第295話自分での行為を迫る女子達に反抗してみた4
蒲島かごめが親に告げ口し、小学生以来の、「親から説教」という状況になってしまいそうだ。
向こうも親に言ったとしたら、誤魔化しても仕方ない。
クラスメート同士の軽いノリを強調しつつ、経緯を話すことにした。
(絶対割り込んできたあの女も関わってるじゃん)
内心でため息。
すると、
「……ちょっと……イタズラの範囲超えてるでしょ……」
母親が信じられないものを見る目で見てくる。
「いや、ただの遊びっていうか」
「パパも呼んでくるから待ってなさい」
母親は強い口調で言って、帰宅して夕飯を食べていた父親を部屋へ連れてきた。
「ってわけなの」
「……うーん。それくらいのことで。随分真面目な親御さんなんだろうな」
苦笑を浮かべる父に、あさひは、ホッとして、
「そう思うよね、パパ!」
母親は怪訝そうな顔をしている。
「ちょっとパパ。あさひが相手の子にしたこと聞いてた? しかもそれをSNSに上げたのよ? ありえないわよ。相手の子の気持ち考え」
「いや、ママ、本当に遊びなんだって。いつものメンバーだし、罰ゲーム的なノリでさ。それを本気にしてんのよ?」
「中学生くらいの子達の遊びは小学生の頃と比べて広がるからな。というか、父さんもやったことあるなぁ。ほら、裸でふざけて写真撮るとかな!」
思い出を懐かしむような言い方に、母が床に手のひらをついた。
「あのね、もし、あさひがそれをやられたら、私は相手の子を絶対に許さないわよ。弁護士さんよ? そういうことでしょ。……もう遅いけど今から謝りに行きましょ。多分、許してはもらえないでしょうけど」
「えー……?」
父は母の肩をぽんぽんと叩いた。
「まぁまぁ、もう動画は消えてるんだろう?」
「うん。一瞬だし、見た人いないかも」
「ならよし。多分、向こうも脅しの意味があるんだろう。明日にでも電話で謝れば良いさ。怪我させたわけじゃないしな」
ガハハと笑う父親を、あさひは心強く感じた。
対象的に母親はゆっくりと立ち上がった。
「行くわよ、あさひ。蒲島さん家に。誠意は見せないと。自分がされて嫌なことは」
「ごめん、パス。行きたいならママ一人で行ってきてよ」
「……そう。なら一人で行くわ」
母親の真面目な一面に、父親と顔を合わせて苦笑を浮かべた。
考えすぎだと。
○
翌日。
あさひはいつも通り家出た。母親は昨日帰ってきてから何やら思いつめた様子で口数が少なく。
「はぁ……。ママは昔からよね」
もう少し柔軟な考えを持ってほしいものだ。
中学校
教室について、そばにいたいつものメンツに声をかける。
「おっはよー」
するといつもの2人はおずおずと、
「お、おはよ」
「あのさ、大岡……」
と、窓際にいた女子委員長グループがこちらを見てきた。
「大岡さん、ちょっと良い?」
委員長が歩み寄ってくる。
「何よ、委員長」
「今日、蒲島さん休みだって」
「だから?」
大岡は肩をすくめて見せる。
「蒲島さんの裸の動画をネットに上げたんですってね。校内で噂になってるよ。女子更衣室とか盗撮して変なサイトに売ってるって聞いたんだけど、本当なの?」
「はぁ!? 何それ」
「桃華中学のネット掲示板に書き込まれてたっぽいよ。ほら」
見せてきたスマホの画面にはあの日の教室の様子が映っていた。写真は天井よりで、かごめは上半身しか映っていないが、泣いていた目にモザイクがかけられ、机の上にかごめのあの日パンツが置かれていた。
写真の下の書き込みは下の通り。
『これ、ガチでやってた。引くわ。いじめられてたのは2年○組の子。全部写ってないから本人に許可取って載せた。これやってた奴ら、ヤバいサイトにうちの中学の女子の写真撮って売ってるらしい』
かごめ以外で映っているのは大岡と3人だけ。ウメカとゆうほは画面外なのか見てなかった。
半分嘘で、半分本当だ。
「売るとかあり得ないから!! そんなフェイク画像信じる人いるわけ?」
思わずウメカとゆうほの姿を探すが、2人はいなかった。
(あいつらもチクったわけ?)
