第322話同窓会メンバー3人に精神的ダメージを与えるために反抗してみた13
1ヶ月後。
その日は上嶺有孔の高校の文化祭であったが、ここ最近と同じように、昼ごろに校舎裏に引っ張られて行き、地面に転がされた。
「うあっ」
間髪入れずに、腹を蹴り上げられる。
「ぐあっ」
目の前がチカチカして、うずくまる。やっとのことで顔を上げると、いつもの不良男子生徒三人がニヤニヤと有孔を見下ろしていた。
地獄のような光景に気が遠くなる。
一般開放をしている文化祭中なので、遠くで楽しそうな声が聞こえていて、現実感が薄れていった。
「ま、またお前ら……い、いい気になってる、と……ただじゃ済まさな」
「おらっ」
頭を踏まれて、地面に顔面をめり込ませる。
「うぶ……ぐ……」
「こいつ、まだ自分の立場分かってないじゃん。頭悪くない? 変態元議員の息子さんよぉ」
「まだ親が何とかしてくれると思ってるんじゃね? 爆笑なんだけど」
「捕まってんだろ? 助けるも何もないっしょ。そういやお前、高級ホテルで小中学校のダチとパーティ開くのが趣味なんだって?」
「はぁ? 何それ。税金で高級ホテル? やっば」
有孔は両手を握りしめた。土や小石が手の中で固まっていく。
(父さんが、復帰したら……覚えてろよ、こいつら)
「なんとか言えよ」
「ウグッ」
肩を蹴られ、またうずくまる。
「で、免除料持ってきたわけ? 3万支払えば3日は制裁を免除してやんよ」
(そう言って、もう10万以上も……)
1日1万円。払えば何もされない日を確保できる。しかし、これがずっと続くのかと絶望する。
(どうしたら、良いんだ。どうしたら)
と、彼らは勝手に有孔のポケットから財布を取り上げた。それから、万札を抜き取る。
「お、あるじゃん。……って1万だけかよ。これじゃ半日しか免除しねーぜ?」
少し遠くから声が聞こえてきた。
「先生、こっちです! 早く!!」
焦ったような声が体育館裏に響く。
3人組は舌打ちをした。
「まぁいいや。明日は持ってこいよ」
「やべ、早く行こうぜ」
「よりによって今かよ」
彼らはそそくさと去って行った。そして、別の足音が聞こえてくる。
「よう」
はっとして顔を上げる。
「随分愉快なことになってんじゃん」
奏介が呆れた表情で立っていた。
「え……」
わけがわからない。菅谷奏介はこの学校の生徒ではないはずだ。
「なん!? なん、で……? お前、ここは」
「文化祭で一般開放してるんだから、誰でも入れるんだろ。お前がいじめられ始めたって聞いて、様子見に来たんだけど、結構エグいことされててドン引きなんだけど。気分悪いわ」
奏介は小さくため息を吐いた。
「……! ぼ、僕を……わざわざ笑いに来たのか?」
奏介はすっと目を細めた。
「お前みたいに腐ってないから、この状況を笑い飛ばすのは無理だわ。でもまあ、クラスメイト全員で俺に土をぶつけてきた時は、お前ら全員ゲラゲラ笑ってたっけ? どうよ、立場逆転、顔に土をつけられた気分は」
「……」
「なんか辛そうな顔してるけどさ、今感じてる全てが、小学校の頃の俺の気持ちそのものなんだよ。いい気分するか? しないよな? 複数人に、自分1人だけバカにされて、笑われて、物理的に危害加えられて。最高に惨めだろ」
「……」
何も言えなかった。殴る蹴るの暴行に加え、父親や自分のことをバカにされて。対等に言い返せなかったのだ。
とても、惨めだった。助けてくれるはずの父はもういない。同級生は誰一人として話を聞いてくれない。あっという間に、皆離れて行った。
本当の本当に、一人だった。味方はいない。1人ぼっち。
「助けてやろうか」
「…………は?」
奏介と目が合う。
「だから、助けてやろうか? 俺が」
有孔は、信じられないものをみる目で奏介に視線を向ける。
「ど、どういう」
「こういうさ、悪評に便乗していじめする奴らって嫌いなんだよね。俺の努力と苦労を持っていかれたみたいで気分が悪い。さっき、金を盗んだ窃盗動画もあるし、あいつらはどうにかできるよ。どうする?」
有孔はぽかんとするしかない。
「ど、どうって」
「いつまで続くか分からないイジメをひたすら耐えるか、俺にお願いして助けてもらうか。ここで選べよ」
有孔は拳を握りしめた。
この状況に追い込んだのは目の前の奏介で間違いない。そんな奴に助けを請うのか?
