第237話両親と兄を騙して姉の金を盗む腹黒妹に対抗してみた おまけ1
大人しく取り調べを受けて、反省していることをアピールすれば解放してもらえるだろう。
パトカーに乗車してから数分、かえなはすっかり落ち着いていた。
未成年であり、被害届を出したと言っても相手は実姉だ。やはり、どう考えてもこの後に大事になる気がしない。
(まぁ、少しの我慢、だよね)
当然だがパトカーから下ろされたのは、警察署の玄関前だった。
「ではまず、持ちもの検査と身体検査を」
「……あのー」
申し訳無さそうに挙手をする。
「ん?」
警察官が厳しい視線を向けてきた。
「トイレ、行っても良いですか?」
「身体検査はそんなに時間はかからない。終わってからにしなさい」
「そ……そんな、ずっと我慢してて」
少しだけ目を潤ませると、さすがの警察官も顔を引きつらせる。
「……たく。連れて行ってくれ」
近くにいた女性警官と共に、署内のトイレへと向かうことになった。
「急げとは言いませんが、あまり時間をかけないでください」
淡々と言われ、内心ため息。
(急げってことじゃない)
案内されたのは、警察署2階にある女子トイレだった。
「ここにいますので、何かあったら呼んでください」
トイレの中までは入ってこないらしい。
「はい 行ってきます」
中へ入ると手洗い場があり、個室が3つほど。
一番奥のトイレへと入る。
「ふ〜」
家に置いてきたと嘘をついて持ってたスマホを取り出す。
「……ん?」
メッセージが来ていた。アプリを開くと、
『あ』
という1言、いや1文字だけ送られてきていた。
「えっ、菅谷先輩から?」
と、次の瞬間。
スマホが勢いよく震え始めた。着信だった。
着信の相手は画面に表示されている。
「っ……!」
カッと頭に血が登るのが分かった。勢いで通話ボタンを押す。
「もしもし」
怒りを鎮めつつ、そう呼びかける。
『何やってんだよ、お前』
菅谷奏介の声が受話口から聞こえてくる。
「……先輩、どこまでお姉ちゃんに入れ知恵するんですかね?」
『そんなこと言ってる場合じゃないだろ。取り調べの前にトイレに立てこもってスマホいじってんじゃねえよ』
どきりとした。思わず、個室内を見回す。ごくりと息を飲む。
「……盗聴器ってことですか」
『そんなわけないだろ。今、アプリ開いたんだよな?』
はっとする。
「ああ、なるほど。メッセージに既読がついたから、かけてきたんですね」
あのメッセージはアプリを開いたかどうかを確認するためだったのだろう。
『その様子だと、まだ危機を感じてないみたいだな』
「まぁ、あたし、子供ですからね」
『子供だとしても、他人の金盗んで良いわけないだろ。身内でも別々に住んでるなら、そこに侵入するのもそこにあった金を盗るのも犯罪なんだよ。警察に聞かなかったのか?』
「他人じゃなくて、実のお姉ちゃんなんですが? バイトが出来る大人なんだから、中学生の妹にお小遣いくらい」
『あぁ、俺も姉がいるけど、中学生の頃にお小遣いもらったことがあったな』
眉を寄せる。ここで肯定されると逆に不気味だ。
『でもさ、俺とうちの姉さん。仲良いんだよな。たまに飯行くし』
「……は?」
「お姉ちゃんお姉ちゃん言ってるけど、お前ナミカさんの何を知ってんの? お小遣いもらえるほど仲良くないんじゃねーの?』
「は? なんですか、それ」
明らかな動揺。
奏介はふんと鼻を鳴らした。
『少し前にお前が盗った金、あれ、ナミカさんのサークルの合宿費だったんだってさ。なんのサークルか知ってるか? お姉ちゃんの入ってるサークル』
「……」
『はは、知らないんだ? 実のお姉ちゃんのことなのに?』
「そんなこと、離れて住んでるから」
『そういえば、仲が良かったら、部屋の合鍵もらったりするんじゃないか? 姉妹同士だし普通にありそうだろ。それもないってことは、お前、ナミカさんに嫌われてるんだよ』
『嫌わ……え』
幼い頃の記憶。
ナミカの笑顔、頭を撫でられた記憶、おやつを分けてくれたりした。無条件に、姉は自分のことを可愛い妹だと認識していて、どんなことをしても嫌われるなんてことはないと、思っていた。
『何ショック受けてるんだ? まさか、実姉だから何をしても許してくれてるって思ってたのか? んなわけないだろ。楽しみにしてたキャンプサークルの合宿行けなくて、泣いたって言ってたぞ。かえななんて、シねば良いのにって口走ったこともあったぞ』
「……え……」
頭を思いっ切り殴られたような感覚だった。
『だから、今更ショック受けるなよ。ナミカさんはお前のこと、大嫌いだってさ』
「お姉ちゃんは、昔」
『昔の話はしてない。なんでも許してくれたって言いたいのか? 許してないから警察に突き出されてんじゃん。どっちにしろ、これから取り調べ受けたら数日拘留されて、起訴されたら、裁判、少年院送り。ナミカさんはお前を塀の中へぶち込みたいと思ってるんだ。少年院に行ったら年単位で出てこられない。学校ももう行けないし、同年代の友達と高校への進学なんて絶対に出来ない。お前の人生、ハードモードだな』
「!」
急に怖くなった。このまま家に帰してもらえなかったら? どうなるのだろう。少年院とは、犯罪を犯した少年少女が収容される更生施設だ。自分とは無縁だと思っていた。
『実の妹にそんな思いをさせたいなんて、どれだけお前のことが嫌いなんだろうな? 妹の人生壊そうなんて、相当だ。じゃあな』
ぷつんと、通話が切れた。
「……嘘、お姉ちゃんは頭悪いし。……あたしのことを嫌ったり恨んだりなんか、だって本当の、お姉ちゃんで」
「綾小路かえなさん。そろそろ出てください」
個室の外からそんな声が聞こえた。
連れて行かれたのは取調室……ではなく、広めの会議室のような部屋だ。
男女合わせて計5人の警察官、そして椅子に座らされたかえな。
テーブルを挟んで正面に座ったのは中年の男性警察官だった。かなりのベテランなのではないだろうか。
「それでは、取り調べを。録音させてもらうよ。正直に答えなさい」
取り調べが始まった。当たり前のように拘留され、起訴が決まり。
最終的に、綾小路かえなは少年院に送られることになった。
※少年院行きは刑が重すぎるのではないか? という最もなご意見もあるようです。
現実よりも厳しくなっていますが、ご了承いただければと思います!
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