第328話復讐を手伝うことにした1
素行にも問題ない、普通の高校生だったのに。
(姉さん)
どんなきっけけがあったかは分からないが、クラスメートの不良達に襲われて、性的も含む暴行を受け、それを苦に首を括ったのだ。暴行騒動は学校にもみ消され、自殺は受験のストレスということで決着がついてしまった。
しかし、薊は全て知っている。
頭に思い浮かぶのは
その日、暴行を受けて深夜に帰宅したまみと家の台所で会った。
●
『姉さん? どうしたの?』
シンクの前に立つまみは泣いていた。
『あ……紀野君に、あの人達にずっと、ううう』
ぽろぽろと零れる涙が忘れられない。
『もう、だめ、こんなのやだ』
『姉さん?』
●
そのまま自室へと入って行ってしまった。その時は眠かったのもあり、そのまま自分の部屋へ戻ったのだが、翌朝には変わり果てた姿で見つかった。
(ごめん。あの時、何も言えなくて)
悔やんでも悔やみきれない。両親もあれ以来元気がなくなってしまった。裁判を起こす気力もない。つまり紀野当夜は今ものうのうと生きている。なんの罪を背負うこともなく。
(こんなのあんまりだ)
姉とは仲がよかった。小さい頃からいじめられっ子だった薊をいつでも助けてくれた。やさしくて、共働きの両親に変わってご飯を作ってくれた。
薊は拳を握りしめた。
一か月、じっくりと調べた紀野当夜は高校生ながら最低の人間だった。万引き、恐喝、窃盗は息をするようにやる。教師や大人さえも集団で暴行をする。
放課後。薊は大通りを歩いていた。
カバンには先ほど突発的にスーパーで買った包丁が入っている。すでに箱を開封済みだ。
「絶対に、許さない」
姉の、苦しみを紀野に与えるためにはこうするしかない。
腹に包丁を突き刺して苦しめ、命を絶つ。
薊の復讐は殺人。
「はあ、はあ」
冷や汗が流れた。身体が震える。
細い路地、物陰から伺っているとゲームショップから数人の若い男女達が出て来た。
「でさぁ、脱がしたらめちゃめちゃ貧乳で、やばってなったわけ」
「やだ~。死んだんでしょ? その子」
「さあ、知らね。受験のストレスで自分でくたばるとか頭オカシイ女よなぁ」
「紀野、無関係みたいに言うじゃん」
「そりゃそうじゃん? かんけーねえし」
なんの話をしているのか、わかりたくもない。
薊は、鞄の中の包丁の柄を掴んだ。
(姉さん、敵は討つよ)
両手で包丁を握る。
(大丈夫だ。僕はどうなっても良い)
唇を噛み締め、走り出そうとしたところで腕を掴まれた。
「何してんだ?」
振り返ると、桃華学園の制服を着た男子生徒が険しい表情で立っていた。
「え……」
「そんな危ないもの、早くしまえ」
紀野の背中が遠ざかっていく。
「は、離してくれ! 僕は、僕は、姉さんの敵を討つんだっ」
「敵?」
彼が眉を寄せる。
「僕の姉さんはあのクソ野郎に襲われたんだ。ひどい目に遭って自分で死んだ。震えた字でごめんなさいって遺書に」
「復讐、ってことか」
「そうだよ。僕があいつを殺すんだ。誰だか知らないけど、関係ないのに止めるなよ!」
彼は首を左右に振った。
「そんな復讐しても、何もならないだろ。君が犯罪者になるだけで何も残らない。お姉さんだって望んでない」
「なん……だ、それ」
「お姉さんは絶対、君に犯罪者になってほしくないと思ってるよ。だから」
「このまま、見逃せって? あいつのせいで姉さんが死んだのに?」
それを聞いた彼は不思議そうに首を傾げる。
「見逃せとは言ってないけど」
「え」
彼は人差し指を立てた。
「君が犯罪者にならずに、復讐をしよう。クソ野郎のために自分の手を汚すなんてばからしいだろ?」
「え、え?」
「俺が手伝ってやるよ。殺すより、酷い目に遭わしてやるからさ」
○
奏介はそう言って笑った。
バイト先のスーパーで中々売れない家庭用包丁を買った少年を追って来て正解だった。
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