第211話晒すために同窓会に呼んできた元クラスメートに反抗してみた おまけ

 リリスは騒然とする同窓会会場でぼんやりとしていた。なんとも予想通り過ぎるやり取りだった。

 窓から目を離すと、クラスメート達が我に返ってきたようで、

「は、何あれ」

「菅谷、だよな」

「てか、めちゃめちゃ調子に乗ってなかった?」

「小学校の頃の遊びでぶち切れてんのかよ。こわ」

「録音て……どういう」

「なんか、凄い迫力だったな……」

 次々に発言する元クラスメート達。

 と、上嶺が拳を握りしめ、怒りに体を震わした。

「なん……なんだよ、あいつっ」

 腹が立ってきた。勢いに圧倒されたが、結局イキっている陰キャオタクである。

(これは返り討ちに合うパターンですね)

 庇ったがために敵意を向けられた女子二人も顔を真っ赤にしていた。

「信じらんないっ、『何が文句があるやつはかかって来い』よ? 調子に乗りまくりじゃない」

「空気読めないのは相変わらずだよね。奇跡的に友達出来て、イキってる感凄いんだけど。ねぇ、リリス?」

「……へ? あ、すみません、聞いてませんでした」

「はぁ? あいつよ、あのオタク野郎。調子に乗ってない?」

「空気読めなくてリリちゃんに告ってきてたじゃん。小学校の頃、気持ち悪過ぎて笑ってたわ」

 リリスは穏やかな顔で目を細め、窓を見つめる。

「そういえば、そんなこともありましたね」

「え……どうしたの、リリス」

「いえ。あまりにも快晴なので、青空に見入っていました」

 リリスの返しに女子二人は困惑気味に顔を見合わせる。

 リリスは正面に座っていた宇都見へ、生気のない目で指を指した。

「すみません、コーラの瓶、とってもらえます?」

「これ、醤油よ、リリス」

 宇都見が生気のない顔で答える

 二人のやり取りに感情が感じられず、女子達は困惑する。

 ふと、リリスは気づく。

 上嶺の椅子の近くに何か機械が落ちていた。

(……え)

 それはどうやら、スマホのようだった。画面は通話状態の表示がされていた。



 ○



 ファミレスにて、いつものメンバーで昼食を食べていると、奏介が片耳にしていたイヤホンに手を当てて、スマホを取り出した。

「何してるの、奏ちゃん」

 グラタンをもぐもぐしながら、詩音が首を傾げる。

「同窓会会場にもう一つのスマホ忘れてきたんだ。今、色々聞こえてきたから」

 わかばが、パスタをくわえたまま、サッと青ざめる。噛んで飲み込んでから、

「え、まさか」

 奏介は冷めた目を細めて、スマホに何か入力していく。

「……何してるの?」

 ドリンクのストローから口を話たモモが聞くと、

「言いたい放題言われてるから、俺に反抗しそうな奴の名前メモって調べておこうと思って」

「返り討ちにする気満々だね。菅谷くんが流石過ぎる」

 ヒナはごくりと息を飲み込んだ。

「そんなに言われてるのかい?」

「つーか、声だけで名前分かるのか?」

 水果、真崎は苦笑気味である。

「席とネームプレートは見てきたし、俺が会場に入った時にヒソヒソと聞こえるように悪口言ってた奴らだから分かる」

「もはやエスパーね、あんた」


『てか、めちゃめちゃ調子に乗ってなかった?』 


「……これは海道かいどうだな」


『小学校の頃の遊びでぶち切れてんのかよ』


「……これは野月のづきっと」



『空気読めないのは相変わらずだよね。奇跡的に友達出来て、イキってる感凄いんだけど。ねぇ、リリス?』


『あいつよ、あのオタク野郎。調子に乗ってない?』


『空気読めなくてリリちゃんに告ってきてたじゃん。小学校の頃、気持ち悪過ぎて笑ってたわ』


佐野さの加納かのうは懲りてないアホっと」

 後は驚いていたり、録音されていたという事実にそこはかとない恐怖を感じている者が結構いる。

「まぁ、口先だけの奴はどうでも良いけど、物理的に反抗して来ようものなら」

 奏介は最後まで口にせず、スマホをポケットへしまった。後は電話で忘れ物をした旨を伝え、置いてきたスマホを従業員に回収させ、明日にでも取りに行く。ロックがかかっているので、個人情報は漏れないだろう。


 過去のことが上乗せされるので仕返しがエグいことになりそうだ。

 奏介以外の全員がそう思ったのだった。





 後日。

 上嶺は小学校時代の友人知人に連絡を取り、奏介のことを調べていた。自宅の自室にて。

 机に置かれたパソコンと睨めっこをしている。

「桃華学園か。同窓会を台無しにしておいて、ただじゃ置かないから」

 桃華学園には父親の知り合いの息子がいる。そいつを使って、奏介を退学に追い込む。そんな計画を立てていた。

 と、部屋のドアがノックされ、スーツ姿の上嶺祐誠かみみねゆうせいが入ってきた。

「父さん? おかえり、どうし」

「お前、私が予約を取ったホテルでの同窓会で何をした!?」

 かなり怒っている様子だ。

「え……。何をって」

「参加したという同級生から送られてきたぞっ」

 見せられたスマホには、自分が奏介の胸ぐらを掴んで睨みつけている写真が写っていた。

「は!?」

「佐野、加納という同級生の家族からな! かなり不快な思いをしたと、言ってきた。私の信用を揺るがしかねない。一体何を考えている! おかげでお前の同級生に謝罪するはめになった。口頭での謝罪だけで良いと言っていたが、次の選挙で影響が出たらどうするつもりだ」

「そ、そんな」

 祐誠は舌打ちをする。

「一般人相手だと、手を回して潰すことも出来んじゃないか」

 祐誠はスマホを握りしめる。

「一週間、謹慎を命じる。反省しておけ!」

 祐誠はドアを勢いよく閉めて、出て行った。

「……! 佐野に加納!? あいつら……」

 自分を庇おうとしていた女子達が裏切ったらしい。殺意が湧く。

「あの女ども!」



 その数日後、『上嶺議員の息子が暴力未遂!?』という見出しがネットニュースで流れた。

 何故か、新聞には載らなかったらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る