第310話同窓会メンバー3人に精神的ダメージを与えるために反抗してみた1

※前書き

過去キャラ出ます。

上嶺、佐野、加納の初登場209話〜

佐野、加納再登場270話〜

上嶺再登場297話〜

 

 数年前のとある日。

 ロッカー閉じ込め事件から数日、退院した小学生の奏介は4年生の自分のクラスの前で足を止めた。震えている。この戸の向こうには笑ってロッカーに鍵をかけたクラスメート達がいるのだ。

 奏介は泣きそうになるのを堪えて、ゆっくりとクラスの戸を開いた。

 ざわざわした教室内がシンと静まり返る。

 ひそひそ。


「来なきゃ良かったのに」

「入院て大袈裟だよね」

「なんか、警察とかも呼ばれたって」

「迷惑すぎない?」


 ロッカーに閉じ込められ、脱水症状になり病院へ搬送されたものの、学校からの配慮はなかった。

 固まっていると、担任の持竹が入ってきた。

「ああ、菅谷。今日からか」

「あ、あの! 今日、給食を食べてから病院なので、早退、します」

 持竹は渋い顔をした。

「退院して治ったんだろ? あんまり親御さんを困らせるなよ」

「……はい」

 批難と蔑み。奏介は自席についた。

「言っておきますけど」

 隣の檜森リリスがそう口にした。

「あなたのこと、大嫌いですので、もう告白とか止めてくださいね。気持ち悪いので」

 奏介はうつむいてぎゅっと拳を握りしめた。

 そして、目が覚めた。涙が頬を伝う。

「夢……」

 奏介はベッドの上で、少しの間ぼんやりとした。悪夢の余韻は少し長い。

(……ところで檜森、夢で言いたい放題すると、また締めるぞ?)




リビングに流れていたニュースに、上嶺は呆然としていた。


『一か月前、桃糠町にあるホテルで、行われた食事会を主催したのは岡晴文議員。参加者は上嶺議員など数十名に上るということです。パーティ中にウェイターの女性が過剰な接待をし、脱衣するなどの一幕もあったとのことで、調査を進めています』


 父は少しの間出張で帰らないと、何故か意気消沈している母親に告げられてすぐにニュースを目にしてしまった。

「なん……はぁ?」

 頭がぐわんぐわんとして、目眩に襲われた。

(なんだこれ、なんだこれ!)

 震える手で野庭に連絡しようとするが、メールは返ってこないし、電話も出なかった。

(くそ)

 野庭は諦めて、上嶺はとある人物2人に連絡を取った。



 数時間後。

 人気のない公園で上嶺が落ち合ったのは、同級生だった佐野と加納。

 同窓会で奏介とやり合った2人である。

「なんなの? 呼び出して」

 佐野が不機嫌そうに言う。

「なんなのじゃない。ニュース見ただろ。お前ら、余計なことを言いふらしたんじゃないだろうな? 前も裏切って、うちの父親に謝罪させてたしな」

「何それ、言いがかり? 謝罪って何。てか、上嶺の父親、警察に捕まったんでしょ? 女の人の服脱がせたって。さすがに気持ち悪い」

 加納が軽蔑するとでも言いたげにそう言った。

「っ……! 散々うちの金で飲み食いしてたくせに」

 年に2回は同窓会を開いていた。そこに招待していたのは仲が良かった4年生クラスのメンバーである。

「それは、女の人を脱がしてたなんて知らなかったからでしょ?」

「そうそう。いやらしいことに手を出してる議員の息子のお誘いなんか蹴ってたっつーの」

 あっという間に仲の良かった同級生が敵になった気分だ。

(すぐに態度を変えやがって)

 例の同窓会では上嶺をかばって菅谷に噛みついていたのに、勝てないと分かってからはこちらに八つ当たりするような態度になってきた。

 それにどこか、彼女達はイライラしているように見える。   

「はぁ。あの同窓会で菅谷と関わってから災難続きだわ」

「ほんと、勘弁してほし……」

 3人は、はっとして顔を見合わせた。

「まさか」

「え……」

 佐野と加納は上嶺議員がニュースになった件について、ある可能性に気づいた。奏介が関わっているのではないか、と。

 上嶺も青い顔をする。

(まさか、菅谷の父親をクビにするのに失敗した、とか)

 秘密裏に進めていた、菅谷家へのサイレント攻撃。それがバレて奏介に返り討ちにされ、冤罪をかけられたのではないだろうか、と。

(よく考えたらあの厳格な父さんがあんなことをするわけないし)

 失敗したとしても野庭家の方だろう。

「あのさ、上嶺」

 顔を上げると、女子2人がこちらを睨んでいた。

「もう関わってこないでくれる? 元はといえば上嶺が菅谷を煽ったからでしょ」

「なんだと?」

「そう、席を用意せずに招待して、バカにしたからあいつ逆上したんじゃない。全部あんたのせいだよね。父親も変態だし」

「この……!」

 いくらなんでも手のひらを返し過ぎる。

「あの場にいた全員で軽い遊びをしてる感覚だっただろ!? あの時笑ってただろ、お前ら」

「そんなの知らなーい」

「ほんと、もう菅谷に関わりたくないわ。頭おかしいもん、あいつ」

 と、静かな足音が公園内に響いた。

「なんだ、仲間割れか?」

 いつの間にか夕闇に包まれた周囲、街灯の下に現れたのは奏介だった。

「随分と面白い話してるな。上嶺に佐野、加納?」

 上嶺は顔を引きつらせた。

 佐野はごくりと喉を鳴らし、加納の手を取った。

「帰ろ。あたし達関係ない」

 走り出そうとした二人に向けて、奏介が言う。

「また逃げるのか? 野球部の若原咲人わかはらさきと先輩と入院中の塚江つかえりんなさんが悲しむぞ」

 ぎくりと足を止める佐野と加納。

「……え」

「なん、で、その名前」

 奏介は肩をすくめた。

「逃げんなよ、俺とお喋りでもしようぜ」

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