第246話クラスメートの暴力系幼馴染みに反抗してみた1

 とある日の放課後。声をかけられた。

 西日が射し込む自分の教室の前。

「? どうした?」

 切羽詰まった顔をしている彼に、奏介がそう呼びかける。

「あのさ、菅谷って風紀委員の相談窓口担当なんだよね?」

「ああ、まぁ。もしかして、相談?」

 彼の名は比津博嗣ひつひろつぐ。クラスメートだ。

 比津は少し考えて、頷いた。

「ちょっと頼みたいことがあるんだ」

「分かった。委員長に」

「あ、いやっ! そんな大したことじゃないんだよね。だから菅谷に、さ」

 他の人に聞かれたくないということだろうか。

「相談者を風紀委員会がサポートするっていう活動だから、俺個人にっていうとただの悩み相談になるけど」

「そ、そうだよな。うん、ごめん変なこと言って」

 曖昧に笑って、

「それじゃ」

「え、あ」

 背を向けて歩き出したので、思わず肩に手を置く。

「いや、俺でいいなら聞くよ」

「え、ほんと?」

 下校しながら、内容を聞くことにした。



 靴を履き替え、正門を抜け、ひとまず駅へ歩いて向かうことにした。

 比津の家は、駅の北側の住宅街にあるらしい。

「近所に幼馴染みの女の子が住んでて、別の高校なんだけどさ。最近、暴力を振るってくるんだ」

「暴力? 殴られたり、蹴られたりするってことか」

 頷く比津。

「結構理不尽な理由でやられるからさ、やめてほしいって言いたいんだけど、どうしても言えなくて」

「それで、俺が代わりに?」

 比津は気まずそうに頷いた。

「情けない、よね。自分で言わなきゃならないのにさ」

「……いや、言えないんじゃ仕方ないだろ。ていうか、暴力振るってくる奴に文句言うのって勇気いるしな。分かった。話が通じそうなら、事情を聞いてみよう」

「あ、ありがとう。仲の良い友達とか親には自分でちゃんと言えって言われちゃったから、助かるよ」

「ちゃんと言えるなら、そもそも悩まないしな」

「うん」

 悩んでいる人に気合で頑張れ的な返しは一番ダメだ。

 しかしながら、

(幼馴染みの女の子……か)

 好意の裏返し、照れ隠しで暴力を振るってしまっているという可能性もあるのではないだろうか。

 駅を通り過ぎ、住宅街へ。

「あぁ、緊張してきた」

 比津の冷や汗が大変なことになっていた。余っ程酷い暴力を振るわれるのだろうか。

 そんなことを思っていると、

「ぎゃっ」

 肺が潰されたかのような声と共に、比津が前のめりに地面へ倒れ込んだ。

「!?」

 どうにか腕でガードしたが、一歩間違えれば顔面を強打していただろう。

「ひ、比津? だ、大丈夫か?」

 一体何が起こったのか。見ると、比津の後ろからやってきたらしい女子高生が冷たい目で彼の背中を見下ろしていた。どうやら比津の背中を蹴り飛ばしたらしい。

「私の家の周りを歩かないでよ。キモい」

 奏介は思った。

(照れ隠しじゃないな)

 その視線からは殺気が放たれていた。

「また栗田先輩にお前との仲をからかわれたんだけど。マジで最悪。朝とか帰りが一緒になるだけで誤解されんだけど」

「そ、そんな。自分の家があるんだから」

「うるさっ」

 幼馴染み女子は比津の足を蹴った。

「いったっ。ま、待ってよ。おれ何もしてないのに」

「ねぇ、消えてくんない?」

 話を聞くに、彼女が好意を寄せているらしい栗田なる先輩に比津との関係を疑われているということか。

 奏介は息を吐いた。酷い言いがかりだし、暴力のレベルも許容できる範囲ではない。いつか怪我をしそうだ。

「比津、立てるか?」

 手を伸ばすと、彼はほっとしたように頷いて奏介の手を握った。助け起こす。

「お前、誰?」

 睨んできたので、奏介はため息を一つ。

「いや、それより、ダメでしょ。こういうことしちゃ」

「はぁ?」

「そんなんだから、栗田先輩に振られたのでは?」

 

 



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