第321話同窓会メンバー3人に精神的ダメージを与えるために反抗してみた12


 事故から数時間後。

 奏介は病院のベッドに上半身を起こしていた。

「なるほど、口論になり、上嶺氏がわざとサイドブレーキを引かずに車を降りたと」

「……はい。今思うと事故を装って俺に危害を加えたかったのかなと思います」

 青を基調とした制服、交通課の警官二人は真剣に奏介の話を聞き、メモを取っているようだった。この事故の担当になった夏山という妙齢の女性と、春浦という若い男性のコンビだ。

「分かりました。周辺住民も言い争う声を聞いていますし、あのタイミングでサイドブレーキを引き忘れるというのは疑問が残りますね」

 春浦は、夏山にそう話を振る。見る限り、夏山が先輩のようだ。

「ああ。あの上嶺氏だからな」

「私情を挟むのは良くないのですが、狙ってやったとしてもおかしくないですよね」

 奏介は不思議そうに首を傾げる。

「上嶺議員は不適切なパーティの参加者に仕立て上げられた被害者……なんですよね? 交野議員が悪いってニュースで見ました」

 春浦はため息を一つ。

「それがついさっき、交野議員のアリバイが証明されまして。匿名で情報提供があったそうです。メディアにも一斉に公開されたため、捜査チームも無視出来ないでしょうね。上嶺氏が情報操作をしていた証拠も出た上に、あうっ」

 夏山が春浦の脇腹に一発。もちろん、そこまで強い威力はないが、不意打ちだったためか間抜けな声を出した。

「子どもに対して喋りすぎだ」

「あ、す、すみません。つい」

 奏介は苦笑を浮かべながらも考える。

(交通事故の不祥事で問題にしてから、バニーガール事件のことをゆっくり追い詰めてやろうかと思ってたのに。良い情報も手に入ったし。……なのに、なんなんだ?)

 謎の情報提供者はバニーガールパーティ開催中の時間帯に、主催とされた交野議員のアリバイを証明する証拠を警察とメディアに突きつけたらしい。しかも上嶺議員が情報操作を行っていたことも明らかになったという話なのだろう。

(あれだけ周到に用意して、交野議員に罪を擦り付けたのにそれを覆すなんて)

 と、スマホが鳴った。夏山が春浦を軽く説教しているうちにメッセージを確認する。

 父、洋輔だった。

『交通事故にあったと聞いたぞ。大丈夫か? 父さんの知り合いの弁護士に頼んだから、損害賠償はきちんとしてもらえ』

 奏介はふうっと息を吐いた。

(そういえば、父さんは因縁があるんだった、な)

 察したが、確認するのは止めておいた。

(それにしても)

 夏山達を見る。

(一応交通事故扱いだから、見王刑事や谷口刑事は担当じゃないんだな。へえ、なるほど)



『次のニュースです、国会議員の上嶺氏が昨日の17時頃、自身の車のサイドブレーキを引かずに降車し、高校生を負傷させたとして過失致傷の疑いで事情を』

 ニュースに流れるそれを見ながら、上嶺有孔はぷるぷると震えていた。

「なんだよ、これ。過失致傷? サイドブレーキを引いてなかっただけで? あいつが煽ってきたから父さんは」

 と、スマホに着信が。発信者の名前を見て、すぐに出る。

「もしもし。どうだ? なんとかなりそうか」

『あー……悪いけどさ。やっぱ無理。お前の父親、ほんとにやらかしてるじゃん。2回目で情報潰すのは厳しいってうちのオヤジが言ってるし、てかさ、もうかけてくんのやめてな』

「……は?」

『犯罪者っしょ、お前の父親。うちのオヤジにも立場ってもんがあんのよ。そもそも、半ば脅されてやってたことだしさぁ』

「な……なっ、これまでどれだけうちの父さんに恩恵を受けてきたんだよ!? 誰のおかげで警視になれたと」

『はいはい。後、同窓会の手紙とか迷惑だからマジ勘弁して』

 通話が一方的に切れた。

「あいつ……!」

 はっとして何人かの同級生に連絡をしてみたが、着信拒否やそもそも出てもらえない。ここまで揃って連絡が取れないとなると、やはりニュースを見ているのだろう。

「くそ……! 今までどれだけ父さんの恩恵を受けてきたと。あんな安い参加費で高級料理は食えないんだぞ!?」

 上嶺は膝をついて、床を思いっきり叩いた。

 

 ◯


 ゲームセンターの前で通話を切った轟冬弥とどろきとうやはスマホをカバンにしまった。

 中へと戻る。クレーンゲームに熱中していた同級生の友人達は揃ってスマホを見ていた。

「んあ? どした?」

 二人に声をかける。

「あー、上嶺から電話だったんだけど、出なかったわ」

 友人の一人が気まずそうに言う。

「オレ着拒してるから、入ってねぇけど、元クラス全員にかけてそうじゃね?」

 うんざりとした様子のもう一人。

「それ、正解。ガチ変態の犯罪者の息子だし」

「だよなー。あ、とりあえずこれ捨てとかね?」

 轟に友人が見せてきたのは、ピンバッジだった。小さな真珠が埋め込まれている桜形のそれで、高校に上がったすぐのタイミングで開かれた同窓会で配られた記念品だ。

「売り飛ばすとメンドーだしな。ほい、燃えないゴミっと」

 ゲームセンターのゴミ箱に放り込まれるバッジ。轟も二人に続いてそれを放り込む。

「ぶっちゃけ、友情の印とか言い出した時は笑ったんだよなぁ」

「あのノリは寒かったけど、なんか流された感じ?」

 轟は少し考えて、

「金持ちとは仲良くしとこみたいなとこあったよね。オレは完全にそれ」

「オレもだわ」

「だよな。分かる」

 あの同窓会がもう開かれないと思うと、あのホテルの高級料理達が恋しいがもう犯罪者の金で飲み食いは出来ないだろう。

「なんでこんな感じになったんだっけ」

 きっかけはよく思い出せなかった。



 とある日の朝。

 修道女であるティア・ノース・藤野は自身が仕える教会へと足を運んだ。

「まぁ」

 朝早いにも関わらず、一人の少女が|跪(ひざまず)き、手を組み、祈りを捧げていた。ステンドグラスの光がキラキラと輝いて、綺麗な少女の横顔と色素の薄い綺麗な髪を照らしていた。

 どこか外国のハーフだろうか。美少女である。

「……おはようございます、お嬢さん」

 ティアが声をかけると、ハッとした様子で立ち上がる。

「あ……すみません。入口が空いていたのでつい」

「構いませんよ。ここはどんな方でも等しく祈りを捧げて良い場所ですから」

 少女は少し暗い顔をする。

「何か、思うことでも?」

 彼女は少し震えていた。

「いえ、あの、懺悔を、しに」

「まぁ。何かお辛いことがあったのですね」

 懺悔室に通したほうが良さそうだ。

「少々お待ち下さいね」

「は、はい。ありがとうございます」

 シスターが奥へ戻って行ったので、少女、もといリリスはもう一度手を組んだ。

(すみません、すみません。聞かれたから答えただけなんです。同級生の轟さんのお父様が実は警察の方だと。でもだからと言ってそれだけです。ただただそれだけを、教えただけなんです。これ以上、惨劇は起きないで下さい。どうか、お許し下さいっ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る