噂が広まりすぎてしまい、教師に呼び出されて事情聴取をされ、クラスメートからは冷たい視線を浴びせられ、散々な1日だった。ウメカとゆうほがそろって欠席なのも気になる。
放課後、4人は校舎裏のゴミ出し場に集まっていた。
「絶対あいつらのチクリじゃん! 信じられない!!」
「速攻裏切るって……」
「怖。悪質なあの噂、なんなの」
「とりあえず、あいつら来たら締めようよ」
今休んでいるのはつまりはそういうことなのだろう。
(最っ低。もう友達だと思わないから)
4人でいると、他の生徒の目が痛いので解散することにした。どうにか教師達は誤魔化したし、大丈夫だろうと、思っていた。
自宅について、門をくぐり、玄関のドアを開けると、少し先の廊下で父と母が何やら言い合いをしていた。
「どういうことなんだ! 警察!? 裁判!? 頭がおかしいだろうっ、子どものしたことで!」
父が声を荒げる。
母は拳を握りしめていた。
「だから……昨日の電話で言われてたじゃない。もう被害届も提出済みですって。子どものしたことで大袈裟だとか思ってるのは、あなたとあさひだけでしょ!? 向こうのお嬢さんは、とても傷ついてたわよ。しかも、その動画をネットに流すなんて」
「それは……結局一瞬で誰も見てなかったんだろう? だったら良いだろう。動画サイトが行き過ぎた遊びを注意してくれたってことで」
「はぁ。とりあえず、あの子が帰ってきたら、もう一度話を聞くわ」
あさひは、体中の血の気が引いて、玄関のドアを閉めた。
(さ、裁判? 警察?)
父の大声が耳の奥に響く。
大岡は後退りして、家の門を出た。
「な、なんの冗談? これ……」
とにかく今は家に入りたくない。
家を離れようと大通りへ出たところで、
「おい」
声をかけられた。バス停にいた男子高校生が何故か歩み寄ってくる。
「お前、大岡あさひだろ」
「は? キモ。誰」
いきなり横柄な態度で話しかけて来られ、非常に頭に来た。
「こいつに見覚えない?」
彼が見せてきたのは、とある女子中学生。髪を低い位置でツインテールに結っている。
「あ」
そう、あの時乱入してきて場を引っ掻き回した女だった。
「こいつ、俺の妹みたいなもんなんだけどさぁ。殴ったんだって? お前」
男子高校生、もとい奏介が静かに大岡を睨む。
「い……いきなり何」
「いきなりっていうか、お前桃華で今有名人だろ。高校の方でも噂になってるぞ。女子の写真をサイトで売りさばいてるってさ」
「っ!! そんなことするわけないでしょ!?」
「そう言われても、噂だからな。後、クラスメートの服脱がしたんだろ? サイトでの金儲けなのか趣味なのか知らないけど、ド変態はやることが違うな」
何も言わず手が出た。しかし、その動きを読んでいたのか、奏介はすっと横に躱した。
「!」
「気に入らない相手を殴るのは別に良いけど、ここで殴られた俺が騒いで救急車呼んだらお前、交番に連れて行かれるぞ?」
「うるさい!! 近づくな、変態っ」
大岡は奏介に背を向けて走り出した。
どうしたら良いか? どうにかなかったことに出来ないか?
頭の中がぐるぐると回る。
これから、どうなってしまうのだろう。
○
2日後。
登校したウメカとゆうほは、教室の隅で小さくなっていた。
「……やっぱりうちらも」
「うん……」
教室内での話題は昨日、裁判を起こされた大岡あさひと他3人。ニュースになったが、学校名と大岡達の名前は明かされていない。しかし、身近な人間には分かるし、ネット掲示板の書き込みも後押しになって、彼女達グループが何をしたのかが明るみに出てしまったわけだ。
そして、ウメカとゆうほへの視線も。
「ねぇ、あの2人って大岡さん達と普通に仲良かったよね?」
「絶対一緒にやってたでしょ。あの2人」
「写真写ってなかったから、言い逃れ出来たんだ」
教室が息苦しい。視線が針のようだ。ずっと、集中攻撃されている。
これから、どうなってしまうのだろう。
○
昼休み、いつもの風紀委員会会議室にて。
奏介は女子メンバーを待ちながら、スマホをいじっていた。
「なるほど、この掲示板のやつ、菅谷が仕掛けてたわけか」
真崎が桃華中学のネット掲示板を見ながら声をかけてくる。
「ああ、蒲島さんが大岡あさひ一味を潰せるなら写真載せても良いですって言ってきたからな。多少恥ずかしい思いをしても良いから、ボコボコにしたい……ってことだと思う」
「まぁ、この写真なら見られてもな。状況説明されると、ヤバいってなるけど。てか、その大岡がネットに上げた方の動画とか写真は完全に写ってるんだろ? 大丈夫だったのか」
「あぁ、僧院に頼んで、ネットに上がった瞬間にBANされるように準備してたからな。アカウントは俺が特定したし」
「僧院家お抱えのハッカーでもいるのか、それは」
真崎、苦笑を浮かべ、
「菅谷勢力の拡大を感じるな」
「そう? まぁでもファミレスでの張り込みは助かったよ」
「そういや女子メン全員で突撃したのか。俺は混ざる勇気なかったけど」
「針ヶ谷のことは、別方面で頼りにしてるよ」
「まぁ、そうだな。任せとけ」
奏介と真崎は笑いあった。
●
大岡あさひ自室。
布団を被り、ブルブルと震えている。
父母の叱責、警察官の高圧的な態度、ご近所の視線。
何もかも、自分への攻撃に見えてくる。
(なんで? なんで? だってただ遊んでただけで!? あいつ、蒲島のやつ!)
かごめへの恨みを内心で吐くが、今はそれどころではない。
裁判、謝罪、賠償。これから、何が待っているのだろう。
(くそっくそっ!!)
大岡は何度も、ベッドを殴った。
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