第271話仲良くしていたのに裏切っていじめっ子側についた元同級生に反抗してみた2

 阿佐美は、イライラしながら帰路についていた。絡んでから飛んできた怒涛の罵倒は、数秒間思考を停止させ、彼が去った後に一気に怒りとなって押し寄せてきた。

(なんだ、あいつ!)

 小学校で勝ち組に来られなかった負け犬が、少し会わない間に随分と思い上がっているものだ。

(でもまぁ、堅野が大袈裟に言ってる意味が分かったな。調子こいて、同窓会で暴れたってことか)

 阿佐美はにやりと笑う。

(どうせ、友達が出来たとかそんなところだろ)

 彼と仲良くしていた期間は、目に見えて元気だったし、よく喋っていた。親友と呼べるような存在が出来て、調子に乗り、かつての同級生へ復讐を始めたと。

「あいつのオトモダチってやつを調べてやるか」

 まずはそこからだ。恐らく、その友達が裏切るなり手のひらを返すなりすれば勢いがなくなるだろう。



『あいつのオトモダチってやつを調べてやるか』

 イヤホンから聞こえる阿佐美の声に、奏介はため息を吐いた。

「また二番煎じか」

「言ってた奴らか? なんだ、本当に仕掛けてきたのか」

 ファーストフード店にて。真崎と向かい合っていた奏介はイヤホンを外した。

「分かりやすくて助かるよね」

 真崎はポテトを口へ運ぶ。

「あ、もしかして僧院に頼んでた小型の盗聴器か」

「ああ、うん。結構高かったけど、今後役に立ちそうだから」

 ヒナは厚意で代金はいらないと言っていたが、そこはしっかりと支払いをした。

「高いってどうやって回収するんだ?」

「基本使い捨てで、いくつかもらったから」

「覚悟が違うな……」

 真崎、若干引いている。

「……で、どうするんだ?」

「ん? まあ、多分また針ヶ谷にちょっかいかけてくると思うから、南条の時みたいに」

「断る」

 奏介は目を瞬かせた。

「え」

 真崎はポテトを食べながら、肩をすくめた。

「またそいつらのノリに調子合わせろって言うんだろ? 正直、そんなクズ共の味方なんかやってられねえってこと。演技だとしても、菅谷のあんな顔みたくないしな」

 奏介は困ったように笑った。

「南条の時、そんなに俺やばかった?」

「ああ、一人で弁当食べに戻る時の泣きそうな顔は忘れられないぞ」

 自覚はなくても、南条に友人達をコントロールされていた時はいじめられていた頃に戻ってしまったかのような錯覚に襲われていた。

「その代わり、おれと連火で締め行ってやるよ。二度と菅谷に歯向かって来ないように、ボッコボコにしてやる」

 真崎、満面の笑顔で親指を立てた。

「いや、あの……針ヶ谷、なんか怒ってる?」

「そりゃ、そんな裏切り野郎の話聞いちゃな」

 真崎は息を吐いた。

「うん、そうだね」

 今思い出しても酷いと思う。仲良くなってから、いじめっ子側に手のひら返し、そのままいじめに加担してきた。しかも、裏切ったその理由が分からないまま今に至っている。

(俺が何かして、阿佐美を不快な思いをさせた……その上での裏切りなら仕方ないけど、その後のいじめにも加わってるからな)

 過去のこと、そして今回のカツアゲ未遂。行動を起こすには十分だ。

奏介は少し考え、

「気持ちは嬉しいけど締めは保留で、他の方法を考えるから。よく考えたら南条の時の二番煎じになるところだったよね」

「そいつらの味方の振りをする以外なら協力するぞ」

「ああ、ありがとう」



 数日後、阿佐美と堅野は自分達が通っていた小学校の裏庭に足を運んでいた。アスファルト舗装された道を上まで登ると、広けた場所があり、街灯もついている。そこから少し獣道を行くと、小さな管理小屋があるのも知っていた。

