第301話注意したカラオケ店員に嫌がらせをする迷惑客に反抗してみた5
「堂々と人様に迷惑をかけやがって。勝手に髪を切るだぁ? 二十歳にもなって、んなことで喜んでるバカがいるか! 貸せっ」
ロン毛男である父はハサミを奪い取り、呆然としている彼の前髪をざくりと切った。
前髪ぱっつんロン毛である。
「すんません! これで許して下さいっ」
ロン毛父が頭下げる。非常に面白い状態だが、
「いや、あなたみたいに頭を下げられるお父さんはそもそも許すも許さないもないですよ」
奏介は笑って立ち上がる。
「そこのクズは成人してるんですし、そこまでお父さんがすることないですって。なぁ、クズ野郎」
「こ、この野郎!」
ようやく我に返ったらしく、掴みかかってきそうになるが、父親にぶっ叩かれた。
「すみません、菅谷さん。今日は帰りますんで。何かあったら後で」
「承知致しました。つき合わせてしまってすみません」
ロン毛男父はペコペコしながら彼を引っ張って言った。力関係は父の方が上なのだろう。あまり抵抗出来ないようである。
「はー、こういうことね。あたしらにいじめ現場見せて謝らせようって」
「マ、ママ」
派手なの女性がハイヒールを鳴らせて、茶髪女の前に立つ。茶髪女の母親なのだろう。
腕組み。
「性格が悪くていらっしゃるわね。自分の息子をいじめさせて、そういうレッテルを貼るわけね。見ていたのだから、その前に止めるのが親でしょ。それでも親なの?」
洋輔が、ぐっと言葉に詰まるのが分かった。
「はぁ? 何それ。止めずに見てたって、最低な親じゃん」
洋輔が怯んだためか、茶髪女がワケのわからない便乗をしてくる。
(頭大丈夫か、この女)
野庭は黙ったまま、様子を伺っている。
奏介は一歩前に出た。
「え、あなたはそこの茶髪クソ女の母親なんですよね? こっちが止めるとか止めないとかの前に暴力振るわないように教育出来なかったんですかね? 自分の子供なんでしょ、そいつ」
母親はムッとする。
奏介はやれやれと、大袈裟に頭を振った。
「自分が上手く子育て出来なかったからって、こっちのせいにするとか、頭おかしいでしょ」
「黙っていればどれだけ失礼なことを言うの!? 子供を守れてない上にこんな子を育てて、恥ずかしくないのかしらね! 菅谷さん」
黙ってしまっている洋輔に攻撃を始める母親。そして追撃しようとする茶髪女。
さすがに洋輔も反撃に出ようとしたが、奏介が腕で制止した。
「守れてないというか、いじめを防ぐよりわざとやらせて証拠取ったほうが良いに決まってるじゃないですか。だから、父に止めないで欲しいって言っておいたんですよ」
母親は眉を寄せた後、軽蔑の目を向けてきた。
「ああ、そういうこと? 証拠をとって、訴えて賠償金を取るのが目的なわけね」
奏介はにっこりと笑う。
「んなわけねぇだろ。金じゃねぇんだよ。いじめやった証拠を取って、お前がクズ野郎だって社会に晒して、将来の可能性をぶっ潰してやるって言ってんの。就職とか結婚とかさ、まともに生きていけないように、社会的にな。止めたら無罪になっちゃうだろ? それに、いじめ行為をするような奴を止めたところで絶対またやるよ」
「しゅ、就職、結婚? はぁ? なんの話してんのよ」
「お前の未来の話。古長先輩に対しても、俺に対しても。他人に過度な嫌がらせをしておいて、幸せになれると思うなよ。特に古長先輩は精神的に追い詰められていたんだ。一生心に残る傷になるかもしれない」
「な、何、その大袈裟な話」
「大袈裟とか言ってる時点でお前はドクズなんだよ!! こっちはストーカーされたり、酒をぶっかけられたり、髪を切られそうになったり、自分がやられたら嬉しいのかっつってんだよ」
奏介は床に落ちていたハサミを拾い上げた。
「ひっ!」
「やられてみたら、俺の気持ちが分かるんじゃないか。笑って許せることなのか。試してみようか。俺が、手伝ってやるよ」
すると、母親の判断が早かった。彼女は茶髪女の手首をがしっと掴み、
「ママ!?」
娘を連れて、無言で店を走り去って行った。
(さすがに刃物で脅すのは良くなかったか)
そうは思いつつも、奏介はふんと鼻を鳴らし、ハサミを床に放る。
(まぁ、逃げたところで晒すけどな)
しかし、ロン毛男の父親には同情するしかないだろう。
「で? お前は?」
野庭はテーブルに腰をかけていた。
「面白い茶番でした。まさかパパに助けてもらおうだなんて。親に泣きついちゃうとか情けないと思わないんですか?」
意地の悪い笑みだ。
「ん? 俺未成年だし、親に頼っても良くね? 煽りになってねぇよ。子供なんだし、普通に親に泣きつく時もあるわ。未成年じゃないお前がパパママにワガママ言って店を貸し切ったりするのとは意味が違うっつーの。」
「っ! 口の減らないやつですね」
「面白いことを言うお嬢さんだ。うちの息子はまだ15歳なんでね。それより、野庭あんじゅさんだったかな? うちの会社にいた事務の野庭君の娘さん、だったね」
洋輔の目が鋭く輝いた。野庭は何故か、まだ挑戦的な表情を崩さない。
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