第210話晒すために同窓会に呼んで来た元クラスメートに反抗してみた2
「な、なんだと?」
バッと立ち上がった彼は不意打ちの口攻撃に顔が引きつっている。とっさに言い返す言葉が出ないようだ。
「なんだとって何? 話聞いてる? 呼んでおいて、席がねぇってのはどういうことだって言ってんだよ。こっちも暇じゃないんだよ。わざわざこんなものを渡して来るから、仕方なく来てやったのにさぁ。『料理も人数分しかないんだよね。悪いけど、帰ってもらえる?』って。ちょっと何言ってるかわからないんだけど。もう一回言うけど、呼んだのはてめぇだろ」
ブルブルと震えだす上嶺。奏介腕を組んで真っ直ぐに上嶺を見る。
「ま、間違っただけで随分と人を責めるじゃないか。心が狭い証拠だな」
「間違っただけって何? 間違って迷惑かけてるんだから責められて当然だろ」
「なっ……。ひ、人は誰でも間違えるものだ。それを責める奴は」
「なら謝罪」
「え」
奏介は人差し指を床へ。
「土下座して、『呼び出しておいて何も用意していませんでした。申し訳ございません』だろ」
静まり返る会場。
「なんで、僕がそんなことを」
「話聞いてる? 俺を呼び出したくせに、席や料理を用意出来なかったクソ無能なんだから、謝って当然だろ。ダメ人間て自覚ないの? てか、偉そうだな。客に粗相しといて俺と一緒の目線で喋るんじゃねぇよ」
引き続き怒りで震える上嶺。と、横の女子が立ち上がった。
「ちょ、ちょっといい加減にしなよ」
「じゃあ、てめぇが土下座で謝罪しろ。それで勘弁してやる」
口を挟んできた女子を即効で睨むと、彼女はビクッと肩を揺らした。
「え、な……なんであたし、が」
「口出ししてきたからだろ。こいつ庇うなら、膝ついて土下座。謝罪しろ」
奏介は冷たい視線で指を床へ向ける。
「っ……!」
彼女の友人らしい女子がテーブルに拳を叩きつけ、同じように立ち上がった。
「ねぇ、ほんと迷惑なんたけど? いきなり来ていきなりキレてさ。あんたさここにいる全員から嫌われてるの、分かってないの?」
真剣な、説教をするようなテンションである。
奏介は鋭い視線で彼女の目の前に招待状をかざした。
「なぁ、お前話聞いてた? これ、なんだか分かる? 招待状。来いっつったのはこいつなんだわ。いきなり来ていきなりキレるって、呼び出しといて、料理ねぇわ席用意してないわで怒らないはずねぇだろ。バカなんじゃないの? キレられたくなかったらそもそも呼ぶんじゃねぇって話だろ。呼び出しといて、何様のつもりだよ」
「そんなのっ、普通素直に来ないでしょっ、冗談も通じないとか」
「冗談通じるほど仲良くないじゃん。え、お前俺のなんなの? 冗談通じると思ってたの? 気持ち悪っ、そんな関係じゃねぇだろ。馴れ馴れしいんだよ」
吐き捨てるように言われ、女子は顔を引きつらせる。反論が早すぎて、言葉が追いつかないのだろう。
「それで? 謝罪は?」
奏介はもう一度上嶺を見る。
「……!」
ここにいる誰もが上嶺の味方だ。それは理解しているのに、目の前の元いじめられっ子の迫力にたじたじになってしまう。軽い気持ちで、小学生の頃のノリでちょっとした嫌がらせのつもりだったのに、ぶつけられる言葉は正論過ぎる。
彼が泣きながら逃げ帰って終わり、後は同窓会を和気藹々とやるつもりだったのに。
上嶺は苦し紛れに、ふっと笑った。
「そこまで怒ることかな?」
「あぁ、怒ることだよ」
即答。
「ふっ。そうか。それは悪かった。料理も席もすぐ用意させるよ。楽しんで行ってくれ」
「ぐたぐた言ってないでさっさと土下座してくれない? 帰ってほしいんだろ? てか、こんなクソみたいな空間で飯なんか食わねぇよ。お前みたいな精神年齢動物以下のクソガキと楽しめるわけねぇだろ」
「っ……!」
全力の煽りに、上嶺が反射的に奏介の胸ぐらを掴んだ。
「言わせておけばっ」
「へぇ、こういうことするんだ。やっぱり俺、ここでリンチされるんだな」
「は?」
「小学生の頃、ロッカーに閉じ込めて俺を殺そうとした連中に呼び出された時点で分かってたよ。覚悟してたから友達にお前ら全員の名前書いた遺書渡してきたんだ。俺に何かあったら警察に通報してくれって、友達と姉と親と高校の担任にも言ってきてるからさ。覚悟しとけよ? 人に暴力振って、逃げられると思うなよ」
奏介の鋭い視線に、上嶺は青い顔をして慌てて離れた。
「何言ってるんだ、お前。遺書? 警察?」
「知ってるか? 警察って、何か起こってからじゃないと動いてくれないんだ。まぁ、向こうも仕事だし、忙しいし仕方ないよな。でも動いてくれたらわりと優秀なんだよ。だから、警察動かすためなら、俺はここで殺さ………」
奏介はこほんと咳払い。