「なっつかし。こんなとこでよくキャンプしたよなー」

 ここは小学校の保有する土地で、こうして整備されているのは授業に活用するためだった。小2のピクニック、小4のお泊りキャンプ、理科の自然観察、図工のスケッチなどなど。お世話になった場所だ。

「見ろよ、校舎裏見えんじゃん」

 堅野の視線を追うと、いつも奏介を呼び出していた場所だった。落とし穴に何度落としたことか。

「あそこに落とし穴も何度も掘ったよなー。何回もかかるからさぁ」

「あれは笑えたわ。学習しろっての」

 昔話をしながら管理小屋へ。

「へへ」

 堅野がドアノブを回して半回転した後ぐいっと押した。するとすんなり開いた。施錠されていないのだろうか。

「ここの鍵、ちょっと前から壊れてんだよ。コツがいるけどな」

 管理小屋は小さなテーブルとイスが1つづつ。壁に配電盤が2つ。奥の扉の中は清掃用具や物置のようだった。

「へえ」

「そういやさあ、菅谷のお友達って奴はどうしたんだよ。懐柔したんだろ?」

 阿佐美はため息を吐いた。

「あー、あれはダメだわ。めっちゃ喧嘩強くて有名な奴でさ、声かけたら睨まれた。菅谷が調子に乗るのも分かるわ」

「ふーん。そういうことか」

 お互い顔を見合わせる。そしてタイミング良く、奏介が歩いて来るのが見えた。

 むすっとした表情でこちらへ歩いてくる。

(自信満々だな。こんなところにノコノコ一人で来て)

 学習してないようだ。

 堅野と笑いながら見ていると、

「うあっ」

 彼の小さな悲鳴が聞こえた。見ると、ひざ下くらいまでの落とし穴に片足を突っ込んで、尻餅をついてしまっていた。

「つッ……」

 阿佐美は堅野と共に、奏介に近づく。

「おらッ」

 堅野が躊躇いもなく、土を蹴って奏介に浴びせた。

「!」

 奏介が腕でガードしたので、阿佐美も続いた。

「完全に鳥頭だな、お前。何回引っかかるんだよ」

奏介は地面に手をついて、ゆっくりと立ち上がった。顔を上げる。

「お前ら何歳? 人を落とし穴におとしてニヤニヤして、下らないことに喜んでて笑えるわ。頭の中、小学生以下じゃん。バーカ」

 あからさまな煽りに、堅野はカッとなったのだろう、奏介の腕を掴んだ。

「来い」

「おい、触るな」

 奏介が言うが、無視。引きづっていき、物置に奏介を投げ込んだ。

「うぐっ」

 地面に叩きつけられ、奏介がうめき声を上げた。

「調子に乗り過ぎるな。そこで反省しとけよ」

 堅野はぶちキレたようだ。

 すると、奏介の表情が歪む。

「ちょっ、まさか」

 堅野は容赦なく扉を閉めた

「おい、テーブルとイスと、そこの棚も持って来いよ」

 怒鳴るようにいう堅野。

「ああ、分かった!」

 扉の前に様々なものを置いて、ドアが開かないようにする。

 すると、物置の中から情けない声が聞こえてきた。

「う、うそでしょ!? 開けてよ!」

 先ほどとはうってかわって泣きそうな声。堅野はにやりと笑う。阿佐美も胸の奥のモヤモヤが浄化されていくような感覚に陥った。

「そこで反省しろって言ったろ。しばらく出てくんなや」

「菅谷~。友達が喧嘩強いからって調子に乗ってるからそうなるんだよ」

 阿佐美もすぐに煽る。

 中からの声。

「わ、分かった。謝るから、やめてよ! お願いだから」

 今更遅いという話だ。

「ぶっは、なっさけねー」

「おいおい、泣くなよ、バーカ」

「あ、開けてよ! 行かないで」

 完全無視。

「帰ろーぜ」

「ああ」

 阿佐美は頷いて、

「そんじゃな、菅谷ー」

 泣き顔を見られないのは非常に残念だ。良い気分で、その場を後にした。



 

 物置内、開かなくなったドアの前で奏介は口元に笑みを浮かべた。

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