第292話自分での行為を迫る女子達に反抗してみた1

※注意 この話には、若干の性的な表現が含まれています。そういった性的な嫌がらせ、いじめを不快に感じる方は読了を控えて頂くほうが良いかもしれません。

直接的な表現は避け、マイルドにはしています。


本編↓



 胸元をはだけさせられて、足を大きく開いた自分を見て、カメラを構えているクラスの女子達はニタニタと笑っている。

「ほら、いじって気持ちよくなってみなよ。自分でさ!」

「っ……」

 以前撮られた半裸の写真をばらまくと脅されて、いわゆる自慰行為を強制されている。

(こんな……)

 蒲島かましまかごめは目に涙を溜めながら、彼女達の言う通りにした。指を動かすたび、びくっとなる自分を楽しそうに見ている。

「本当に良くなって来たんじゃない?」

「やだー。変態じゃん」

 教室でこんなことをさせられるなんて。しかし、度重なる嫌がらせ、いじめに、かごめは抵抗する気力を失っていた。相手は6人だ。逆らえるはずもない。

「奥まで突っ込んでみなよ」

「きゃははっ」

「うわー。ぐろい〜」

 と、その時。閉め切っていた教室の戸が勢いよく開いた。

 そこに立っていたのは桃華学園中学の制服を着た女子生徒。低めのツインテールに髪を結っていて、非常に整った顔をしている。見覚えのない顔だった。

 彼女の目は据わっていて、構わずずんずんと中へ入ってくる。

「え、何こいつ」

「誰?」

 かごめは、はっとして足を閉じた。

「きゃぁっ」

 掠れた声が出た。突然現れたのが女子でも、こんな格好を見られたくない。

 彼女はカメラを構えたクラスメートの前に立った。

「は? 何?」

 それから、無言で、カメラを平手で叩き落とした。

「いたっ、何」

 彼女はクラスメートの顎を手で掴んだ。

「うぐ」

「このクズのド変態女。何してんの? 女の子にこんな格好させてさ」

 彼女は顔を近づけてそう低い声で言うと、手を離した。

「っ、なんなの! あんた。いきなり」

「なんなのって。うわ、変態の自覚ないんだ。やっば。女の子のあられもない姿見てニヤニヤしちゃって。気持ち悪〜。このド変態。露出狂仲間探してんの? 痴漢女。変態、痴女、クズ」

 そこまで罵られ、クラスメートはかっと顔を赤くした。

「はぁ!? ふざけんなよ!」

「やだ〜。ド変態がなんか言ってるよ。そっちこそ、ド変態のくせに何怒ってんの? そこの子のスカートの中見て喜んでるんでしょ。気持ち悪すぎでしょ。キモすぎ」

「こいつ」

 クラスメートが彼女の胸元を掴んだ。

「何? 本当のことでしょ。へ、ん、た、い女さん?」

「この女っ」

 その瞬間、彼女はグーで殴られた。

「っ……!」

 倒れはせず、なんとか持ちこたえる彼女。

「皆、こいつやっちゃお。服脱がせて速攻で写真ばらまくわ」

「おっけー」

「蒲島仲間できるよ〜?」

 彼女はにやりと笑って、切れた唇から流れた血を拭った。

大岡おおおかあさひ14歳。父は大岡朝彦あさひこ、母は大岡シオリ。弟が1人、大岡潮斗あさと。サッカー部の由比浜ゆいはま太地だいちが好き」

「へ……」

 それは、カメラを持っていたクラスメートの個人情報だった。

「好きな食べ物は苺ショートケーキ、嫌いなものはたくあん。犬を一匹飼っていて、学校から帰ったら毎日散歩をしてる」

 大岡は、一歩後退した。他メンバーも戸惑っていて動けないでいる。

 彼女は姿勢を戻し、彼女を真っ直ぐにみた。

「わたしをボコボコにして、服を脱がせて写真を撮るって? やってみなよ」

 低い声。

「やってみな。でもさ、そこまでしたら、わたし、何するか分からないよ」

「な、なんなの!? やだ、何こいつ! 気持ち悪いっ」

 彼女は近くにいた取り巻き女子を指で指した。それから、同じように個人情報を言い当てる。

「ひっ」

 顔を引きつらせる取り巻き女子。

「ちなみにこの場の全員家族構成知ってるから。後、大岡さんが桃糠町3-12の一軒家に住んでってこともね。ほらやってみなよ。わたしは抵抗しないからさ。やってみな? ねぇ? 変態痴漢女の大岡さん」

