第313話同窓会メンバー3人に精神的ダメージを与えるために反抗してみた4

 意識を失って崩れ落ちた奏介に、その場がしんとなる。

「……なんで…」

 呆然とする佐野、上嶺の横でそう呟いたのは、加納だった。

「なんでいるの!? ユイコ!?」

 汗をびっしょりかいて、肩で息をしているのは、御島ユイコ。加納の同級生で友達、そして塚江りんなを直接階段から突き落とした張本人だ。

「うるさい!! どうしてくれるんだ? お前らがこいつをいじめてたせいで、あたしが逮捕されるかもしれないんだぞ!?」

「ちょっ、待ってよ、落ち着いて。こ、こんなことをしたんじゃ」

「どっちにしたって一緒だ。こいつ、あたしになんて言ったと思う? 『いじめをしていた加納ルコを追い詰めてやりたいから、あなたを警察に突き出します。証拠は揃えてあります』ってさ! お前らのせいじゃん! なんであたしがお前らがやってたいじめの仕返しに巻き込まれなきゃならないんだよ!? ふざけんなよ、ルコ!」

 加納、絶句。上嶺と佐野も呆然としている。

「た、逮捕なんか冗談じゃない。あたしは御島グループを継がなきゃいけないんだから!」

 御島の父親は大きな会社の社長であり、彼女は財閥の一人娘なのだ。加納とは高校から仲良くなり、共通の『イラつく存在』をターゲットにしてストレス発散を行っていた。

「ゆ、ユイコ。ま、まずはお、落ち着……」

 加納も上手く口が回らず慌てるしかない。と、その時。

「きゃあぁっ」

 公園の入口の方から入ってきたらしい二人組が声を上げて立ち止まっまた。

「な、何をしてるんだ、君達」

「い、いやあああっ」

 高校生の男女二人組。女子の方が男子に抱きついた。

 その様子に佐野が顔を引きつらせる。

 男子の方は若原咲人、佐野の想い人である。そして女子の方は以前から疎ましく思っていた咲人の彼女、埴輪はにわミソラ。

 見られてしまった。とんでもなく、マズイ場面を。

「は、佐野さん? 何を」

 咲人が上擦った声で呟く。

「せ、先輩! 違うんです、こ、この女がいきなりそこの高校生を殴り倒して」

 興奮状態の御島が佐野を睨む。

「お前、ふざけんなよ!! いじめやってたのはてめぇだろうが!!」

「ひっ!」

 佐野が青い顔で身を固くする。

「ま、待って、ユイコ、だから冷静になって」

 4人の様子に、咲人はミソラの手を引いて公園の入口へ引き返した。

 ミソラが慌てる。

「さ、咲人!? あの男の子助けないと!」

「うん、ミソラ、救急車呼んでくれ。俺は警察に連絡するから。おれ達まで襲われたら助けを呼べなくなる! まずは安全なところまで行こう」

 公園の入口を出たところで、咲人とミソラがスマホにそれぞれ『119』と『110』を打ち込んだところで、肩を叩かれた。

「もう呼んであるから、心配するな」

「危ないから、隠れてた方が良いかも」

「大丈夫、死にはしてないと思うわ」

 高校生らしき男女6人組が、すれ違いざまに公園内へと入って行った。



◯◯



 奏介は、そっと目を開けた。

 死んだふりは、真崎の合図で止めることになっている。 

「いてて、まったく」

 奏介がゆっくりと体を起こすと、真崎と棒を持ったままの興奮状態の御島が対峙していて、佐野、加納、上嶺の姿は消えていた。

「奏ちゃん! よ、良かった」

「はぁ、なんとか死んでなかったみたいね」

「大丈夫かい? 気絶してたみたいだけど」

「あんまり、動かないほうが良いかもしれないわ」

「うんうん、ちょっと切り傷出来てて血が出てるし」

 詩音、わかば、水果、モモ、ヒナ、周りにはいつもの女子メンバーが。

 さすがの衝撃に一瞬だけ意識が途切れたが、対策はしてきて正解だったと認識する。

「なんなんだ、てめぇら。その菅谷とかいう奴の仲間か」

「ああ、まぁな」

「なら、全員帰すわけにいかないな。ぶっ殺してやる!!」

 混乱と言うか錯乱して、我を失っているようだ。

「落ち着け。これ以上やると罪が重くなる。殴った分だけな。どっちにしろ逃げられないから諦めろ」

 真崎が冷静にそう言うと、御島はギリリと唇を噛んだ。