(し、信用出来るわけないっ)
しかし、この話を蹴ったとしたら、これまでと同じ日々が、明日からも続いていく。暴行を受けて、金を渡して。ずっと、ずっと、ずっと……地獄。
「た……助けて、くれるのか?」
震える声で言うと、奏介は人差し指で、地面を指した。
「とりあえず、そこに土下座して額を土につけろ」
「え」
「助けてやるんだから、それなりの態度ってものがあるだろ」
「っ……!」
有孔は歯を食いしばって、正座をし、奏介に向かって頭を下げ、額に土をつけた。
「それで? 俺に何を助けて欲しいんだっけ?」
「……! あいつら、から、いじめから助けて、下さい」
「お前もあいつらと同じことやってたって自覚ある?」
有孔は一瞬口籠ったが、
「あ、あります」
「皆で俺を笑い者にして楽しんでたしね。まさかと思うけど、反省してるんだよな?」
「し、してますっ、して、ます」
殴られたり蹴られたりする痛みは、耐え難い。地獄だった。
「じゃあさ、あのくだらない同窓会でわざわざ俺を呼んでバカにしようとしてたじゃん? あれについて今どう思ってんの? 君の席と料理は用意してない〜とか言ってたアレな」
ノリと勢い、笑える催し物、イベントのつもりだった。
「ご、ごめんなさい」
「それじゃ伝わらねぇんだよ。丁寧に言え。謝罪も交えてな」
体が震える。
「わ、笑い者にするために同窓会に呼んで、嫌がらせをしてしまいました。も、申し訳ありませんでした」
奏介はバカにしたように鼻を鳴らす。
「情けなさすぎだろ。プライドとかねぇの? バカにしていじめてた相手に土下座してごめんなさいまでして、助けてもらいたいって? いやぁ、恥ずかしくて俺には無理」
「ぐ……」
あからさまな煽りに、一瞬で腸が煮えくり返ったが、言い返す言葉が出てこない。
「おい、こっち見ろよ」
有孔は息を飲み込んで、顔を上げた。鋭い目の奏介と視線が合う。
「次、俺や俺の家族に何か仕掛けてきたら、ただじゃ済まないと思えよ。分かったな? クズ野郎」
「……」
「返事」
「! は、はい。分かっています」
ふっと奏介は笑った。
「こういう時に助けてくれる友達作ったら? 見放されてんじゃん」
そう言って歩き出す。
「それじゃ。二度と俺の前に出てくるなよ」
有孔はもう何も言わなかった。ただただ惨めだと思った。
◯
体育館裏から出た奏介は、グラウンドに移動してきた。出店が多く出ていて、賑やかである。
「あ、奏ちゃーん」
詩音が手を振っている。
確保されているテーブル席には詩音、水果、真崎、わかば、ヒナ、モモ゙が着席していた。周辺にはかなりの数の椅子やテーブルが用意されているが、ほぼ満員だ。さすが大人気出店スペース。
「おかえり、終わったの?」
わかばの問いに頷いて、
「ああ、予想の3倍くらい間抜けだった」
「いじめられてる現場、すぐ見つけられたのかい?」
水果の問いには少し考えて、
「分かりやすかったからね。相手も結構頭弱いと思う。堂々と体育館裏に行くし、声響いてたし」
「うわ〜。バレないと思ってたのかな?」
ヒナが呆れ顔である。そして、モモ。
「怪我は、なかった?」
「俺の? それはない。あっちは浅い擦り傷ができてたけどね」
と、詩音が挙手した。
「みんな揃ったし、食べたいもの買ってこようよ!」
「なら、ボクも行くよ。皆、何にするー?」
雰囲気にのまれ、わちゃわちゃしだす女子達。
「終わったのか?」
と、真崎。
「土下座で謝らせて、思いっきり罵ってきたから満足して終了。そのうち、いじめっ子不良3人組の窃盗罪を確立しないと」
と、真崎がらこちらの顔をずっと見ている。
「何?」
「いや、菅谷が良いならいいけど、助けるのか?」
ふっと笑う。
「ライン超えた不良3人組はこの学校から消し飛ばす予定だけど、代わりに色々噂を流しておくよ。その結果、上嶺がどうなるかは知らないけど」
「……なんかこう、殺意高めだな。まあ、何かあったら言えよ?」
「ああ、ありがとう。針ヶ谷」
奏介は真崎を始め、いつものメンバーを見回した。
「とりあえず、色々終わったよ。協力ありがとう。特に車のあれ」
皆で助けに飛び込んで来てくれた。
「でもまぁ、奏ちゃん。これに味をしめて交通事故で体張るのは止めてね?」
「そうね。担当の警官が違うからって好き勝手するのは止めなさいよ」
詩音&わかば。奏介は苦笑をうかべる。
「あ……まあ、うん」
しかしながら体を張る以外で何か、考える時なのかもしれない。洋輔にも相談してみようかと、思った。
「ふふ、君の頼みなら検討するから話してね?」
「大変な時は協力するから」
「そうだね。菅谷、まず相談だよ?」
ヒナ、モモ、水果。
「うん、ありがとう。わかってるよ」
奏介は頷いた。
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