「っっ!!」

 1対6だというのに、クラスメート達はすっかり青い顔をしていた。

「あのさぁ、わかってんの? この子の全部を見ていいのは、将来の旦那さんだけなの。あなたみたいなクソ変態女に見られたら、穢れるでしょ。汚い視線でこの子を見ないでよ。気持ち悪いから。後、もう近づかないでね。ド変態が移るからさ。病原菌と一緒だわ。もう一回言う。このド変態っ」

「もう行こ」

 大岡がうつむいて言うと、逃げるように6人は廊下へ出ていく。

「このまま終わると思うなよー。終わりじゃねぇからなー。覚悟しとけよ。絶対に許さねぇからなー」

 彼女の大声に、6つの足音は早足になって消えて行った。

 彼女は、ふうっと息をついた。

「大丈夫か?」

「は、はい」

 目に涙を溜め、

「うう……うあーん」

 つい、泣いてしまった。

「怖かったよな。大丈夫だから」

「は、はい。ひっく。ありがとう、ございます」

 彼女は優しく背中をさすってくれた。落ち着いたら下着をつけ直し、夕闇が迫る廊下へと出た。彼女は手を繋いでくれた。

「あの、あなたは」

「あ、俺は……」

 と、かごめは足を止めた。

「ん?」

「ごめんなさい。足が、震えちゃって。上手く歩けなくて」

「そっか。あんなことさせられてたらな……」

 冷静に考えても酷い仕打ちだった。信じられない。

「でも、よかったです。入ってきたのが男子じゃなくて」

「へ!?」

 彼女は表情を引きつらせて固まる。

「あんな姿見られたら、一生立ち直れません。……実は、本当に死のうと思ってたんです。辛くて辛くて、最近は毎日そんなことを考えてました。……あ、何いってんだろ。ごめんなさい」

 溢れてきた涙を拭いながらかごめが彼女を見ると視線をそらしていた。

「どうかしましたか?」

「あ……いやぁ……も、もう大丈夫。いじめの証拠も取ったし、次やってきたら全国にバラまくから。だから、自殺とか言わないで、ね?」

 会ったこともないはずなのに、凄く頼もしく、信じることが出来る。不思議な感覚だ。

「はい!」

「それで、あなたはどうして助けてくれたんですか? 初対面、ですよね?」

「ど、どうしてって。その……あの……」

 ふと、かごめは思い出した。数日前、別クラスの友人に桃華学園高校の風紀委員会相談窓口を紹介されたのだ。

「もしかして、風紀委員の菅谷奏介さんのお知り合い……風紀委員会の関係者さんとかですか?」

「あぁ、うん。そうそう。わたし、高校生なの。中学生の制服着てた方が怪しまれないでしょ?」

 にっこり笑う彼女はやはり美人だ。

「そうなんですね……!」

 菅谷奏介が「絶対なんとかする」と、はっきり言っていたのを思い出す。

「そっか……菅谷さん、色々考えてくれてたんですね」

 熱心に話を聞いてくれたのを覚えている。

「それじゃ、気を付けて帰ってね」

 手を離そうとする彼女の手を少し強めに握った。

「あの、ありがとうございました。何も、お礼とか出来ませんけど」

「別に、そんなの良いよ。次何かあったらまた相談して」

「はい。あ、お名前は」

「え!? ああ、やっぱり菅谷君に相談して。そしたらわたしにも伝わるから。ダイレクトに」

 かごめは顔を赤くして、

「じゃあ、あなたの名前も教えて下さい」

「いや、名乗るほどの者じゃないから」

 両手を握る。

「お願いします」

「……菅谷、です。菅谷君の遠い親戚で」

「! そうなんですね。なら風紀委員の菅谷さんにもよろしくお伝え下さい」

「う、うん」

 二人は正門まで分かれた。




 とある昼休み。

 風紀委員会会議室にやってきたかごめが改めてお礼に来たのだ。

「本当にありがとうございました。あれから、あの子達に絡まれることがなくなって、一緒にいてくれる友達も出来たんです」

 奏介はにっこりと笑う。

「そっか。今回、俺は何も出来なくて申し訳なかったけど」

「いえ、女子の菅谷さんが助けにくれたのが救いです。菅谷さんにも色々考えて頂いて」

「気にしなくて良いよ」


 遠巻きに見ている詩音とわかばがひそひそ。

「え、自殺しかねない?」

「うん。ほら、半裸で動画撮られてて、そこを助けに行ったから」

「あー。菅谷だってバレたらヤバいわけね」

「奏ちゃんもさすがにその時は焦ったらしいよ!」

「うーん、面白いわね」

 と、奏介がぎろりとわかばを睨んできた。

「なんでよ!?」

 やがて、かごめは帰って行った。

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