「うるさい、貧乏人が。あたしは」

「ユイコお嬢様って、そんな言葉遣いするんですねー」

 真崎の隣に並んだのは腕を組んだヒナである。

「え……まさか、僧院、の」

「いつも父がお世話になってます。それはそれとして、見損ないましたよ。有名財閥のご令嬢がまさか、道端で人を殴るなんて、ね」

「ち、違う! ……く、僧院なんてうちの会社の半分以下のくせに」

「こんな状況でも人を見下せるって、そんなんだからお仲間に逃げられるのでは?」

 ヒナが冷たく言い放つ。

「こ、このぉ、」

 身構える真崎、奏介は真崎の肩に手を置いて、前に立った。

 少しふらふらする。

「呼び出しに応じてくれてありがとうございました。あいつらと一緒に話を聞いてほしかっただけなんですが、まさか殴られると思いませんでした」

 この場に呼び出したのは奏介であり、加納達とまとめて罵倒するつもりだったのだ。

「てめぇ、あたしはお前の仕返しに関係ないだろ! 全部加納ルコとその仲間がやったことだ。それを巻き込みやがって」

 奏介はため息を一つ。

「加納達に当たってましたけど、あなたは、ただ巻き込まれたわけじゃなく塚江さんを階段から突き落としたから、ついでに逮捕させて加納達も巻き込んでやろうと思ってたんです。そもそも殺人未遂やらかしてるのに、何にキレてるのか意味がわからないんですけど。俺の仕返しに巻き込まれなきゃ無罪とでも? 単体でもとっ捕まるようにしてやるつもりだったよ、実際。てか、許されるわけねぇだろ、クズが」

「っ! ただのクラスメート同士の小さな揉め事に他人のお前が首突っ込んで正義の味方気取りか!? 反吐が出るな!!」

 奏介はやれやれと首を振った。

「関係ないのに首突っ込むなって? だって野放しにしといたら同じことやるじゃん。階段から人を突き落として喜んでる奴と同じクラスになったり同じ大学に行ったり、同じ会社で働いたりする人が危険にさらされるだろ。関係ないのに首突っ込むなって便利な言葉だけど、犯罪には通用しないだろ。犯罪に介入する警察は正義の味方気取り? 実際正義の味方だろうが」

 言い返したいようだが、御島は言葉が出ないようだ。そして、

「くそがっ」

 御島は棒を手離して、踵を返した。走り出す。別の出口から逃げるようだ。

「たく、往生際が悪いな」

 追いかけようとした真崎を、奏介が手で制止した。

「あの棒調べればすぐ捕まるから大丈夫だ。指紋と、運良く俺の血もついてるしね」

 下手に追いかけて刺激し、周りの人間に危害を加えられたら大変だろう。

 奏介はその場に座り込んだ。

「はぁ……」

 いつの間にか頭痛が酷くなっていた。

「ちょっと、大丈夫なの? あんた凄い汗よ」

 わかばの言葉に、奏介は被っていたカツラを外した。自分の髪型とまったく同じカツラ型のヘルメットだ。殴られても良いように対策はしていたのだ。

「わ、壊れてる!?」

 詩音が悲鳴にも近い声を上げた。

「よっぽど強く叩かれたってことだろうね」

「ひどい」

 水果もモモも心配してくれているようだ。

 カツラの一部は割れていて、奏介はその破片で頭皮の一部を切っていたらしい。

「う〜言ってくれれば鉄のカツラヘルメット作ったのに!」

 ヒナが悔しがるが、そこまでの時間はなかった。

「災難だったな。一応準備しておいて良かったってことか」

 奏介は少し考えて、

「ああ、そう、だ、な」

 視界がぐにゃりと歪んだ。頭痛の痛みが限界に達し、平衡感覚が消失し、意識が一気に遠のいた。

「あ」

 みんなの声が聞こえたが、答えられなかった。やはり、殴られた衝撃は、傷がなくとも影響があるようだ。

 薄れる意識の中で、思う。

(悪いな、皆。御島に殴られるのは想定済みだったんだ)

 呼び出す際に御島をメチャクチャに煽って、公園内に手頃な木の棒、太い枝をいくつも落として置いた。バレないように木の枝は回収したいところだが。

(無理、だな)

 体にも力が入らなくなって行き、意識はそこで途切れた。

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