第300話注意したカラオケ店員に嫌がらせをする迷惑客に反抗してみた4
野庭は目を瞬かせた。
「あ、あなたは」
「バレバレなんだよ。古長先輩が俺達の部屋に食べ物を届けに来た時、お前外から覗いてタイミング計ってただろ。わざわざ客の前で同僚のミスを指摘して性格悪いし、下里達にシフトの情報も漏らして陰で笑ってたんだよな?」
野庭はバカにしたようにふっと笑った。
「あははっ、自分は全部分かってましたーって? 刑事ドラマ気取りって感じでクソダサなんですけど」
ストローをくわえ、メロンソーダを一口。余裕の態度である。
「自分のバイト先に下里とかいう駄犬を送り込んだ上に、粗相させてお店に迷惑かけて、何考えてんの、お前。そう言う性癖の変態? 給料もらってる自分の雇い先を攻撃して、頭おかしいんじゃないの?」
「っ!」
さすがの野庭も表情が少し歪んだ。
「い、言うじゃないですか。でも、あれは下里が勝手にやったことですよ」
「あ、そうなんだ。最終的に警察に捕まって連れて行かれたの、最高にダサいよな。あ、野庭さんもあれのお友達だったっけ? ダサいのはどっちだか」
奏介は冷たい視線を向けた。
「よく口がまわりますね」
「お前のせいで古長先輩が下里にストーカーされて大変だったからな。個人的にはキレる一歩手前だよ。他人のシフトの情報漏らしてんじゃねえよ」
「はん、なんのことか分かりませんね。証拠もないのによくそこまで暴言吐けますね」
「……」
奏介が黙ったので、野庭は鼻を鳴らした。
「ここまで煽り倒したのに、ただのバカじゃないですか」
「たく、悪びれもしないんだな。煽ってるんじゃなくてお前のクズ行為を責めてるんだけど」
「はいはい、だから証拠がないでしょ」
と、奏介は両腕を拘束された。
「!」
振り返ると、チャラそうな若い男と女がにやにやと笑っていた。
「ああ、言い忘れてました。ここのお店、うちの経営なんですよね。有孔君とお話するのでたまたま貸し切りにしててー。そしたら一人で乗り込んできたお馬鹿さんがいたわけですよ」
「のこのこ乗り込んできてさ。ばっかじゃないの?」
「無事で帰れると思うなよ、陰キャ野郎が!」
ふと奏介は気づいた。よく見れば下里と一緒にいたロン毛男と茶髪女の二人組だ。
「お漏らし下里の家来二人組か。なんでいるの? 警察に連れて行かれたと思ったけど」
と、腕を引っ張られて力任せに、床に放り投げられた。
「いつっ」
奏介は強打した腕を押さえながら上半身を起こす。
三人がこちらを見下ろしていた。
「言わせておけば、この野郎! あんたのせいで警察とか親にも怒られるし大変だったんだから」
「この年で説教とかマジ勘弁だったわ。お前のせいでさぁ」
奏介は、鼻を鳴らした。
「俺のせいっていうか、ママパパに怒られるようなことしたのが悪いんじゃないの? どうせ下里とは関係ないとか言いまくって解放してもらったんだろ」
足を蹴られた。
「うぐっ」
思わず声を漏らす奏介。
「うっせえって。何余裕ぶってんだよ」
「受ける~。ここ貸し切りだって聞いてた? 店員さんもいないの、気づかなかったわけ?」
「泣いて謝るまで遊んであげますよ」
立ち上がった野庭の手には手錠が握られていた。
「とりあえず、顔が意外殴るわ。声出したら、顔にも一発な」
奏介は床に着いた手に力を込めた。勢いをつけて立ち上がりながら、三人に背中を向けて走り出そうとするが、
「逃げられるわけねえだろっ」
思いっきり髪を掴まれ、引っ張られる。
「い、痛、い」
「なら、坊主にしてやろうかー? おい、ハサミ持ってこいよ」
「オッケー」
「残念ですけど、誰も来ませんからね?」
野庭がせせら笑いながら奏介の両手に手錠をはめる。
「まずは、濡らさないと、ねっ」
「ぶはっ」
ハサミを取りにいった茶髪女がコップの水を奏介にかけたのだ。
「ぎゃはは、なーいす」
「早くやってよ、断髪式」
「じゃ、オレがハサミ入れちゃいまーす」
「うぐ……」
髪を引っ張られている奏介は苦しそうに息を漏らす。
そして、
「では大胆に、じょっきーん」
奏介の前髪に伸びていたハサミ、だがそれを持っていたロン毛男の手首が誰かにつかまれた。
「あん?」
見上げると、それはノーネクタイスーツの中年男性だった。ロン毛男にとっては見知らぬ顔である。
「んだ、おっさん。ここ貸し切りなんだけど」
「……どっから入ったんですかね? 関係者以外立ち入り禁止と入り口に書いておいたんですけど」
野庭も白けた様子で言う。
「そうかそうか、それは知らなかった。とは言え、うちの息子に手錠をかけて髪を切ろうとしている君におっさん呼ばわりされるのは非常に不愉快だ」
中年男性もとい、菅谷洋輔はロン毛男の手首を良くない方へ曲げた。
「いだだだっ」
思わずハサミを手放し後退る。
「この野郎! いきなり出てきやがって」
洋輔は奏介の前に立ってポケットに手を突っ込んだ。
「ん? 随分反抗的な態度だね。私と、やり合うかい?」
「中年クソキモオヤジがイキってんじゃねえよ!」
「ヒーロー気取りのオヤジも一緒にやっちゃえばいいんじゃない?」
臨戦態勢のロン毛男と茶髪女。
しかし、
「おいっ」
「ぶへっ!?」
ロン毛男の後頭部を思いっきりぶっ叩いた人物が一人。
「んだよ! なんだてめえ、やる……の、か……?」
彼が後ろを振り返ると、
「漫画みたいなイジメやってる奴、初めてみた。警察に泊まっただけじゃ満足できなかったんか?」
ロン毛男の顔色が真っ青になる。
「お、親父」
「このバカ息子が!」
奏介は思った。
(何も対策せずに来るわけなくね?)
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