第314話同窓会メンバー3人に精神的ダメージを与えるために反抗してみた5

 救急車内で意識は戻ったものの、しっかり病院に運ばれて、検査のために入院することになってしまった。

 苦笑いの看護師有井が担当で、通りかかった看護師長に少しだけ睨まれた。

 話を聞きにいつもの見王刑事と谷口刑事も病室へやってきてドキリとしたものの、

「……ああ、上嶺議員か」

 谷口刑事はそう呟いた。

 上嶺議員の息子、有孔との関わり、奏介の父親との確執など背景にあった事情を話したら、そこまで叱られることはなかった。

「今回は殴られたり刺されたりした時に怪我しないように、ヘルメットとか防具とかつけて対策はして行ったんですけど……すみません」

「あー、うん。対策より、まずは怪我しそうなところに行かないほうがいいね」

 見王刑事にそう言われるが、自然な形でスルーしつつ、話題を変える。

「上嶺議員の息子とは同級生で、いじめられてて、最近目をつけられてたんです。上嶺議員も関わってきて、うちの父と会社にまで嫌がらせしていたので、無視できなくて」

 谷口刑事が息をついた。

「おれの同期が例の大規模な議員汚職事件の担当なんだが、上嶺議員は叩けば叩くだけ埃が出てるらしいな」

 良くないことを裏で色々やっていたのだろう。

(息子の喧嘩相手の親を退職に追い込もうとしてくるヤツだしな)

 この際なので、一つ残らず悪行を暴いて社会的に抹殺されてほしいと思う。

「まぁ、今日は遅いからまた改めて話を聞きに来るから」

「はい、お疲れ様です」

 奏介は見王刑事に頭を下げる。

「この前のように抜け出したらだめだぞ」

 谷口刑事に言われ、奏介は背筋を伸ばす。

「わ、分かってます。大人しくしてます。その代わり……よろしくお願いします」

 奏介に対し暴行を行った御島、そしてあの場にいた加納、佐野、上嶺。奏介といつものメンバー、そしてあの場にいた若原達の証言により、警察では暴行を行った不良グループとして4人を捜索しているらしい。

 御島はりんなを階段から突き落とした疑いをかけられ、りんなの両親から被害届も出されるので逃げられないだろう。そんな御島と友人の加納、そして汚職議員の息子上嶺、それらの友人の佐野。中々濃いメンバーである。

(外堀は埋めてやったからな)

 所詮高校生、家に帰らず逃げ回ったとして逃げ切れるわけがない。

 病室を出て行った刑事達を見送りつつ、ベッドに体を横にする。

「大人しく諦めるか、悪あがきするか」

 結果は決まったも同然だろう。

 明日は学校が休みの土曜日だ。昼間はいつものメンバーが見舞いに来ると言っていた。消灯まで後1時間半。このまま寝てしまおうか、とも思ったのだが。

「あ」

 奏介は体を起こした。


◯◯


 塚江りんなは、その夜、ベッドで本を読んでいた。消灯まで後1時間。

 のんびり過ごして、今日は、ゆっくり寝られそうな気がする。

「ん」

 スマホに着信があった。画面を見てみると、『加納ルコ』となっていた。

 りんなはごくりと、息を飲み込み急いで同階の待合スペースへ。通話が出来るのはここだけなのだ。

「……はい、もしもし」

『塚江さんさぁ、菅谷と友達だったの?』

 低い声、怒りを押し殺しているかのような。

 その声、学校内の非常階段に連れて行かれ、複数名に囲まれて、罵倒されたり、水をかけられたり、制服を切られたりした記憶が蘇る。

(そうだ、そうだよ。色々、やられたんだ)

 酷いことをされていたはずなのに、学校へ戻ってやり直そうとしていた自分に恐怖を覚えた。やはり、お見舞いに通ってくれていた加納ルコは、幻だったのだ。

「……加納さん? もう少しで消灯だから長電話はちょっと無理かも。ごめんね」

『質問聞いてた? 菅谷奏介ってキモオタクと知り合いだったのかって聞いてんの』

 苛立ちが伝わってくる。怖い。教室でのことがフラッシュバックする。

 りんなはぎゅっと拳を握りしめる。

「あ、うん。友達ではないけど、知ってるよ。それが、どうしたの?」

『はぁ? 惚けてんなよ、お前、菅谷にあたしらの個人情報売ったっしょ? まじで最悪なんだけど、ふざけんなよ』

 大声を出されて、体が縮こまる。

(怖い)

 全身に鳥肌が立っていた。きっと次に会った時に、ひどい目に遭わされる。

(ど、どうしよう、あ、謝ったほうが)

『塚江、聞いてんの!? あんた覚えてなよ、絶対に許さないんだから』

「!!」

 とにかく怖い。嫌な記憶が次々と溢れてくる。りんなは目に涙を溜めた。

 

 早く、謝らないと。


 パニックになり、口を開こうとした時である。後ろから電話を取り上げられた。

 スマホのスピーカーがオンにされ、加納の声が少しだけ大きく聞こえるようになる。

『おい、無視かよ、調子に乗るなよ、この鈍臭女』

「お前こそ調子に乗ってんじゃねぇぞ、階段から突き落とした相手に絶対に許さないってのはどういう物言いだ。塚江さんのセリフなんだよ、被害者面すんな。ふざけんなよ、犯罪者」

 受話口の向こうで、ひゅっと息を吸うような音が聞こえた。

『す……菅、谷? なん、で』

「誰かさん達のせいで救急車乗ったからな。お前、塚江さんを脅してるような余裕ないだろ。警察が探してるから、見つかったら連行だ。クソ犯罪者の分際で、塚江さんに関わって来んな。お前の薄汚れたいじめっ子思考が伝染るだろ。大人しく逮捕されて、豚箱で泣いてろ、クズが」

 奏介、通話終了をタップ。りんなはぽかんとしてしまった。あの迫力がある加納ルコの言葉をカウンターで切り返し、流れるような罵倒で通話を切断した。

 手際が良すぎる。

「塚江さん、ああいう輩は自分より弱い奴を攻撃してくるので、もう相手にしないほうが良いですよ。番号も拒否したほうが良いです。話してて責められると、怖いでしょ? そこは逃げないと」

「は、はい。……あの、菅谷さんはもう大丈夫なんですか?」

 3時間ほど前に緊急搬送されてきた彼は、頭に包帯を巻いている。普通に元気そうである。

 一瞬首を傾げ、

「傷は浅いですし、脳震盪だったらしいので大丈夫です。はぁ、悪あがきの仕方がアホで助かりました。それじゃ、おやすみなさい」

 奏介は笑顔で手を振って去って行った。

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