第320話同窓会メンバー3人に精神的ダメージを与えるために反抗してみた11
「え、もみ消された?」
とある日の風紀委員会議室。
PCをいじるヒナが深刻そうに頷いた。
「バニーガール議員ブラザーズのおじさん達のニュース、ピタリと止んだでしょ? 何か圧力がかかったぽい。ネットの匿名掲示板でも誰も触れなくなっちゃってさ。これは手強いね。話題にしたりした人に一人づつ制裁したりしてたのかも」
弁当を突いていたわかばが表情を引きつらせた。
「ヤバすぎない?」
「凄いね……。テレビ報道されたのに、そこからもみ消しに行ったってことだね?」
水果が深刻そうな表情で言って、
「奏ちゃん、何か打つ手あるの……?」
詩音が奏介に問う。皆の視線が奏介に集まる。
「まぁ、そうだな。このまま逃がすつもりはないよ」
いつものメンバーがざわついた。
「菅谷君、また無茶しそうね」
モモが心配そうに言うので、真崎も真顔になった。
「菅谷、一人で何かするなよ」
「あ、ああ。皆にはちゃんと言うよ」
◯
とある日の深夜。
上嶺家のリビングで議員の上嶺父が電話をしていた。
「そうか、完璧に」
相手の話を聞きつつ、
「うむ。ご苦労」
通話を切った。
「随分と手間がかかったな」
テレビのリモコンを手に取った。電源を入れると丁度新人議員の顔が画面いっぱいに映し出されていた。
「次のニュースです。女性の過剰な接待があるパーティを主催したののは
ニヤリと笑う。
「交野君、君の犠牲は忘れないぞ」
『交野議員は容疑を否認をしており』
上嶺父はテレビの電源を切った。深呼吸。若くて優秀な芽を摘むと同時にハメられた側として被害者になることに成功した。
*
スマホで政治関係のネット掲示板を開く。
雇ったさくらもいるが、思惑通りの書き込みに溢れていた。
『交野ってやつ、乱交パーティも主催してたらしい』
『キモ……。しかも、他の議員に責任を押し付けてたらしいじゃん』
『オレ、上嶺議員の息子さん知ってるけど、あのニュース後は可哀想だったわ』
全ては自分の手のひらの上。世間などちょろいのだ。
明日は真っ当な食事会、世間に公表されても何ら問題はない会食だ。
◯
同時刻。
アメリカ、ワシントン都市部のとあるマンションの1室。
菅谷洋輔はスマホで日本のニュースを見ながら、ソファで足を組んでいた。
「ほぅ。中々やりますな、上嶺議員」
すっと目を細める。
「さて、どうするか」
このままで終わらせる気はない。
◯
翌日、上嶺家。
玄関横の駐車場に停めたかなり古い車、珍しく運転席に座る父親と有孔が話していた。
「運転手は呼ばなかったんだ?」
「しばらくは、派手な行動は避けようと思ってな。私的な食事会だということを強調するためにはこうするのが一番だ」
「そういうことか」
有孔は納得して頷いた。
「有孔、あの菅谷とかいう親子には気を付けておけよ」
「分かってる。あいつ、逆恨みで事あるごとに絡んできて。親まで出してくるなんて、非常識な」
「父親の方もかなりのモンスターペアレンツだ。油断ならん」
有孔はぐっと拳を握り締めた。
(同窓会を滅茶苦茶にして、さらに嫌がらせをして。小学生の頃のことをいつまでもネチネチと、女々しい奴なんだ)
「有孔?」
「ああ、いや、なんでもない。それより、またいつものホテルで同窓会をやりたいんだけど。皆の誤解を解くためにさ」
「ああ、構わない。ただし」
「菅谷は呼ばないこと、だろ?」
「分かっていれば良い」
親子で頷きあう。
「それじゃ行ってくる」
サイドブレーキを外し、ギアをドライブに入れ、出発しようとした時だった。
「黙って聞いてれば、俺が悪いみたいに言うじゃん。うざ絡みしてきたのはそっちだろ」
見ると家の駐車場の出口前で仁王立ちしているのは菅谷奏介だった。
「な……なっ」
有孔は一歩後退した。
「同窓会に呼んだのもお前、料理と席を用意しないっていう嫌がらせをしたのもお前、自分のパパに頼んでうちの父親を陥れようとしたのもお前。こっちはお前がぶち込んできたボールを打ち返してるだけなんだよ、このファザコンキモ野郎が」
奏介は指を指した。
