!弱い者からしか奪えないあんた達なんて生きる価値なんて―――」

「うるせぇっ!!!」


 乾いた音が路地に響き大きく視界が歪み顔を鷲掴みにされる


「ムカつくガキだが顔は中々上玉じゃねぇか、それにこんなに大金を持ってきてくれたんだ、せめて良い貴族のとこに売り飛ばしてやるよ、せいぜいお前も気持ちよくして貰うんだな。連れてけ」


 徐々に意識が遠のいていく最中男の声が聞こえた気がした。


 ―――どうしてこの世界は弱者にたいして容赦がないんだ...誰か...救いの手を差し伸べてくれてもいいじゃないか...


 ―――そうか...私の手は救われる程綺麗じゃないからか...ごめん...マーシャ―――


 目から覚めると男の人に体を支えられていた、優しく介抱してくれるがどうしてなのだろうか、この人は―――


「はい...大丈夫です...でも、どうしてですか?」

「何故、盗人を助けたのか―――か?」


 この人はさっき私が盗みを働いた人だ、銀色の髪に深紅の瞳、忘れる事なんてできず今でも鮮明に覚えている

 だからこそ素直に謝る


「ごめんなさい...私は...貴方から―――」

「構わん、それにあの金はお前にあげた金だ、ちゃんと持って帰れるか心配で付けてきたんだが結果はこのありさまだったな」


 申し訳ない気持ちで目を伏せる、こんなに優しい言葉をかけてくれているのに、私に返せるものが何、一つとして...ない

 せめて誠意だけでも見せないと身分の低い私は不敬罪で殺されてしまうかもしれない

 小さい頃から教えられているが一度もそうゆうのを目にしたことはない、だからといって決めつけるのは早計だ

 膝をつき、額を地面に擦り付ける、悲しくて涙があふれ出る、こんなことをしてまで生きたいと思う自分が、悔しくて仕方がない...


「顔を上げろ、せっかくのきれいな顔が台無しだぞ、もっと笑ったらどうだ?」

「ごめんなさい...上手く笑えないんです...命まで救っていただいて...それなのに要望にも応えられずすいません...」

「難しい言葉を知っているんだな、うまく笑えない...か」


 男の人が顎に手を当てて考え込んでいる、どうにかして私を笑わせてくれるのだろうか、


「なら、少し協力して貰えるか?」


 男の人の言葉に飛びつく、それは願ってもない事でなにか恩を返せるチャンスを頂けたと言う事、私にできる事なら何でもやる覚悟だった


「私にできる事なら何でもやります!やらせてください!」


 この時初めて男の人が邪悪な笑みを浮かべた気がした


「なんでもか...ならちょっとそこに立ってくれ」


 指示通りに動き建物の壁を背にして正面を向いた

 準備ができたのを確認したのか小声で何かを呟く―――『変更』



 すると体が目を開けられないほどに光輝く、少し経ち光が収まると自分の服装が変わっていた―――変わりすぎていた


 髪はきれいに整えられており太陽の光が美しく反射している、それだけでは収まらず、髪には綺麗な花飾りが付けられていた

 来ていた服も変わっており、みすぼらしい雑巾の様な服から、先ほどの美少女が着ていた様なフリフリなドレスを身に纏っていた

 これほどの服は着た事もないし見たことすらない、それ程の物を今自分が来ていることに、一乙女として興奮しないわけがない


 そしてそれは私だけではなかった、私の回りをグルグルと周り二人してぶつぶつと会話をしている

 童話のお姫様―――そう聞こえ、美少女の顔が近付いてきて、恥ずかしくなり目を伏せてしまう

 天使のような人が気付いたのか二人を止めてくれた―――ふぅひとまずは


「笑えたじゃないか、やっぱりそっちの方が似合うぞ」


 男の人が鏡を私の前に突き出す、鏡を覗くと私は笑っていた、マーシャが居なくなってから一度も笑ったことが無かった私が―――


 自分の笑顔をみてマーシャの事が頭に浮かび涙が溢れてきてしまう―――泣かないって決めたのに...


 私の涙をみて慌てたように男の人が何かを発動させる―――解除だった...


 私が着ていたフリフリなドレスは元々着ていた雑巾のような服に戻っており、髪も少しボサボサになっていた...

 あまりの虚しさに涙が引っ込んだ...そんな...ひどい...こんな、上げておとすような...

 私の心は失意のどん底に堕ちた

 そのどん底から手を差し伸べる声が聞こえた


「お前さえよければ俺の元に来ないか?それに強くなりたいだろ?自分を守る為にも」


 最初に思い浮かんだのは、私でいいのか、こんな孤児院の子供よりも、もっと選択肢はあっただろう、何がこの人をここまで突き動かすのだろうか


「一度、金を持って帰るといい、俺らもこれから少し用事がある、だからまた夜になったら迎えに行く」


 ほんとにいいんだろうか、こんな大金、いったいどうやって稼いだのだろうか、心配で胸が痛くなる


「ほんとうに貰って良いんですか?大金貨をこんなに...さっきの人達は1枚で金貨の100枚分って言ってました...」

「構わん、優秀な子を引き取るからな、お釣りが返ってくるくらいだ、だから気にしなくて良い」


 しっかりとお礼をして、ある事に気付く―――名前を知らない...


「あの...お名前を伺ってもよろしいですか?」

「そういえば名乗ってなかったな」


 服が風に靡き美しい銀髪が風によって広がる―――それは神々しかった。


「俺はグレーステ・シュテルケそれでこっちが俺の妹の」

「キーラ・シュテルケだよ、これからよろしくね」


 少し待っていても天使の人は名乗ろうとはしなかった、どうしてだろうか


 じゃあな、とグレース様が言うと3人は宙に浮かんだ、手を振ってくれるので大きく手を振り返し孤児院の帰路についた

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