第3話 決意の聖炎

 目が覚めると体は不思議と軽くなっていた

 ベットから起き上がり家を探索すると見慣れた人影が姿を現す―――ユウカだ。


「おはよう、ようやく目が覚めたんだね」


 ようやくと言う言葉に疑問を持ちながら外を見てみると太陽はすでに真上の位置にまで登っていた

 どうやら、かなりの時間を寝て過ごしたらしい


 ユウカに案内され食卓に向かう、昨日の怒りが嘘みたいに収まってたことに自分自身不思議に思う。

 そんな私を察したのかユウカが問いかけてくる


「不思議なんじゃないの?私に対して何とも思ってない事が、それに今貴女は少しだけど希望を持ってる」


 どうしてわかったのだろう朝起きてから清々しい程に気持ちは綺麗になっていた

 この世界への絶望は希望に代わっていた、それが今でも信じられない、昨日全部吐き出したからなのか、それとも―――


「私の勇者スキルの中に『導く者』というスキルがある、それの影響下で絶望は希望に変わる、これは、貴女にとって良い変化を齎してくれるはず」


 そうだったんだ、天国のマーシャが背を押してくれた訳でもなく、ただ私は勇者のスキルの影響下にあっただけなんだ

 でも、悔やんでも仕方がない良くか悪くか今なら何とかできると思っているマーシャは天国に居るのだから問題無いと。


 食卓に料理が並べられる、新鮮そうな野菜と温かそうなスープ、孤児院に居た時には見たこともない様な料理ばかりだ

 ユウカと母親と私で食卓を囲む、二人が手を合わせる、何をしているんだろう

 よくわからないので、真似をしてみる、自分の前で手のひらを合わせる


「「いただきます」」

「いただき...ます」


 これが挨拶なのだろうか、これが一般的な家庭の挨拶...家族という思いに妹の顔が思い浮かび瞳に涙が溜まっていく

 それを察したのかユウカの母親が気を使ってくれる


「食べてみて、お口に合うといいけど」


 言われるがまま、スプーンでスープをすくい口に運ぶ

 ―――おいしかった。心が芯から温まっていくのを感じた、それと同時に涙が溢れ出す

 ―――食べさせてあげたかった...マーシャにもこんなにおいしい料理があるんだよって教えてあげたかった

 でもそれは叶わない、いまでも、それが悔しくて苦しい。


 食材を食べれば食べる程、涙も溢れて来る、気付いたらすべて食べ終えていた



 私は孤児院に帰ろう、マーシャがあのままで居るのなら、丁重に弔って上げないといけない

 今の私にできるのはそれだけだろうから


 孤児院に戻る事を伝えるとユウカが付いてきてくれるそうだ、弔うのなら自分は役に立つと


 孤児院に到着し自分達の部屋に向かう、部屋に近付くにつれ足が重くなり呼吸が乱れていく

 そんな、私を見兼ねたのかユウカは私の手を引く、とても暖かく柔らかい手だ、勇気を振り絞り部屋のドアを開ける

 そこには以前となにも変わらないマーシャの姿があった、ベットの横には棺桶が置かれている

 何故か肌は生きていた時よりも血色が良くなっており、まるで生きているかの様だった、ユウカも驚いている様子だった、それは、私も同じ


 生きているのかもしれない、それでも、ぴくりとも動かない事がもう既に死んでいることを物語る

 再び涙が溢れていく、それでも、決意は固めたのだから引き返すことはできない

 ユウカが私に了承を得てマーシャの遺体を抱える、ユウカは驚いたことに一人で持ち上げた、単純にユウカの力が強いのか、それとも、天国に行けたからなのだろうか体がとても軽かったらしい


 マーシャの遺体を棺桶に移し、棺桶を孤児院の裏に運ぶ

 そこには既に火葬の準備が整っており燃えやすい木が組まれていた

 棺桶を木の骨組みに組み込む


 ユウカが剣を取りだし魔法をかける

『導きの聖火』という魔法らしい


 剣に火が灯りそれを私に渡してくれた

 ユウカは気を使ってかその場を去って行った、その代わりにシャスティー叔母さんとタミネス姉さんがこっちに来てくれた

 ユウカが子供達の面倒を見てくれている様だ


 決意を固め棺桶に火を灯す

 炎は大きくなっていきすべて包み込んでいった


 ありったけの涙を流す―――これが最後...もう、二度と泣かない

 拳を強く握りしめ決意を固める、これが本当に最後。



 炎はやがて天へと昇って行った、私にはマーシャが笑っているかの様に見えた。そんなはずがないのに...。


 炎が消えた後地上には焼けた後の灰だけが残されていた、それを集める、手が燃えるように熱いが今は我慢をする、灰を袋に詰めそれを首から下げる

 もう、泣かない、手の火傷なんかで泣いてはいられない、すると、それを見兼ねたのか、ユウカがこっちに向かって走ってきて私の手にそっと手を重ね魔法を発動させる

 やがて手の痛みは引いていき手の火傷も収まった、魔法とはほんとに凄い


「これからきっと今以上の困難が待ち受けている、自分の体は大切にしないと、私が出来るのはここまでだから」


 その日の夜は一人で眠りについた、眠れない訳では無かった、最近は意識を失う事が多かったからでもあるだろう

 寂しさはあった、いつもなら感じるぬくもりも横から聞こえる寝息も今は何も感じない。

 明日から自分を変える、お金を集めて、強くなって...世界の半分の代わりにマーシャを蘇らせて貰う


 私の夢―――いつか―――

 また―――2人で―――



 目が覚めいつも通りに挨拶をしてしまった、返事は返って来ない、今までの習慣でしてしまう事に心の中で溜息をつく

 そっと胸に手を当てる、心臓の一番近くにマーシャは居る、実際は遺灰しかないが、今私が感じられるのはこれだけだから


「行くよ!マーシャ」


 これからはいつも一緒、どんな時も絶対に離れない

 今日は誰にも言わずに孤児院を出た、どこに行こうとかは思ってない、ただ、人込みに行こうと思う

 お金を持っていそうな人を探す―――要するに、盗む、悪いとは思うけど、さっさと自立して冒険者になる、もうなりふり構ってはいられない


 辺りを見渡しながら歩いていると空が急に暗くなった、私と同じように周りの人達も辺りを見渡し慌てふためいている

「悪魔の仕業だ」「魔王が復活したんだ...」など口々に言っている

 魔王なんているわけ―――


 急に体が重くなり地面に四つん這いになる、それはまるで空から何かに押さえつけられ様な感覚が続く

 周りを見渡してみれば周りの人達も地面に這っている


 体が動かない...これが魔王...


 少しすると、空は明るくなり体への重みがなくなった、周りの人達は解放されたことに喜んではいなかった

 いすれ魔王がやって来るかもしれないという恐怖、出現しただけでこれほどの事をする魔王とは一体どれ程の存在なのだろうか


 やがて、騎士達の巡回により街はある程度の落ち着きを取り戻した

 そして私は、獲物を探した

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