第5話 心機一転

 グレース様に、貰った大金貨の入った袋を握りしめ孤児院に着く


 マーシャが居ないだけでいつもと変わらない孤児院だ、このお金があればこの孤児院はきっと生まれ変わる

 私が居なくてもうまく生活出来るだろう。

 中に入り、シャスティー叔母さんに袋を渡すと不思議がりながらも中を覗き驚いた顔を浮かべる


「これを...どこで...」

「グレース様に貰ったの!私これからグレース様と暮らすから―――」


 乾いた音が響く、自分に起きたことが理解できず頭の中が真っ白になった。


「貴方は自分を売ってしまったんです...自分を大切にしなさいとあれだけ強く伝えたのに」

「違う!グレース様はそんな人じゃない!叔母さんはグレース様の事を知らないからそんなことが言えるんだよ!」


「このお金は受け取れません...すぐに返してきなさい...」

「どうして?!このお金があれば孤児院だって救われる!みんなお腹いっぱいご飯を食べれる!どうしてそれがわからないの!叔母さん...信じてよ...」


 どうして信じてくれないのだろう、タミネス姉さんに話をしても似たような反応でまともに聞いてもくれない。

 それが嫌になり私は孤児院を飛び出し叔父さんのお店に向かった。


 お店に辿り着くといつもとは雰囲気の違う叔父さんの声が聞こえてきた


「お嬢ちゃん、あん時はすまなかったな...何もしてやれなくて...」


 叔父さんの話によると、マーシャの棺桶や火葬場を用意してくれたのはこの叔父さんだった。

 なので、叔父さんには感謝しかない、叔父さんのおかげでマーシャを丁重に弔うことが出来たのだから。


 会話の最中に部屋の中を見渡すと、この間までは何もなかった所に大きな剣が飾られていた。

 その剣は、細かな装飾が施されており、うっすら光っている様な気もする。


「気になるか?すごいだろ?あの剣!まぁ貰いもんなんだけどな」

「そうなんだ~」


 食い気味の叔父さんを軽く流し私は叔父さんの言っていた戦争の事を考えた。これ程の剣を貰えるなんてきっと叔父さんは戦争でいい成績を残せたんだろう、私もいつかはおじさんの様に強くなりたい


「それで、今日はどうしたんだ?」

「今日は今までのお礼を言いに来たの、叔父さんには感謝してもしきれないから」

「なんだいそりゃ、まるで最後みたいな口振りじゃないか―――まさか嬢ちゃん...死のうとしてるんじゃない...よな...」


 え?そんなわけがないでしょ?

 驚きはしたが急にこんなことを言い出したら...と思うとおじさんの反応も納得できる、だからしっかりと自分の言葉で否定してあげる。


「違うよ叔父さん、私に修行を付けてくれる人が出来たの!だからしばらくはここに来れなくなると思うの」

「修行か...嬢ちゃん強くなりたかったのか?悪用されたりしないようにな」


 叔父さんは笑って言ってくれたが内心傷ついている様にも見え受けられた。


「それで、誰に修行付けてもらうんだ?相手によっちゃ俺が変わってやるぞ?」


 叔父さんの気持ちは嬉しいが首を横に振る、これ以上おじさんに迷惑をかける事は出来ない。


「大丈夫だよ叔父さん。グレーステ・シュテルケって言う人なんだけど叔父さんは聞いたことある?」

「何!!?嬢ちゃんあの人の元に行けるのか?!―――それは...ちょっと妬けちまうな」

「叔父さんグレース様の事知ってるの?」


 初めての理解者に心が躍ってしまう、鏡を見なくてもわかるほどに私は笑っている


「知ってるも何も、あの剣を俺にくれたのは覇王様だからな、あの人の元に行けるのなら俺の出る幕じゃねえな」

「は、覇王様?!」


 聞きなれない言葉に頭の中で疑問が飛び交う、王族だとは思っていたが覇王とはいったいなんなのだろうか


「あぁ確か別世界の統治者って言ってたな。まぁあの力を目にしたら俺も納得だな」

「そ、そんな人に私...」

「よかったじゃねぇか、あの人の元で修業できたならきっと俺よりも強くなれるだろうよ、がんばんな」


 精一杯頑張ろう、強くなってマーシャを生き返らせる、それが出来ないなら、天国のマーシャにまで名前が届くように強くなろう



 ―――ついつい話が長くなってしまった、あれからグレース様との出会いをお互いに語り合った。本当にグレース様はすごい人なんだ。そんな人が私に未来を感じてくれていることに嬉しくなってしまう