「ていうかさ、お前は父親の金で高額同窓会開いてイキってるだけだし、お前の父親はバニーガールの女性に手を出すド変態だろうが。市民の税金で何してんの、マジで。若手の議員に罪着せてるけど、お前らが変態なの変わらないと思うんだけど。親子揃って、頭おかしいんじゃないの」
奏介がヒラヒラと手を降る。
「こ、このガキがあの菅谷の息子か!?」
有孔は奏介を睨みつけた。
「また小学生の頃の話を持ち込む気か? あんな昔のことをいつまでネチネチ言うつもりだ」
「お前、何言ってんの? 子供の頃のイジメをなかったことにしようとしても、俺はずっと覚えてるぞ。一生かけてお前の人生ぶっ壊してやるからさ。覚悟しとけよ。てか、ロッカーに閉じ込められて死にかけたんだけど? 昔だろうがなんだろうが、普通お前ら全員監禁罪で豚箱行きだよ。たくっ、頭悪いな」
上嶺は奏介の冷たく鋭い睨み方に顔を引きつらせた。
「そ……そういう女々しいところがあるからイジメられたんだろう」
「俺が悪いって? 俺が悪かったらロッカーに閉じ込めて数日放置しても良いんだ。あーキモ。警察に行ってくれない? 結婚したら、お前が悪いとか言いながら奥さん監禁しそうだわ。DV予備軍がまともな生活してんじゃねぇよ、犯罪者が」
「こ、この言わせて置けば」
「ところで、車の中に隠れてるお前の変態親父はなんなの? 俺の父親を攻撃しといて、俺にビビって隠れてんのか? ああん?」
と、上嶺父が車から出てきた。バンっと扉を締めて、ずんずんと歩いてくる。
「子どもとは言え、大人にきいて良い口ではないな。どういう教育をされてるんだ」
さすがというか、目の前に立っただけで手は出してこない。
「はんっ、真っ当な大人の議員さんなら尊敬ものですけどね、あなたみたいに、あろうことか国民のお金でバニーガールと遊んじゃう変態に教育がとか言われたくないですね。私的趣味は良いと思いますけど、絶対やっちゃダメでしょ」
「こ……このガキが……。さすがあの菅谷洋輔の息子と行ったところか。しかし、もうバニーガールだのの話は私には関係ない。交野君が主催したパーティに呼ばれたという噂を流されただけで無関係だ」
「そういうことになってますけど、普通にやってるでしょ。変態なのは変わりませんね。いや、バニーガール脱がせたって話だし、ド変態かな」
「な……なんで、そんなことを」
と、その時だった。
「と、父さんっ」
見ると、サイドブレーキを引いていなかった上嶺父の車が動き出していた。
「う、うわっ」
少し坂になっている駐車場、車は徐々にスピードをあげる。
慌てて回避する上嶺父だったが、奏介は、
「!」
回りだしたタイヤに靴の足先をぶつけ、尻もちをついて倒れ込んでしまう。それから車の側面で腕を強打。
「あぐっ」
後ろのタイヤが力が抜けた奏介の足に迫る。その時、真崎が飛び出してきて、
「菅谷っ」
奏介の体を力任せに引き寄せた。
いつもの女子メンバーも駆け込んでくる。通行人が驚いた様子で見ているので、声をかける。
「危ないので、退いて下さいっ」
「こっちへ来ちゃダメだ」
モモと水果が呼びかける。すでに車道に進入しているが、水果とモモが走ってきた車を停めたので衝突は回避出来そうだ。後は車道を挟んだ目の前のかべに激突させないようにすることが優先される。
詩音が動く運転席のドアを開けた。「お願いっ」
「しおちゃん、そのままっ」
ヒナが運転席に飛び込んでブレーキを思いっきり踏み込む。
「ヒナ、そのままよっ」
わかばがハンドル横のボタンを押して、車の電源を落とし、ヒナの体をまたいで、座席横のサイドブレーキを引く。
そこでようやく車が止まったのだった。向かいの民家への激突は免れた形だ。奏介は呆然とする上嶺父と座り込む上嶺の姿を見た。
激痛で意識が飛びそうだ。
「お、おいっ、菅谷」
助けてくれた真崎が呼びかけてきた。
「だ、大丈夫。頭とか、打ってないから」
やがて、遠くで、サイレンが鳴り響いていた。
※あとがき
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