第183話不快な動画をサイトにあげていたヤクザの息子に反抗してみた2
唐沢睦美はイライラしていた。このところ、バイト先で唐沢に楯突く人間はいなくなっていたのだ。それなのに、突然現れた掃除バイトの高校生に不意打ちの一言を放たれ、最後にバカにしたような目を向けられたのだ。
自分の地位をぶっ壊されたような気がして、堪らなく腹が立った。
厨房内でだらだら仕事をしながら、イライライライライラと。
「唐沢さん、あいつ、やっちまいましょうよ」
「初対面で滅茶苦茶失礼じゃないっすか。唐沢さんに向かってあんな」
取り巻きの高校生、
「わかってるっつの」
どうしてやろうか。組の若い連中を仕向けるのもありだ。あんな暴言を吐いたのだから、思い知らされなければ。
厨房を離れつつ、わかばが額に手を当てた。
「言ってるそばから真っ先に喧嘩売るとか……。なんか頭痛くなって来たわ」
「様子見ようと思ってたんだけど、不快動画を他人のせいにしてっぽかったからとりあえず口に出しとこうと思って」
「反省してないどころか責任転嫁か。まぁ、菅谷なら行くと思ってたけどな」
わかばはため息、真崎は苦笑を浮かべている。
「ま、なんか仕掛けてきそうだから、用意しとかないと」
奏介はそう言って、制服のポケットのスマホを握りしめた。
「……君、怖いもの知らずだね」
店長が困ったように言う。
「唐沢君にあんなことを堂々と言うなんて。彼の父親が乗り込んできたら」
「普通、反社の方々って一般人にむやみに絡んだりしないですよ」
「え?」
「店長さん、店が建ってるこの場所の土地は誰のものなんですか?」
「土地? いや、チェーン店だからね。うちの会社の社長がこの辺りの地主さんに借りてるんだ」
「会社は反社の方々に借金をしているとか?」
「それはないよ。ああ、もしかして唐沢君を雇った経緯かい? ただ面接では分からなくてね、雇ってから彼の方から宣言してきたんだよ」
「ということは運営会社や店、店長さんが反社に関わりがあるわけではないんですね」
「もちろん。無縁だと言い切れるよ」
わかばは嫌そうな顔をする。
「自分から宣言って、面接通っちゃえばこっちのものみたいな?」
「最後まで黙ってりゃ良いけど、自分から言ったのかよ」
真崎もむぅっと唸った。
明らかに真面目なバイト目的ではない。自分の立場を示してこの店を自分の好きなようにしたいのだろう。
立ち止まって話していると、誰かが歩み寄ってきた。
「こんにちは。来てくれたんですね」
柔らかな笑顔の東坂委員長だった。しかし、表情には疲れが見える。バイト中でこの店の制服姿だ。
「委員長、お疲れ様です。会ったたんですけど……」
わかばが言いづらそうに、
「喋ってて仕事してなかったです」
東坂委員長は肩を落とした。
「お客様が…怒り始めてしまって、直接催促しに来ました」
「そ、それは大変だ。行ってくるよ。東坂さん、唐沢君達に言ってくれ。君が言う方が角が立たないから」
「はい」
店長がフロアに出ていく。
「どうですか? 何かいい案は」
奏介は少し考えて、
「損害賠償請求は唐沢さんにはしないほうが良いですね。調子に乗ってる一般人に責任取ってもらいましょう。唐沢さんは単体で対処します」
あの三人、友情が厚そうには見えなかった。
奏介の割当ては倉庫だった。
広さは学校の教室の半分程度。
手順としては保管されている物を退かしながら、棚を拭き上げてホコリを床に落とし、ゴミを箒とちりとりで取る。それから専用の洗剤をつけたデッキブラシで床を擦って、水で流し、モップで丁寧に水気を取る。月一でこういった清掃をするらしいが、人手が足りないと手が回らないそうだ。
奏介が絞った雑巾で棚を拭き始めると、カコンと軽い音がした。
「ん?」
入り口の方を見ると、持ってきた水入りのバケツが床に転がり、水浸しになっていた。それを蹴ったのは唐沢だ。伊津と小路も一緒でニヤニヤと笑ってる。
「よう。水こぼしてんじゃねーよ。のろま」
今、目の前で蹴り飛ばしたのに白々しい。
奏介は棚の間から出て、三人を真っ直ぐに見た。
「唐沢さんに伊津さん、小路さん……ですよね。厨房の方は大丈夫なんですか?」
唐沢はすっと目を細めた。
「どーでも良いんだよ。んなこたぁよぉ」
のしのしと歩いてきて、後退った奏介の前に立つ。
背が高い。見下ろしてくる。
「あの、なんの用、なんですか?」
困惑したふりをして聞いてみる。
「さっき生意気な口聞いたよなぁ?」
「……」
「今更ひよってんじゃねぇぞ!」
怒鳴り声。店中に響いたことだろう。
「あぁ、さっきのあれは伊津さんに言ったんですよ。あなたに言ってません。誤解されたならすみませんですけど」
唐沢の動きが止まる。
奏介は唐沢を避けて、高校生三年生だという伊津へ無表情な視線を向ける。
「ねぇ? 伊津さん? 二十歳近いくせに誰かに言われたこと実行して動画にしたクズが。汚ねぇ床に肉落としてゲラゲラ笑ってんじゃねーよ」
静かに言う。一般人である伊津だけを睨んで。
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