第324話人の物を欲しがるクレクレ女子に反抗してみた1

とある日の放課後。

 風紀委員である奏介とわかばは、桃華学園の食堂のカウンター席にいた。いわゆる、お1人様用の席である。一席ごとに取り外し可能な仕切りがあり、横並びで座るのだが、二人席や四人席が埋まっていると、複数人で使用するグループもあるようだ。現に今も奏介とわかばは並んで座っている。

「放課後なんだし……お菓子と紅茶セット出してくれても良いわよね」

 わかばが電気の消された厨房を見ながらぼんやりと呟く。

 食堂の営業は昼休みまで。放課後は自習スペースとして開放されている。

「まあ……儲からないんじゃないか」

「……わたしも毎日行くかって言われたら行けないわ」

 自習を始めて二時間以上経った。

 奏介は息を吐いた。

「なんか集中力が切れてきたな」

「す、すみ、まっせん」

 奏介の隣の女性生徒が慌てて謝って来る。

 今回の風紀委員への相談者、田所たどころミツマメ、同級生だが、奏介ともわかばとも違うクラスだ。

 つまり現在、ミツマメ、奏介、わかばの順でカウンター席を利用している状態だ。

「ああ、いや。田所さんじゃないですよ。でも、今日はもう来なさそうですね」

 ミツマメに絡んで来る厄介な生徒を撃退する。それが今回の相談だ。

「また明日付き合いますから、今日は解散にしませんか」

「そう、ですね。ありがとうございます、菅谷君、橋間さん」

 そこでわかばが気づく。

「あ……そのペン」

 ミツマメがペンケースへ戻そうとしているシャーペンは、木製で一部硝子で出来ている。掘り込みに青や黄色の線が入っている物だった。

「綺麗。それも雑貨屋さんで?」

「はい、雑貨屋さん好きな人が集まるネットのコミュニティでは有名なお店の商品なんです。ガラスの部分に店長さんが好きな模様を掘ってくれるんですよ。お気に入りです」

 ミツマメは嬉しそうに言う。

「聞いたことあるかも。でもここから電車で二時間以上かかる場所なんじゃ」

「日曜日に早起きして、行ってきました。自習の時くらいは良いかなって使ってるんです」

 彼女の趣味は雑貨集めらしい。その趣味がトラブルの引き金になってしまったとのことだ。

「あー、めっちゃ綺麗~」

 少し大きな声をかけられ、奏介わかばともども、反射的にびくっと体を震わせた。

愛媛えひめさん……」

 顔を引きつらせるミツマメ。現れたのは男女二人組だった。

「よ、ミツ。もしかして、それが買って来たペン?」

女子の方が愛媛あらみ、男子の方が野針睦のばりむつみ、二人は付き合っているらしい。ちなみに野針の方はミツマメの幼馴染であり、家も近所とのことだ。

(こいつか)

 見覚えはあった。同じ中学だ。ギャル系、同じような友人とつるんで、少し強引にクラスをまとめていたカースト上位のリア充女子。

「へえ、見せてよ」

「あ」

 流れるような動作で、ミツマメのペンを取り上げる。

「すっご。ゲージュツ品て感じ。キレイ~。ね、むっちゃん」

「ああ、色も綺麗だよな」

 奏介は二人の言動を静観する。

 おろおろするミツマメである。経験済みの展開なのだろう。

「ね、これちょーだいよ。良いでしょ? 一本くらい」

「え……で、でもそれ、わたしの趣味でお店の人が掘ってくれたものだから」

「名前とか書いてないし~、良くない? あたしすっごく気に入っちゃった。むっちゃん、あたしにぴったりだと思わない?」

「ああ、控えめなミツマメよりあらみの方がしっくりくると思う。ミツマメはほら、また買えばいいだろ?」

「あ、あの、わたしの一番のお気に入りで、しかもちょっと高かったから。い、一万はしないけど近いくらい」

 奏介とわかばは視線を交わす。シャーペンに一万近く出すというはかなり勇気がいると思うが、彼女の趣味に取り込む意欲がかなり高いことが伺えた。高くてもほしい、と。

(バイトしてるって言ってたもんな)

 趣味のためのバイトなのだろう。

「え~? 良いじゃん。明日皆に自慢しよーっと」

「あ、え、そんな。や、やだよ。本当に気に入ってるの。だから」

 ミツマメはすでに半泣きである。

「ミツマメ、さすがにしつこいぞ? また買えるんだから」

「いやダメでしょ。しつこくないし」

 口を挟んだ奏介に、愛媛と野針の視線がこちらへ向く。

「あ? お前、菅谷じゃん。いたんだ、キモオタク」

 中学の頃からこちらをなめている気配があったが、やはり初手ディスりである。

「あ? 愛媛、お前もなんでこんな自習スペースにいるんだよ。勉強する気ねえだろ」

 即返しに怯んだ気配。

 睨み合う。

「す、菅谷、なんでヤンキースタイルで対応なのよ」

 わかばがそう呟いた。

 そして、食堂が騒然となった。

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