第309話バス停で喧嘩していたカップルに反抗してみた2

※この作品はフィクションです。実在の人物、出来事とは一切関係ありません。 


 2人が同時に顔を引きつらせた。

「な! なんだと!?」

「失礼過ぎでしょ!?」

 奏介は、はっとした。

「いや、あ、すみません。つい、最近の癖で。い、言い過ぎました」

 慌ててそう言った奏介は、こほんと咳払い。

「それはそれとして、そちらの男性の方、奥さんとお子さんがいるのに他の女性に手を出すのは普通にアウトでしょ。不倫で裁判なんてよく聞きますし、数十年生きてきたなら、やっちゃダメなことくらい分かりますよね?」

「うぐ……」

「しかも妊娠? 良い大人なんですから、無駄に女性の体に負担かけるようなことしちゃダメでしょ。女性のことを何も考えてないのに愛してるとか言っても説得力皆無です。妊娠中絶させることで、女性がどうなるか考えて思いやれないのに愛してるはないと思います。ぶっちゃけ、ヤリたいだけですよね、どう考えても。宿った命に責任持てないなら、しっかり対策して下さい」

 御守が目を輝かせた。

「そうよそうよ! 言ってやって!!」

「で、奥さんと離婚するからって言って引き止めてたんでしたっけ? 人の人生なんだと思ってるんですかね? あなたはただの仲良しするお友達セフレが欲しかったんでしょうけど、女性にも人生があるんですよ。50代のおっさんなんだから、彼女に『奥さんと子供がいるから』としっかり振ってれば同年代の旦那さん見つけて家庭を築けてたかもしれないのに、ヤリたいだけでキープしてるのが胸糞なんですが。人の人生ぶっ壊してることに気づいてます?」

「ぐぐぐ……」

 言い返せないらしい。

「ほんっと、そう。婚期逃しかけてるんですけどー? 結局あたしのことなんてどうでも良いってことよね?」

「ぜんっぶオレのせいにしやがって! お前だって、俺に嫁がいることを承知で近づいてきたじゃねえか」

「手を出してきたくせに何言ってんの?」

 奏介は何度か頷いて、

「まぁ、そこですよね」

 蔑んだように神保原を見る御守へ視線を向ける。

「最初から、この人に奥さんがいるの知ってたんでしょう? なら、なんでデートとか仲良くしちゃったんですかね? 拒否した方が良かったでしょ。まぁ借りに、そういう関係になるとしても後々困らないようにしっかり対策しないと。こんな理由で堕ろされる子供が可哀想だし」

 残念ながら、男の意向で消えてしまった命だ。

「そ、それは……だって、奥さんとは冷めきってて、離婚も秒読みだって言うから」

「離婚するって、それ口約束ですよね? どう考えても離婚を待ってから付き合った方が上手くいくでしょ」

「そ、そうなんだ。嫁がいることを知っててメッセージや手紙やらを送ってきて、かなりグイグイ来られて、オレが折れちまったんだ」

「あー、相手をその気にさせるようなアピールは良くないですよね。勘違いされても文句言えませんよ」

「そう思うよな!? 『大好きです。会いたいです』なんてことを書かれたら心がざわつくだろ」

「ですね。自分で誘ったのに被害者面は良くないですよ」

「そうだそうだ!」

「なら、避妊拒否したのはどうなのよ。出来たら困るから、してって言ったのに出来にくいからとか言い訳して! それで何度もしたじゃない」

「そ、それは」

 口籠る神保原に鼻を鳴らす御守。

「最っ低でしょ」

 奏介は少し考えて、

「嫌だったんなら、もうそこで会わなければ良かったのでは?」

「……は?」

「だから、そういうことされたんだし、女性のことをなんとも思ってない男性だってなんとなく分かるじゃないですか。連絡を絶ってもう体は許さないってことにした方が妊娠は防げましたよね? その時の一回は、病院行けばなんとかしてくれたでしょうし」

「そ、そうだ! 結局受け入れたのなら、合意だろ。それを悪者みたいに」

「で、出来ないって言うから、仕方なく、みたいなところあったのよ!」

「とりあえず、受け入れるとかいれないとかの前に、避妊はしてください。合意とかどうでも良いので、して下さい。そしてあなたは避妊してもらえなかった時点で警察に通報でしょ。奥さんがいる男性がそんなことしてきたら、セクハラ通り越して犯罪なんで」

「そ、そうだ。それをしなかったんだから、合意だろうが」

「あんたみたいな奴を通報したら、逆恨みされるし、受け入れるしかなかったのよ。それが合意ってなんなのよ」

「一周回って、お互い合意だったみたいなので、どっちも悪いですね。生まれてこられなかった子どもと、奥さん達に2人で謝罪してください」

 二人とも黙った。

「ふ、ふん。まぁ良いわ。あんたの人生終わったから」

 御守がスマホを見せつける。週刊誌に神保原の不倫情報を売ったらしい。

「ぐぬぬぬぬ」

「あたしをバカにした報いよ!」

「んだと!?」

 奏介は今日何度目かのため息。

「あー、女性の方」

「何? こいつがやったことは最低なんだから良いでしょ」

「自分でメッセージ送りまくってアピールし、不倫が始まって、でも振られたから情報売ったってことですよね? 多分お金もらってますよね? それはそれで最低だし、男性の方を陥れるために付き合ってたと思われても何も言えませんよ?」

「そ、そうだ。その可能性はあるぜ」

「そんなわけないでしょ!? こっちは心身共に傷ついたのに」

「それは気の毒なんですが、彼の人生とその活動も終わりなんですよね。純粋な周りのファンからしたら、彼の活動が終了したのは不倫相手のあなたということになってぶっ叩かれると思うのですが。最終的に情報売ってますし」

「そ……それは」

「楽しみにしてくれてる視聴者はたくさんいるからな、お前のせいでオレの人生は終わりだ。確かに、視聴者達はどう思うんだろうな? ああん?」

 睨み合う2人。そして野次馬に囲まれる奏介、神保原、御守。

(どっちも悪いよ……どっちも)

 気が遠くなりそうだ。

「で、坊主よ。この女のほうが悪質だろ」

「こいつよね? 女性の敵!」

 詰め寄られ、奏介は表情を引きつらせた。

「いや、だからお互い悪いところありますよ。とにかく、もうこの辺にして解散しましょう。人集まってますし、それなりに有名人なんですよね? さっきからスマホのシャッター音が鳴り止まないですし」

 もう手遅れだとは思うが。

「なら、ゆっくり話せるところに行こうぜ。決着はついてないからな」

「望むところよ」

 2人は同時に奏介の腕を掴んだ。

「な、なんでまた俺まで! 2人で解決してくださいよ」

 引っ張られそうになったところで、騒ぎを聞きつけた警官が入ってきた。

 2人は……普通に怒られていた。



 数日後。

 菅谷家のテレビには有名動画配信者とファンの女性のスキャンダルのニュースが流れていた。朝の情報番組でコメンテーターやアナウンサーが呆れ顔で意見を述べている。

「……だから言ったのに」

 奏介は朝ご飯のトーストを噛りながら呟いた。


※この作品はフィクションです。実在の人物、出来事とは一切関係ありません。 

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