第198話番外編 夢オチ 法律のない世界で物理的に反抗してみた2

 前回の夢の話は154話です。


※注意※


このお話は夢ですが、本編と比べて暴言、暴力描写があります。苦手な方、不快に思われる方もいらっしゃると思いますので、注意して下さい。読了しなくても本編に関係ありません。


 夢だと気づく瞬間は唐突だった。小学校の教室である。

 放課後で、帰ろうとした小学生の奏介は後ろからランドセルを奪われた。

「えっ」

 見ると、不意をついた丸美が奏介のランドセルを床に乱雑に投げた。取り巻きの女子達がニヤニヤと笑っている。

「もう帰るの?」

「え、か、帰るよ。そ、それ返して」

 ランドセルを拾おうとするが、丸美達がその前に立ちはだかる。

「せっかくの放課後なんだし、ゲームしようよ」

「ゲーム? あの、早く帰りたいから」

 すると、女子達に囲まれてしまった。

「お尻蹴りゲーム。たくさん蹴った方が勝ちね!」

「えっ、えっ?」

「大丈夫だって、正々堂々一対一だから」

 丸美に背に回られた。

「はい、一回目ぇ〜」

 ドンッと後ろから衝撃が走った。一歩間違えば、舌をかんだかもしれない。息が詰まり、短い声が漏れ、床に膝をついた。

「うう……」

 夢だというのに痛みがリアルだ。

「はい、2発目っ」

 容赦ない蹴りが入り、

「うぐっ」

 痛みで全身が震えた。

 加減などするわけもない。まるでサッカーボールでも蹴るように。笑いながら。

 痛みで涙が出た。そのまま床に倒れ込む。

「あっはは、泣いてるー。いやいや、こんなことくらいで」

「ダサーい」

 ケラケラと笑う女子達。奏介はどうにか、床に手をついて上半身を起こす。ズキズキと波打つような痺れを伴う痛み。

(リアルだ。あの時の、痛みだ)

「カナエ、そろそろ帰らない?」

「皆で宿題やるんでしょ」

 取り巻き女子達に言われ、

「そだねー。誰かさんのせいでゲーム楽しくないしぃ」

 彼女達は何事もなかったかのように教室を出て行った。

 奏介は、ふらっと立ち上がる。

 夢だと自覚しているせいか、痛みはすぐに消えた。奏介はゆっくりと教室から廊下へと出た。

 少し先には丸美達が楽しそうに歩いている。 

 奏介は深呼吸をして丸美達を追いかける。早足。

 丸美の背中に追いついた奏介は、無言で、彼女の腰辺りに全力で蹴りを入れた。夢なので問題ないだろう。現実の本人が怪我をするなんてことはないのだから。

「ぎゃふっ」

 間抜けな声を上げて床へ突っ込む丸美。取り巻き女子達は蹴りを入れた体勢のままになっている奏介を呆然と見る。

「いった……何……今の」

 腰を押さえながら後ろを振り返ると、鋭い視線を向けている奏介が立っていた。

「……は?」

 何が起きたのか分からないと言った様子で奏介を見る丸美。しかし、徐々に状況を理解したのか、みるみるうちに表情に怒りが湧いてくる。夢の産物だと言うのにリアルな反応だ。

「今の、あんた?」

「お尻蹴りゲーム、なんだろっ」

 回し蹴りの要領で、横からかかと蹴り。丸美は再びバランスを崩し、

「きゃっ!?」

 床に倒れ込んだ。

「これで同点だな」

 そう言ってやると、取り巻きの一人、土原アカノが庇うように前へ立った。

「何考えてんの? 止めな、ぶっ!?」

 頬を張り倒した。横へ吹っ飛ぶ土原。

「邪魔。正々堂々一対一の勝負に割り込んで来るんじゃねぇよ、クソ女」

 丸美は信じられないものを見るように呆然としていた。

「立てよ。ゲームの続きだ」

「っ……! あのさ、女子にこういうことして良いと思ってんの?」

「なんだそれ、男女差別か? 男でも女でも暴力振るって良いわけねぇだろ。つーか、お前女子なの? 俺には理不尽に暴力振るう、鬼か悪魔にしか見えないんだけど? ちなみにこれ、暴行障害な。俺は給料もらって体張ってる芸人さんじゃねぇんだよ。にやにやにやにや笑い上がって。調子こいてると、ぶっ殺すぞ」

 丸美は立ち上がって一歩後退した。

「な、なんなのいきなり、イキっちゃってさ」

「何もしてないのに蹴られて、ぶちギレてんだよ。痛かったし、なんでそれで怒らないと思ったんだ? 頭おかしいだろ」

「へぇ、だからって、あたしのこと蹴ったの」

「なんか文句でもあんのか? ああ?」

 怯みながらも、にやりと笑う丸美。

「土岐先生に言うわよ。あぐっ」

 奏介が丸美の腹をグーで殴ったのだ。

「うっつ……え、あ?」

「それは怖いなぁ。ならここでぶっ殺すわ。告げ口怖いし」

 奏介はそう言って丸美の前髪を掴んだ。

「いたっ、ちょっ、痛いっ」

「なぁ、丸美?」

 次の瞬間、奏介は丸美に全力で頭突きをした。

「いっ……たぁいっ」

 フラフラとよろける丸美。

「あんた、ただじゃおかな」

 奏介は思いっきり頬を張り飛ばした。

「あぶっ」

 奏介は床に転がった丸美に舌打ちをした。

「しねっ」




 そこではっとする。

 見慣れた自室の天井が視界に広がっており、妙な疲労感が身体中に広がっていた。

「……うーん……」

 先日もあったが、このまま目をつぶっても続きは見られないだろう。

「はぁ」

 汚い言葉も理不尽な暴力も、今のこの社会では絶対にやってはいけない。わかっているのだが。

 奏介は布団に包まった。

(なんで、あいつらは良くて俺はやっちゃいけないんだろうな)

 奏介はゆっくりと目を閉じた。





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