 すっかり辺りは暗くなってしまっていた、孤児院に戻る事を伝えるとどうやら送ってくれるみたいだ、というか...あわよくばグレース様に会いたい。そんな期待で満ちているんだろう


 孤児院に着くと叔母さんとお姉さんが話をしていた、どうせ私のことだろう


「よう、叔母ちゃん!なんだか久しぶりだな」

「ガイルさん...まさかミーシャの言ってた人ってガイルさんですか?」

「はぁ?おれじゃあ遠く及ばねぇよ」

「そうでしたか...あわよくば貴方であればいいと願ってしまいましたよ」

「どうして、グレース様の事を信じてくれないの...」

「なぁ叔母ちゃん、あの人は俺なんかよりも頼りになるぜ?あの人の元に居ればミーシャちゃんは絶対に安全だ」

「そうゆう問題ではありません、10年間共に暮らして居るからこそ私はミーシャを愛しています、だからこそ貴女が悪事に利用されないか心底心配なんです」

「そうゆう人じゃないもん...」

「一度しかあったことが無い人を良くそこまで信用できますね...人とは欲深いものです、人はお金の為であればどんな悪事にでも手を染めてしまいます、それは今の貴女が一番わかってるんじゃないですか?」


 叔母さんのわからずや!そう何度も心の中に吐き捨てた、10年間共に過ごしてきたのなら少しは信用してもらいたい所だ

 それでも、叔母さんの言ってる事は正しい、悔しいが私はお金の為にグレース様から盗みを働いた。でもそれが無ければ出会う事すらなかった。

 でも―――考えるのが面倒になり部屋に一人で入り鍵を閉めた、追ってくる気配はなさそうだ


 窓から外を眺める、外には綺麗な月が輝いており辺りを照らしていた、不意に窓ガラスに自分の顔が映り涙がこぼれる、良くも悪くも私の顔はマーシャにそっくりだ、自分の顔を見るたびに思い出してしまう...

 あの楽しかった日々を取り戻せるのなら...私は―――


 ふと月を眺めると人影が下りてきていた、涙を拭き笑顔を作るが、自分がうまく笑えている自信は無い


「さぁ、行くぞ」


 少し強引に手を引かれそのまま宙に浮いていく。私の体を片手で軽々と持ち上げ私は、グレース様の腕に座らされた、そのまま上昇していき孤児院が米粒ほどに見える高さまで来た


