第272話仲良くしていたのに裏切っていじめっ子側についた元同級生に反応してみた3

 奏介監禁から数時間前。

 桃原小学校ももはらしょうがっこう校長室。

「やっと終わった」

 大原野校長は息を吐いた。少し前に、前校長が不祥事で左遷されたのは記憶に新しい。急遽、一つの小学校を任されるという事実にプレッシャーは半端ではなかった。副校長のサポートはあるが、書類の整理が大変である。

「校長先生、失礼しますー」

 入ってきたのは新人の若い教員だった。

「どうかしましたか」

「えっと、その、桃華学園高校? の生徒さんがいらしていて」

 大原野校長はドキリとした。まさに前任が左遷された事件に関係している学校だ。

「裏山へ入って写真を撮りたいとのことで校長先生の許可を、と」

 大原野校長は少し考えて、

「分かりました。私が行きます」

 なんとなくネクタイを締め直し、椅子から立ち上がる。

 向かったのは、生徒達の靴箱が並んでいる昇降口を出たところだった。すでに小学生達はいない。

「あー高校生っていうのは君かな?」

「はい」

 彼は菅谷奏介と名乗った。四年前の卒業生だそうだ。学生証を見せてもらったので身元は確かなようだ。

「裏山の写真を撮りたいとのことだけど写真部か何か、なのかな?」

「いえ。少し懐かしくなって、入りたいなと思いまして。一応許可を取らないとまずいかなと思ったんです」

 奏介は申し訳なさそうに言う。あの場所は何も言わずに入ってしまえばバレるわけがないのだが、罪悪感がまさったのだろう。なんだか微笑ましかった。

「ああ、構わないよ。でも、怪我をしないようにね」

「ありがとうございます」

 奏介は頭を下げた。その時だった。

「校長!!」

 振り返ると、青い顔をした副校長が立っていた。

「そ、その高校生は危険です」

 奏介の目が鋭く細まる。

「在学中に傷害事件を起こして、数々の問題行為で非常に迷惑だった生徒なんですよ!?」

「傷害?」

 大原野校長は驚いて目を瞬かせた。

「お久しぶりですね。柿井かきい先生。その節はお世話になりました。ていうか、問題児とか言って俺へのいじめをもみ消そうとした悪徳副校長さん?」

 土岐と仲が良く、完全にあの暴力教師の味方をしていた副校長。

「何がいじめですか。同級生をカッターで切りつけることは傷害という犯罪ですよ。母親も一緒になって学校の評判を落とすような」

「傷害事件を起こした教師の同僚に言われたくないですね」

「!」

「逮捕されちゃった土岐先生とは連絡取ってるんですかね? よろしくお伝え下さい」

 何も言えなくなった柿井から視線を外す。

「では校長先生、裏山失礼します」

「あ、ああ」

 何かトラブルがあったらしいが、問題を起こすようには見えない。というか、副校長はよく生徒の気持ちを無視した指導をしていることがあるので……。

(柿井先生は生徒に優しくすることを覚えたほうがいいんだよな)

 大原野校長は各方面から評判が悪い副校長に対し、ため息を吐いた。



阿佐美堅野コンビは上機嫌で裏山を降りていた。

「いやあ、スキッとしたー」

「はは。聞いたか? の最後の声。強気だったのにいきなり情けなく命乞いとか」

 堅野、思い出し笑い。

「だよね。小学生の頃まんまだったから思わず笑ったよ」

「不良友達がいるから調子に乗ったのに結局、最後はアレかよ。つーか、阿佐美に見せたかったわ、同窓会でのイキリ菅谷」

「なんか、皆にかかって来いとか言ったんだっけ? 友達が守ってくれるから大丈夫みたいな?」

「んっとにすげー迫力でさ。お友達とよっぽど仲が良いんじゃね?」

「自分弱いくせによくそんなこと言えんなー。ある意味度胸あるね」

 ぎゃははと笑い合う。

 解放しに行くという考えは一切なかった。ロッカー閉じ込めの時は勝手に出て来て、勝手に騒いでいたので放って置いても大丈夫だろうという気持ちがある。

「あ、そういやスマホ」

「あそこ電波弱いからかからねえよ」

 堅野は調査済みらしい。

「なら一生出てこないじゃん」

「出て来なくて良いっつの!」

「そりゃそーか」

 歯向かって来た彼へのお仕置きにはぴったりだろう。

(ざまあ!)

 出来ることならあの物置にいる彼の前で言いたかった。



 二日後。

 阿佐美は自宅のテレビの前で呆然としていた。夕方のローカルテレビのニュースである。


『二日前から行方不明の高校生、菅谷奏介さんの捜索が続いています。菅谷さんは友人や通っている学校の教員に、元同級生に会うと告げていたとのことです。最近になり、元同級生に金銭を要求されていると漏らしていたとのことで、顔写真と名前を公表し、事件事故両面から捜査を続けています』


「いや、いやいや! あいつなら裏山にいんじゃん。は? 行方不明って」

 そこで気づいた。あの場所に閉じ込めて来たが、それを知っているのは堅野と阿佐美だけだ。奏介が誰にでも言っていないなら知りえない。

「猛? お帰り。何してるの」

 母親の声にはっとした、慌ててテレビを消す。

「なんでもない」

 阿佐美は自分の部屋へと駆け込んだ。

(ニュースって。今からでも裏山に……。いや、ダメだ! 僕達だってバレる!)

 心臓の音が早くなって行く。

(いや、バレないよな? あいつ、見つかったら僕達のこと言うか? そしたら……警察から注意をされたり? はは、ただの悪ふざけだし、別に)

 スマホを見ると、堅野からメッセージが来ていた。

『余計な真似すんなよ! 絶対! オレら関係ないから』

「そ、そうだよな。うん、気にしちゃダメだ」

 あの菅谷奏介のことだ、ビビッて何も言えないだろう。

 阿佐美はふらふらになりながら勉強机に座った。

「なんなんだよ。なんで脱出してないんだよ。間抜けが」

 阿佐美は少し考える。

「二日……死んだりしてないよな? やっぱり、ドアの前の机だけ退かしに行った方が」

 と、自室のドアがノックされた。母親だろう。

「んだよ。夕飯なら今日いらねえから」

 開いたドアのところに奏介が立っていた。

「死ぬわけねえだろ」

 彼は、バカにしたように言い放たれた。

「え」

「お前、何やらかしたか、自覚してんの?」

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