第238話気弱なクラスメートを嵌めようとする転校生に反抗してみた1

 とある日の朝のホームルーム。

 担任の山瀬の後についてきたのはライトブラウンのロングヘアの女子生徒だった。

「転校生を紹介する」

 山瀬が黒板に彼女の名前を書いた。

「門町マリーです。よろしくお願いします」

 髪の色や瞳の色からして、ハーフかクォーターなのではないだろうか。

 中々の美人だ。

 静かに沸き立つ男子、人形のような可愛らしい顔立ちに女子達もソワソワしている。

「おお、凄い美人だな」

 後ろの席の真崎が小声で声をかけてくる。

「針ヶ谷、もしかして」

「いや、タイプとかじゃなくて、誰が見ても美人て中々いないだろ」

「確かに」

 

 門町マリー、彼女はあっという間にクラスに馴染んでいった。コミュニケーション能力がかなり高いようだ。

 とある日の昼休み。

 奏介は真崎と共に立ち上がった。

「今日、教室で食うか?」

「うん。皆用事があるって。文化祭近いから」

 奏介はそう言って歩き出した。

 机の間の通路を歩いていた時である。門町マリーを中心に座って雑談をしていた女子グループの近くで、

「んな!?」

 奏介は何かに足を取られて、前のめりに転んでしまった。顔面ではないが、右頬を床にぶつけてしまう。シンとなる教室。

「お、おいおい、マジか。大丈夫かよ」

 真崎が慌てた様子で聞いてくる。

「いっつ……あ、ああ」

 女子グループはぽかんとしていたが、

「だ、大丈夫? 菅谷君」

「菅谷君にしては盛大に転んだね……」

「顔切れてるよ? 保健室行った方が良いんじゃない」

 彼女達に心配の声をかけられ、奏介は肩を落としながら立ち上がった。

「ああ、うん。ごめん。びっくりさせて」

 ふと、見ると、門町マリーは真顔でこちらを見ていた。

「……門町さん、どうかした?」

「あ……! すみません、驚いてしまって」

「そっか、ごめんね」

 奏介はそう言って、真崎と共に教室を出た。

「!」

 動揺していたせいか、教室の出口でクラスの女子とぶつかりそうになった。

「! あ、ごめん」

「い、いえ。す、すみませ……それじゃ」

間島まじまさん、だっけ)

 なんとなく彼女の名前を思い出しつつ、横目で教室内を振り返る。

「どうした?」

「……いや、なんでもない」



 教室内。

 マリーは奏介の背中を目で追ってから、雑談をしていた女子達へ視線を向ける。

「あの方は」

「菅谷君? あー、なんかこう間抜けなところ初めて見たね」

「あはは、確かに。凄い声出てたね」

「えっとどういう方なんですか」

 マリーがおずおずと問う。

「どういう? んー、見た目より全然普通だよね」

「風紀委員で相談窓口担当で、凄く評判が良いよ。あたしの知り合いも助けてもらったって言ってたし」

 マリーは少し考えて、

「人は見かけによらない……ってことですね!」

 にっこりと笑ってみせた。

 



 翌日。

 奏介は上履きに履き替えて、教室へ向かっていた。詩音は日直のため先に登校したので今日は一人だ。

「うーん」

 なんとなく考えているのは門町マリーのことだ。彼女には何か違和感がある。胸の奥がざわざわする感じ。

 と、教室の戸のところに真崎が立っていた。登校したばかりらしく、カバンは持ったままで教室内を見ている。

「針ヶ谷」

「あ、ああ。菅谷か」

「おはよう。どうしたの」

「あれ」

 教室内では、門町マリーと間島メノが向かい合っていた。

 マリーは少し困った顔、メノは酷く動揺しているよう。

「あの、間島、さん。そこまで怒ってないのです。だから、理由を聞かせてもらえませんか? その、わたしが何か悪いことをしてしまったのでしょうか」

「ち、違うよ。わたしじゃない。見たら、入ってて」

 ざわざわするクラスメート達。

「え、何があったの」

 状況が上手く掴めず、奏介は眉を寄せる。

「ああ、門町の財布がなくなって、皆で探したら、間島のカバンの中から出てきたらしい」

「え……」

 と、担任の山瀬が入ってきた。

「皆、席につけ。ホームルームだ」

 マリーは小声で、

「間島さん、何か事情があるのは分かりました。また、お話しましょう。先生には言いませんから」

 間島は震えながら、こくりと頷く。

 山瀬の登場により、場の雰囲気は変わったが、クラスメート達の視線はメノに向いている。疑念の視線が彼女の震える背中に突き刺さっていた。

 その日から、メノはクラス内で孤立するようになっていった。

 


 別の日の朝。

 その日は詩音と登校していた。学校へと向かう道中の雑談にて。

「え、嫌がらせ?」

「うん。間島さんがしてる……のかな。門町さんの教科書に落書きされてたり。誰がやったかはわからないけど、その度に門町さんが間島さんに「こういうことは止めましょう」って諭してるんだ。門町さんと仲の良い子達はもう、間島さんを犯人扱いで。間島さんは間島さんで何も言わなくなっちゃったし。クラスの、特に女子の雰囲気が凄く悪いんだよね」

 詩音は疲れたように肩を落とす。

 奏介は少し考えて、

「なるほど。門町はそういう」

「え?」

「しお、今日の理科で門町と同じ班だよね? ちょっと聞いてきてほしいことがあるんだけど」

「ん? 良い、けど」

「後は……一応僧院に頼むかな」



 数日後の放課後。

 メノは誰もいない教室、自分の席で震えていた。

「なんで? なんでこうなっちゃったの?」

 気づいたら入っていた門町マリーの財布。それを見つけられた時のクラスメート達の表情が忘れられない。

 自分はやってない。きっと誰かに入れられたのだ。マリーは度々誰かに嫌がらせをされているようで、それが全てメノのせいにされている状況だ。

 と、自分の机に手が置かれた。

「……え」

 顔を上げると、マリーがこちらを見下ろしていた。

「間島さん、いい加減にしてください。皆さんの前では気にしていない風にしてますけど、凄く傷ついてるんです。せめて、嫌がらせをする理由を教えてくれませんか」

 メノは涙を溜めた。

「やってない。やってないよ!! わたしは」

「お財布はあなたのカバンから出てきたじゃないですか。正直、あなたのせいでクラスの雰囲気が壊れてきてます」

「うう、違う。わたしじゃない」

 ポロポロと涙が溢れる。心が痛い。

「……泣きたいのはこちらです。なんで、こんなことを。一対一なんですから、正直に話して下さい」

 と、その時。

「おい、門町」

 その声に、メノとマリーは教室の入り口を見る。

「自分の財布を間島のカバンに入れて、自分の持ち物に嫌がらせされたように見せてんのはお前だろ。バレバレなんだよ」

 戸の前に立った奏介が怒りを抑えながら、そう言った。

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