 ―――綺麗だった、燦然と輝く星々に心を奪われる、辺りはどこを見渡しても星が綺麗に散らばっている、

 横目にグレース様を見ると気が付かれたのか優しく微笑んでくれた



「どうだ、綺麗だろ?この景色を見ると自分の小ささが笑えて来る。だろ?」

「はい...とっても綺麗です。私狭い世界しか知らなかったんですね」

「これから、色んな世界を知ることになる楽しんでくるといい」

「世界?この世界じゃないんですか?」

「なんて説明すればいいんだろうなぁ、簡単に言うと、ゲーム感覚で世界を楽しめる世界だ、まぁ詳しい説明はゼルセラにして貰うといい」


 返事をすると瞬時に視点が切り替わる。

 そこはどこかの建物の様で豪華な装飾が施されている


 こんなところに住んでるの...やっぱりグレース様はすごい人なんだ


「着いたぞ、ここは俺の城だがこの扉の先は別世界になっている、まぁ何事も楽しむことだな」


 グレース様が指を差した先には何の変哲もない扉がある、その扉は通路と同様の装飾が施されており特に変わった点は見受けられなかった、ので、思ったことを素直に聞いてみる


「ここで修業するんですか?」


 グレース様が肯定する、それとこの部屋の事を説明してくれた


 曰く、この扉の先は広い草原につながっているらしい、それと一番大事なのは時間加速、この部屋の中の空間はこっちの世界の1時間が1万年程に加速しているらしい

 普通に考えれば私みたいな人間種では1万年という長き時を生きることはできない、グレース様にはなにか考えがあるのだろう

 さらに、この中はげーむ?というものに酷似しているらしく、グレース様はそれ以降は語ろうとしなかった、なんでも自分で冒険したほうが楽しいだろう?との事。


 グレース様が小声で何かを呟くと突如何もない所から老人が現れた、真っ白な髪と真っ白な髭を蓄えたしわくちゃな老人だ、この人を呼んでいったい何をするんだろう?


「シザース、数日前に生まれたという竜と共にこの子の修行を付けてやってくれ」


『シザース』それがこのおじいさんの名前らしい、この人が修行を付けるの!?グレース様直々に指南してもらえると思ったのに、正直かなり心にダメージが入った気がした

 でもそうだよね、グレース様は王なんだもん、修行なんてしてられないよね...何度か自分に言い聞かせ落ち着きを取り戻す


 その間も、シザースと言われたおじいさんが私の体をジロジロと眺めてくる。はっきり言って...気分が悪い...しかも、やけに胸の辺りをジロジロとみてくる。自分の体に自信が無いわけではない、ただ―――

 発育が良い訳でもない、どちらかと言えば妹のマーシャの方が発育が良い、といってもまだ10歳だからシャスティー叔母さん達と比べるとあまりにも貧相だけど...


 何かに気が付いたおじいさんがグレース様に何かを耳打ちしている、ほんとにこのおじいさんに私を預けるのかな...


「中でわからないことがあればゼルセラにでも、聞いてくれ、あいつ、時間ある時いつも中に居るからな、きっと今も中にいると思うぞ」


「畏まりました、では5年程経過したらゼルセラ様に連絡を取らせて貰います。お恥ずかしい話、私は体の時だけを止める事は出来ないので...」

「ん?そうだったのか?わかった、俺からもゼルに連絡を入れておく、それと死ぬことはないから安心しとけ、それとシザース自身の成長も忘れるなよ」

「よ、よろしいのですか?」

「構わん、それより、師匠が弟子より弱かったら何も教えれんだろ?せいぜいゼルにしごいてもらえ、最初の説明はゼルに頼んでおいた」


 なんとなくで聞いていたが、今の会話中にゼルセラ?さんに連絡を取ったらしい?そんな素振り全然なかったけど、相変わらずすごい人だ、きっとゼルセラ?さんもすごい人なんだろう


 少しの間、話をしているグレース様に見惚れていて気が付かなかったが何かが足元でキュピキュピ鳴いているに気が付いた


「うわっ!何この子」

「キュピ――!!」


 足元に居たのは白金の色のトカゲの様なモンスターが居た、目が大きくてかわいい...様な、かっこいいような?

 そもそも、このモンスターは一体?グレース様が飼ってるモンスターなのかな、そう思えばかっこいい様な気がしなくもない


「仲良くしてやってくれ、これから共に冒険する相棒のドラゴンだ、今はまだミーシャと同じく子供だがな」


 へぇー。え?ドラゴン?相棒?!この子と修行するの?!ま、まぁグレース様がそうすべきと言うなら正しいんだろうけど


「さぁ、楽しんで来い」


 おじいさんを先頭に『時空の狭間』の扉の中に入って行く、後ろからついてくるドラゴンがまるで妹が出来たみたいでかわいく思えた。

 ドラゴンと目が合うとキュピ?と鳴くので私は微笑みを返した


 扉を抜けた先は広大な草原が広がっていた、草木は活き活きしており、澄んだ空気が鼻孔をくすぐ


 瞳を閉じて息を深く吸い込み吐き出す。ここから心機一転私の人生は動き出す




 ―――そう、思っていた

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