第168話男の子ママに女の子マウントを取るママ友に反抗してみた3
綿貫カズミは息子の晶哉の手を引いて、駅前広場へと来ていた。
「田辺さん達、まだ来てないのね」
今日は皆でランチの予定だ。駅周辺には高校生の姿も多い。どうやら期末試験期間で、帰りが早いらしい。
「晶哉、何食べたい?」
晶哉は目を瞬かせた。今日は次男三男は実家に預けているので一人だけ連れてきたのだが。
「ふ、冬太達と一緒で良い」
「今日は、晶哉だけだから、晶哉が食べたいものにしようか?」
「え、でも」
「どうするー?」
「ママと、一緒で良い」
四歳児の遠慮が中々可愛くて、綿貫は笑ってしまった。
「じゃあ、お店行って決めよっか」
ファミレスならメニューも豊富だろう。
駅広場の花壇のそばの長いベンチに腰をかけると、晶哉を膝にのせた。これからお腹が大きくなってくると、こうもしてあげられないだろう。今は甘えさせてあげたい。
ふと視線を上げると、見知った顔が二つ。楽しそうに歩いてくる。
目が合わなければスルーしようかとも思ったが、向こうも気付いたようだ。
「こんにちは」
愛想笑いで立ち上がって会釈をするが、女の子マウント系ママの位筒と間嶋は、はんっと嘲笑を浮かべた。
「それでねー、娘がー」
「それ可愛いー」
綿貫の横をすり抜けて行く。あからさまな無視だった。
「話かけないでほしいわよね」
「あの人の息子、オタクになりそうだし」
「あんな高校生と関わってる時点で、ねぇ?」
お腹の子が女の子だと分かった時から、無視が始まった。保育園での挨拶すら、返されない。
男の子が三人というだけで目をつけられ、酷いことを言われていた。知人の高校生が言い返してくれたが、それでもこんな仕打ちだ。
(菅谷君には悪いけど、言い返してもらわない方がよかったかな……)
と、横をすり抜けて行った二人が足を止めたのが分かった。
彼女達の前に立ちはだかったのは、制服姿の奏介だった。
一部始終を見ていた奏介は位筒と間嶋の前に立って腕を組んだ。
「綿貫さんの挨拶無視すんのは良いですけど、その前に何か言うことありますよね?」
「は? い、いきなり何」
奏介はスマホを二人の前に突き出した。
『あなたみたいな人にはぜーったい女の子授からないと思うわ』
『四人目妊娠してるんでしょ? 四男君おめでとう〜って感じ』
録音の音声である。
「こういう失礼なことを言っといて、女の子が産まれるとわかった途端、無視でイジメですか。ドヤ顔で話しかけないでほしいとか言う前に、謝罪でしょ。何調子に乗ってるんですか」
ぐっと黙る二人。
「今後綿貫さんとの縁を切ってママ友やめるのは良いですけど、その前にこの発言を謝ってください。お腹の子は女の子だそうですよ」
「ま、まだ分からないじゃない。生まれてみないと」
「いや、男の子だとしても普通に失礼です。女の子だからとかじゃなくて大人として失礼ですから。下らない言い訳してないでさっさと」
「生意気な……。少なくとも、あんたみたいな、子供に指図されたくないわよ」
「挨拶すら出来ない大人に言われたくないですね。ていうか、晶哉君までバカにしてましたよね? どんな子なのかも知らない癖によく憶測で悪口を言えますね。生まれてからたった四年しか立ってない子供によく悪口言う気になれますよね。四歳児と張り合う年齢じゃないでしょ? それと、オタクに失礼です。そうやって人間を一纏めにして評価すんの止めてもらえます? ていうか、旦那さん女の人なんですか? もし男性ならそれこそ失礼です」
「あ、あんたが知らないだけで女の子が欲しいママって多いんだからね!?」
「そうでしょうけど、男の子のママを攻撃するおバカさんは中々いないのでは? 一纏めにすんなって言ってるでしょ? 女の子が欲しくて授かることが出来たならそれで良いでしょ。わざわざ表立って煽りに来るってよっぽど暇ですよね。そんな下らないことしてるくらいなら娘さん達に何が有益なことしてあげたらどうですか。それと、男の子も女の子も成長しないと分からないと思いますよ。子供にガチガチの理想を持つのは良いですけど、理想通りに育たなかったら捨てそうですよね。性別すらこれだけ気にしてるんだし」
「っ……」
「で、謝罪は?」
奏介の睨みに押される位筒と間嶋。
「なんで、謝らなきゃいけ」
「綿貫さん、ちょっとこっち来てもらえます?」
綿貫を呼び、二人の前へ。
「楽しそうに陰口言う前に前回の謝罪だろ」
その場がしんとなる。
「す、菅谷君、もう良いから」
「いえ、この人達、この前俺が言い返したのが気に食わなくてさっき無視してたんですよ。そういう報復なら受けて立ちますよ、何度でも」
中途半端な気持ちで言い返したわけではない。その後の復讐心もしっかり折りたいところだ。
「誹謗中傷の証拠も取ってありますし、ね」
二人はハッとしたようだ。顔を青くする。
「も、申し訳ありませんでしたっ」
「し、失礼なことを言ってしまい、すみません」
震えながら言った。
「どうですか、綿貫さん」
「あ、はい。大丈夫、ですよ」
「良かったですね。お疲れ様でした。後は裏で楽しく悪口なり陰口なり楽しんで下さい。でも、次、綿貫さんに迷惑をかけるようなことをしたらその時は」
二人はさっと奏介達を避けて、逃げるように走って去って行った。
「大丈夫ですか?」
「あ、うん」
「ほんとに失礼な人達ですね」
「そ、そうね。ていうか、菅谷君なんで……」
「今期末試験で帰りが早いんですよ」
と、いつものメンバーが歩いてきた。
「菅谷、終わったのか?」
「あぁ」
苦笑を浮かべる真崎に奏介が頷く。
「奏ちゃん、なんか飛び込んで行ったけど」
詩音が首を傾げる。
「トラブルの後処理的な感じ? アフターケアもばっちりなのね……」
「この短時間であのおばさん達の心をがっつり折ったよね! さすがウルトラスーパーストレート・フラッシュ」
わかばとヒナが感心したように言う。
「あの人達、もう何も言ってこなさそう」
「証拠とか言われちゃ、怖いだろうしね」
モモと水果も言う。
綿貫がぽかんとする。
「こんにちは、菅谷の友達の針ヶ谷っす」
それぞれ軽く自己紹介。一気に名前を言われても覚えられはしないだろうが、この場だけだ。
「菅谷君、友達たくさんいるのね」
「たくさん……まぁ、今は多いかも知れませんね」
綿貫は頷いて、
「ありがとね。お友達と一緒のところ、来てくれて」
「いえ」
「普段からこういう奴なんすよ。オレは慣れましたけど」
と、綿貫に張り付いていた晶哉がいつの間にか女子に囲まれていた。
「あきや君て言うんだー」
「へぇ、四歳なの?」
「ちっちゃーい。けど、男の子だからボク達よりも大きくなるんだろうねっ」
「可愛い……」
「お母さん、妊娠してるんだって? お兄ちゃんになるのかい?」
晶哉はもじもじ。
「お、弟いるからもうお兄ちゃんだよ。お腹の赤ちゃんは女の子だって」
少し話して、別れることになった。
去り際に呼び止められる。
「お兄ちゃん、ありがとっ」
晶哉のお礼の言葉に、奏介は頷いて、
「じゃあ、また」
手を振った。
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