「暴力振るわれても良いと思ってる。思う存分やって良いぞ」
会場はシーンと静まり返る。ほとんどの元クラスメートがあ然と奏介を見ていた。
奏介はにやりと笑う。
「暴力振るう勇気もなければ、謝罪も出来ない。その上、呼び出した客の胸ぐら掴んでキレる。国会議員の息子ってマジでやべぇな。……帰るわ。お前みたいに父親の金でパーティ開いて呼びつけた客を馬鹿にするような、下だらねぇ嫌がらせする奴とこれ以上話したくないし。国会議員の給与って税金だろ? うちの親と姉も払ってんだけど、お前何様なの?」
それでも固まったままの上嶺に、奏介はふんと鼻をならす。
「まぁ、いいや」
奏介はポケットからレコーダーを取り出した。
カチッとボタンを押す。
『あ、あの上嶺君。こんにちは。よ、呼んでくれてありがとう。あの、俺の席は』
『やぁ、菅谷君。君本当に来たんだ? 呼んだこと忘れてたよ』
『へ?』
『すっかり記憶から抜け落ちていたね。皆から嫌われていた君がここに来るとは思わないからさ。君の席と料理、用意してなかったよ』
『え』
『料理も人数分しかないんだよね。悪いけど、帰ってもらえる?』
「録音も録画もしたし、この招待状持って新聞社にでも言って、上嶺国会議員の息子が何をしたかってことを」
上嶺は目を見開いて、
「まっ、待ってくれっ」
奏介の意図に気づいた。
青い顔の上嶺は土下座こそしないものの、頭を深く下げた。
「わ、悪かった。いや、すみませんでした。だ、だから止めてくれ、それだけは」
体が恐怖で震える。上嶺の父親のような職業は、スキャンダルが命取りだ。
「だからってなんだよ。謝るから止めてくれって、俺を馬鹿にしてんのか? もう少し丁寧に謝罪出来ないのか?」
「ぐっ……。せ、席も料理も用意せずに呼び出して嫌がらせをして申し訳ありませんでした。本当にすみませんでしたっ」
「反省してんのか?」
「し、してます」
「ふーん。まぁ、良いか。新聞社に行くのは保留にしてやるよ。まぁでも
次は何かして来ようものなら、容赦しねぇから覚えとけよ」
奏介はホール内を見回した。
「で、俺に文句があるやつがいたらここに出てこいよ」
ホール内は驚くほど静かである。
「言っておくけど、ロッカーに閉じ込められたあの日のこと、忘れてねぇし、てめぇら全員許してねぇからな。文句があるやつがいたらかかってこいよ。いつでも相手してやるからさ」
奏介はそう言い放って、堂々と出入り口まで歩き、勢いよく扉を閉めて、ホールを出て行った。
とんでもない台風が通り過ぎて行き、皆一様に呆然としている。
リリスはぼんやりと外の景色を眺めながら、ふうっと息をついた。
「いい天気ですね……」
○
待ち合わせのファミレスに到着した奏介は奥の、大人数のソファ席へと案内された。
「奏ちゃんお疲れ」
詩音が苦笑気味に声をかけてくる。
「さすがにひやひやしたね」
水果も同じ表情だ。
「楽しそうな雰囲気を全力でぶっ壊して来たわよね」
「躊躇いがなくてさすが菅谷君」
呆れ気味のわかばと尊敬の眼差しを向けるモモが言う。
「暴力シーンばっちり取れたから、何かしてきても切り札として使えるね。使わないことに越したことはないけどさ」
ヒナがそう言いながらはキーボードをニ、三回叩いた。彼女の前にはノートパソコンが置かれているのだ。画面には奏介のスマホと連動してカメラ映像が映し出されていた。今はズボンのポケットの中なので真っ黒だが。
「おれが乗り込む事態にならなくて良かったよな。一応スタンバってたんだが」
真崎が肩をすくめる。
「はぁ。大事にならなくてほんと良かった」
と、詩音。
先程の集まりのメンバーに関しては大体詩音も知った顔だろうから、余計にヒヤヒヤしたのだろう。
「ある意味一触即発のド修羅場だったわね。一人で乗り込んでよくあそこまで圧倒できるわよ。引くレベル」
「ん? なんだ、橋間馬鹿にしてる?」
「し、してないでしょ!? いつもより短気じゃない!?」
「皆でよってたかって菅谷君の悪口言ってて、ヤバって思った。ボクのお父さんさぁ、多分上嶺議員と会ったことあるんだよねー。まぁ、何かあったら、ね?」
ヒナは目が笑っていなかった。
「とりあえず。ありがとう。わざわざ監視しててくれて」
「皆気にしてないさ。ロッカーに閉じ込めて放置するような連中なんだろう? このくらい対策していったのが正解だよ」
水果が言うと、モモも頷いた。
「小さい頃のノリで酷いことしそうよね」
「集団だと調子に乗る奴らいるからな。いい薬だったろ」
真崎の言葉に奏介は頷いて、
「ドリンクバーくらい奢るよ」
本当に、感謝しかない。
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