第319話同窓会メンバー3人に精神的ダメージを与えるために反抗してみた10

 在賀と鎌田はバツが悪そうに一瞬だけ視線をそらし、

「さっきは、すみません。松中、反論すると面倒くさいことになるからさ」

 鎌田はそう言って、頭に手をやる。

「逃げちゃってごめんなさい」

 在賀が言って頭を下げる。

 奏介は目を細める。

「あの松中とかいう奴はともかく、あなた達は一応反省してるってことですかね?」

「ああ、やり過ぎだった。なやっちの……佐野さんの恋を応援するつもりでさ」

「若原先輩を好きだけど、中々話が出来なくて落ち込んでるなやちゃ……佐野さんに頼まれたからつい」

 奏介はうんうんと頷いて、

「友達の恋愛を応援するのは凄く良いと思います。ただ、つい、やり過ぎたってレベル越えてるので、謝っただけで済まないと思いますよ」

 鎌田は、ドキリとした。素直に反省して謝罪の言葉を出せば『大丈夫だよ』と言ってもらえると、勝手に思っていた。

「いや、その……反省してます」

 在賀と一緒に小さくなってみる。ここを乗り切れれば、とりあえず許してもらえれば、反抗的な松中を生贄に、普通の生活に戻ることができる。

「鎌田さんと在賀さんでしたっけ。気づいてないみたいだから教えて上げますけど、あなた達は謝りに来たんじゃなくて許してもらいに来たんでしょ? 若原さんに、『大丈夫だよ、気にしてないよ』って言ってほしいんですよね」

 心臓を貫かれたかのような衝撃が走った。

 その通りだった。許してもらえなかったらどうしようとか、微塵も考えていない。

「いるんですよね、たまに。無駄に罪悪感抱いて、わざわざいじめたり嫌がらせしてた人に謝りに行く人。あなた達が若原先輩にやってたこと覚えてます? 痴漢の冤罪をかけられてた間の若原さんの苦しみをその言葉だけでチャラにしようとしてるんですよ? 対等な喧嘩ならともかく、いじめと嫌がらせを一方的に謝られても困るんですけど。普通に、許すわけねぇだろ」

 鎌田は奏介を睨んだ。

「ちょっと待って。なんであんたにそこまで言われなきゃならないの!? 初対面でしょ!?」

「あ、そうでしたね。すみませんでした。さすがに失礼でしたね」

 奏介はぺこりと頭を下げる。それから、

「それで、当事者の若原さんとしてはどうですか?」

「ああ、うん。絶対許さないよ」

 いつもの感じで、感情を揺らさずそう口にした。数秒して、鎌田在賀の表情が引きつるのが分かった。

「え……」

「突然謂れのない噂で皆から白い目で見られて、彼女とも喧嘩して別れて。正直この年齢でさ、泣いたんだよ。僕は何もしてないのにって。君等がやったんだよね? その軽い態度で謝られても困るよ」

「残念でしたね。俺へ噛みついて優しい若原さんにフォローでも入れてもらうつもりだったんですか?」

 咲人はため息をついた。

「菅谷君は正論しか言ってないのに、睨んできた時は正気を疑ったよ。……本当に謝りに来たの?」

 ぐっと言葉に詰まる二人。

「ちなみに、あなた達が許してもらうためのやり方は、まずはここに立ってから、土下座か頭を腰より下に深く下げてやらかしたことを大声で白状し、謝罪の言葉。騙した学校の人達を集めて『私達が悪い噂を流し、若原先輩を貶めました。申し訳ございませんでした』ですかね。そこまでやる勇気ないでしょ、どうせ」

 鎌田は震えた。そんなことをすれば、自分達の立場が悪くなるどころではない。皆からどういう目で見られるか。

「これをするなら、若原さんも許しますよね」

「そこまでするならもちろん。誠意を感じるしね」

 何も言えなかった。はい、やりますとは絶対に言えない。やりたくない。

「……本当に、ごめんなさい」

 か細い声で言う在賀。奏介も咲人も何も言わない。

 鎌田は在賀の手を握った。怖くなった。

「マヨちゃん……?」

 無言で駆け出した。何を言っても許してもらえない。その結果どうなるのか怖くなった。

 どうしようもなくて、許すと言ってもらえなくて頭がおかしくなりそうだった。

 その感覚は、若原咲人が痴漢の冤罪をかけられ、周りから白い目で見られていた時のそれである。

 奏介も咲人も止めなかった。走り去る2人の背中を、消えるまで、いつまでも見ていた。


●●


 がむしゃらに走っていた鎌田と在賀は、突然目の前の道を塞いだ人物の顔を見た。

「え……」

「へ……?」

 間抜けな声を出す鎌田在賀コンビ。

 その人物は柔らかい笑みを浮かべた。

「こっちへ来て。お茶でもしましょう?」

「な、何を」

 その人物は、佐野始め、鎌田達が散々バカにして笑っていた女子生徒だった。


●●


 数日後。放課後。

 奏介は、駅で落ち合った咲人と歩いていた。

「噂回るの早かったんですね」

「君の投稿を見て気付いた生徒が多くてね」

 奏介は万智桃高校のネット掲示板にとある書き込みを行った。退学になった佐野に絡めて、鎌田在賀松中が咲人の噂を流した最低グループだと。

「今、白い目で見られてるよ。いじめられたりはしてないけど、肩身が狭そうでね。そのうち、自主退学でもしそうだけど」

 咲人は何の感情もなく、そう言った。穏やかではあるが、相当怒っているのだろう。何しろ人生を左右するかもしれなかった噂を流した理由が友人の恋を応援するため、だったのだから。

「ありがとう。君達には感謝してるよ。奏花さんにもよろしく伝えてね」

 ひやりとしたが、どうやらミソラは言わないでいてくれているらしい。

「いえいえ。前も言いましたけど、自分のいじめの復讐の一環なので」

「そっか。……ミソラもよろしく伝えてって言ってたよ」

「また付き合い始めたんですよね。よかったですね」

「ああ、泣きそうになりながら謝ってくれて。あのギャップが可愛いんだ。二重人格属性みたいな? 最高だよね」

 唐突に惚気た咲人に、奏介は苦笑を浮かべるしかない。

(そこが、良いんだ)

 と、唐突に2つの可愛らしい包を渡された。口のところがリボンで結ばれていて、一つは透明でクッキーが詰め込まれていて、一つは中が見えないようになっている。

「ミソラからのお礼。クッキーが菅谷君で、そっちのピンク色の方が奏花さんにだって」

「え、ああ……なるほど」

 帰宅してから開けたら、奏花宛の包の中身は、リボンの髪飾りだった。特にメッセージもなく、ちょっと怖いと思ったが。

(良かったら、次回の女装の時に、つけてねってことかな……)

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