第303話学校外での子供の怪我を教師のせいにする保護者に反抗してみた1

※前書き

大山華花初登場29話〜 関連101話〜


 昼休みの風紀委員会議室に珍しく、大山華花が現れた。

「お昼食べてるところごめんね~」

桃華学園非常勤美術講師であり、演劇部のメイクなども指導している。特技は他人に特殊メイクを施すこと。

「ん? 大山先生、今日は確か夕方から」

 水果が首を傾げる。

「ちょっと、菅谷君に用事があってさ。食べながらで良いから聞いてくれない?」

「どうしたんですか?」

 奏介が声をかけると、大山は奏介の正面に座った。

「シンプルに頭おかしめな人に絡まれてる知り合いがいてね」

「あー」

 詩音が苦笑を浮かべ、

「なんかもう察したわ」

 わかばが息を吐いた。

「もしかして、小学校教師の後輩さん……の話ですか?」

 モモは事情を知っているらしく、そう聞いた。

「そうなんだよね。モンスターペアレンツに目をつけられて、皆の前で怒鳴られるっていう公開処刑をされて落ち込んでてさ。まあ、言い返すのが苦手な子だから仕方ないところはあるんだけど」

「ん? そういえば小学校に通ってる従姉妹が校門前で怒鳴ってる保護者がいたとか言ってたな」

 真崎が何か思い出すように言う。

「針ヶ谷君、従姉妹がいるんだ?」

 黙って聞いていたヒナが問う。

「近所に住んでいる従姉妹の姉妹がそれぞれ小学校と中学校に通ってるんだ」

 大山が目を瞬かせた。

「そうなの? だったら知ってるかもね。柳屋先生って言うんだけど」

「名前までは分からないっすね」

 真崎がそう言った。

 奏介は少し考えて、

「それで大山先生が聞いてほしいことってなんなんですか?」

「今日の放課後、その保護者に呼び出されてんだって。桃華小学校の校門前に」

「それって……」

 公開処刑。人目があるところで辱める、ということだろうか。

「さすがに酷いですね」

 奏介は眉を寄せた。やり方がかなり卑怯だ。

 大山は人差し指を立てた。

「最初は進路相談室とかで罵倒されまくってたらしいんだけど、段々エスカレートしてきたみたい。校長先生も教育委員会にいうとかそういう脅しをされてね」

 大山はため息を吐いた。

「止める人がいないと調子に乗ってきますからね。公の場でそんなことをやってるなら、俺がなんとかしますよ」

「調子に乗ってるいじめっ子ほど不快なものないしね!」

 ヒナが言うと、詩音とわかばが顔を見合わせた。

「奏ちゃんのスイッチが入った音が」

「ヒナもちょっとやる気になってるわよ?」

 モモと水果も反応する。

「菅谷君、応援してる」

「まあ、無理しないようにね、菅谷」

「従姉妹に連絡してみるかな」

 真崎がそう呟いた。



放課後。

 風紀委員会議の後に、桃華小へと向かっていた。

「悪いな、針ヶ谷付き合わせて」

 今日は風紀委員メンバー&いつものメンバーは運悪くそれぞれ用事があるらしい。委員長には断ってきたので一応風紀委員活動だ。当校の教師の相談ということで。

「いや、大丈夫だ。それより、かなり凶悪な保護者っぽいけど」

「……聞く限り、かなーり性格曲がってるらしいんだよね」

 演劇部活動の合間をぬってついてきた大山がうーんと唸る。

「ん? あの人ですか?」

 奏介が大山の顔を見る。

 正門前で浮かない顔をして、申し訳なそうに立っているのは、若い女性だ。彼女が柳屋という教師なのだろう。

 奏介、真崎、大山が歩み寄ろうとした、不意に柳屋に誰かが近づいた。仕事帰りなのか、ブラウスにスカートというフォーマル寄りの出で立ちの女性である。こちらは30代前半だろうか。

「あぁ、もういたのね、先生」

「こ、こんにちは、樽谷たるたにさん。今日はどういったご用件でしょうか」

 樽谷と呼ばれた女性は、柳屋に冷たい視線を向けた。

「分かっているんじゃなくて? この前、うちの子が車に轢かれそうになって怪我をした件ですよ」

 奏介はぽかんとした。

(車……?)

「それは、あの、大変だったと思いますが、樽谷さんの自宅の近くの公園がある通りでの話でしたよね? 放課後ですし、学校側はどうすることもでき」

「あなたねっ! 子供を預かってる立場で何無責任なことを言っているの!?」

 大きな声に柳屋がビクッとなる。

「学校での教育がなってないならこうなってるのよ。車の前に飛び出さない、なんて常識的なことを教えていないなんて」

「それは」

「教育委員会に連絡して、あなたの処遇を決めていただいた方が良いかしら? ダメ教師をこれ以上子供たちと触れ合わせないようにね」

「!? そ、そんな」

 柳屋は可哀想なくらい泣きそうな顔をしていた。大山が走り出す。

「ちょっと! それは理不尽過ぎませんか!?」

 飛び込んできた大山へ視線を向ける樽谷。

「なんなの、あなた?」

「大山先輩……?」

「学校外のことを教師のせいにするなんて」

 大山がやや興奮気味に言う。

「あら、子供を預かってるのだから当然でしょう」

「だから! それは学校にいる時だけであって」

 と、奏介が割って入った。

「あのーすみません。初めまして。大山先生にお世話になっています。桃華学園高校の菅谷と言います」

 樽谷は眉を寄せたあと、勝ち誇ったかのように大山を見た。

「あら、あなた教師なの? 話が早いわ。二人まとめて教育委員会に通告してクビにしてもらいますから」

 奏介は首を傾げた。

「さっきから聞いてたんですけど、怪我したのってあなたの子供が悪くないですか。小学生なら分かるでしょ。車が危ないってこと」

「……はあ? 高校生の子供には分からないかもしれないけど、幼い子供や小学生は大人が管理しないといけないのよ」

「ああ、なるほど、赤ちゃんの頃からのご家庭での教育が物を言うと」

 奏介はにっこりと笑う。

「どういう教育をしたら、車の前に飛び出すようなクソガキになるんでしょう?」

「なっ」

「ああ、お子さんは悪くないですよ? 赤ちゃんの頃からちゃんと教育できなかった母親であるあなたの全責任ですね」 

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