第325話人の物を欲しがるクレクレ女子に反抗してみた2
「突然に割りこんできてなんなの?」
「田所さんは風紀委員に相談があって、俺やこっちの橋間と一緒に話を聞いてるところだったんだよ」
うんうんと頷くわかば。
「割り込んできたのはそっちな」
奏介は嫌悪の表情を浮かべる愛媛にため息交じりに言う。
(ちなみに相談の内容はお前らが田所さんに対してクレクレして物を奪ってくからなんとかしてほしいって奴だけどな)
話が複雑になるのでなんの相談かはぼかす。
「へえ、そう。風紀委員ねえ。てかさ、さっきのダメって何? あたしがペン持つのが気に食わないってこと?」
かなりの高圧的な態度にわかばもむっとしている。
奏介は不思議そうに首を傾げた。
「気に食わないも何も、そのペンは田所さんのものなんだから愛媛さんが持つのはおかしいでしょ。あと、勉強出来ない人にペンは似合わないし」
「!? おい、ふざけんなよ!? いきなり人を馬鹿にして!」
「ミツ、こんな非常識な人と付き合いあるの? やめた方が良いよ」
幼馴染に睨まれ、委縮するミツマメの前に奏介が立った。
「人を馬鹿にしてとか非常識とか、最初にキモオタクとか言ってきたのはそっちだろ。何をむきになってんの? 俺はただ理不尽な悪口に言い返しただけで、愛媛さんが勉強できるかできないかは実際知らないから。逆ギレするってことは本当にできないってこと? ああ、まさかの図星だった? そうかそうか気にしてるんだ? ごめんな、本当のことを言って」
「くっ」
表情を歪める愛媛である。
とりあえず、悪口を封殺。
「まあ、とにかく、田所さんの物なんだから欲しがるのは良くないって話。本人も嫌だってはっきり言ってんだろ。このペン、一万だぞ。それを無料でもらおうとか、お前は田所さんのなんなんだよ」
わざとらしくため息を吐く愛媛。
「あんた、今日初めてミツマメと会ったんでしょ」
「……」
「あたしとミツマメは、一緒にご飯食べに行ったことあるし、物をもらうなんて日常茶飯事。ね、そうよね」
睨む愛媛、震えるミツマメ。
「そういうことだよ、風紀委員君。ミツとあらみは親友も同然なんだ」
奏介は野針を見る。
「いや、なんで愛媛さんでも田所さんでもない奴が親友だとか言うの? てか、横からごちゃごちゃうるさい。田所さんは嫌だっつってんだろ。聞いてねえのか?」
「ぐっ……」
「ああ、そうだ。愛媛さんと付き合ってるんだって? だったら、ペンくらい買ってやれよ、男のくせに情けねえな」
「は……はんっ、今時男からプレゼントがとか」
「わかった。言い方を変えよう。好きな奴にくらい自分でプレゼント買えよ。なんで他人から譲らせようとしてんの? 一万円のペン、買ってやれば良いじゃん」
表情が引きつったので責める。
「買ってやれないなら、ごちゃごちゃ言わずに黙ってろ」
奏介は鼻をならして、愛媛に向き直った。
「田所さん、怖がってるじゃん。脅して物を取るの、止めろよ」
「別に脅してないでしょ」
静観していたわかばが息を吐いた。
「あーでも、怖がってるから良くないと思うわよ」
見ると、ミツマメは涙を溜めて、うつむいていた。わかばは背中をさすりながら、呆れ顔だ。
「愛媛さん、今、結構怖い顔してるから」
愛媛はバカにしたようにその様子を見て、
「はあ、そういや、あんた、中二から調子こきはじめたわよね。一年の時は超陰キャオタクキモ男だったのに」
「お前は終始調子こいてたよな。てか、そんな話どうでもいい。なんで俺の話になってんだよ。とにかく、怖がってる女の子からペンを奪おうとすんなよ」
「だからさぁ、ウザいんだけど。ミツマメとあたしの問題でしょ? ミツマメが良いっ
て言ったら良いでしょ。ねえ? ミツマメ」
「っ……!」
「あ、わたし」
奏介はスマホを取り出し、タップ。
音声が流れる。
『あ、あの、わたしの一番のお気に入りで、しかもちょっと高かったから。い、一万はしないけど近いくらい』
『え~? 良いじゃん。明日皆に自慢しよーっと』
『あ、え、そんな。や、やだよ。本当に気に入ってるの。だから』
奏介はスマホの画面をかざし、
「やだってさ」
周囲がざわざわ。
「強引過ぎでしょ」
「強盗って感じ。脅してるし……」
「こっわ」
「じゃ、これ返してもらうから」
力の抜けた愛媛からペンを取り上げる。
悔しそうに拳を握り締める愛媛。
「もう良い。この陰キャ野郎! 盗聴とかキモっ」
「あ、あらみっ」
入り口へ駆けて行く愛媛と慌ててついて行く野針。
「よし。とりあえず、追い払った。田所さん、多分俺がいない時に嫌がらせしてくると思うので、そしたら俺に言って下さいね」
「は、はい。ありがとうございます」
奏介はふっと笑う。
「あいつ、復讐とか考えようものなら、今度こそ」
スマホを握り締める奏介、わかばはぽかんとする。
「なんか、個人的にあるの……?」
同じ中学だ。色々ある。奏介は息を吐いた。
「まあ、ちょっとね」
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