第167話男の子ママに女の子マウントを取ってくるママ友に反抗じてみた2

「し、失礼なっ」

 顔が真っ赤である。

「失礼なのはそっちでしょ。人のことオタク呼ばわりした上に、こんな小さな男の子の前で女の子が良いだとかなんとか。子供の前で言うことじゃないでしょ」

「っ……!」

「あなた達、親でしょ? 自分の親に『なんで女の子なの? 女の子なんていらなかったのに』って言われたら、嬉しいんですか? 自分ではどうしょうもない性別に関して『要らない』なんて大声で言われて他人がどう思うか、分からないほど、脳みそないんですか?」

 奏介は冷ややかな目で頭を人差し指でトントンと叩く。

「ちょっと、捏造しないでよ。いらないなんて言ってないじゃない」

「そう言ってるも同じでしょ。それに自分に男の子が産まれたらそう言うんでしょ? 酷い虐待ですね」

「じ、自分の子に言うわけ無いでしょ!?」

「つまり、他人の子に言うのはオッケーだと思ってるんですね。へぇ、非常識過ぎて言葉が出ません」

 位筒はぐっと悔しそうに言葉を飲み込む。

「このおばさん達、いっつもママをバカにしてくんだよな。こういうひととけっこんしたくない」

 晶哉も冷めた口調で言う。すると、幼稚園の制服を着た女の子がムッとした様子で、

「あたしだってあんたみたいな男の子無理だもん。ていうか、男の子嫌い。乱暴だし、口悪いし」

「僕は女の子好きだけどね。僕の保育園には優しい女の子たくさんいるし、皆で一緒に遊ぶし」

 晶哉はしれっと言って、綿貫ママのスカートの裾を掴んだ。

 子供にもしっかり男の子嫌い教育をしているようだ。

 奏介は表情を消した。今まで関わってきた男嫌いな女性達の顔が次々浮かんで来て、イラッとした。

 位筒が何やら、クスッと笑った。

「綿貫さん、さすがに性格悪すぎじゃありません? 言われて悔しいからって、こんな高校生に言い返させるなんて。あなたみたいな人にはぜーったい女の子授からないと思うわ」

「四人目妊娠してるんでしょ? 四男君おめでとう〜って感じ」

 綿貫がこれまで以上に傷ついた表情になる。

 位筒、間嶋、半笑い。

 奏介ははっとする。綿貫の目が潤んでいた。三人の子育てと同時に妊娠、妊娠中は精神的に不安定になると聞いたことがある。

「綿貫さん、大丈夫ですか?」

「え、あ」

 綿貫は手の甲で涙を拭った。

「ママ、大丈夫だよ。僕、えーと、良い子にするから」

 晶哉が不安そうに言う。

 奏介は呆れ顔で彼女達を見る。

「あのですね、男の子と追いかけっこ出来ないお婆ちゃん達、他人に悪口言って泣かせるのは止めましょうね?」

「お婆!?」

「ご高齢でボケが入ってるのは分かりますけど、これから赤ちゃんを産む、若い妊婦さんにストレスかけるのは止めましょうね? 言ってること分かります?」

 二人はプルプルと震えだした。顔は再び真っ赤だ。

「さっきから失礼なのよっ、何様なのっ」

 奏介困り顔。

「女の子が欲しいって言ってる人に『女の子は授かれない』とかほざいた人に失礼とか言われたくないです。欲しいつってんでしょ? 実際出来るか出来ないかはともかく、人の気持ちを踏みにじるようなことすんの、止めた方が良いですよ。もう一度言いますけど、綿貫さんは女の子が欲しいんです。それに対して、絶対授かれないと言った根拠を聞きましょうか? 一体どうしてそう思ったんですか?」

 二人はぐっと言葉に詰まる。

「言ってるでしょ? 性格が悪」

「科学的根拠がないですね。そもそも性格悪いってどういう人のことを言うんですか? それ、精神的な問題でしょ? 俺が聞いてるのは、生殖機能や卵子、精子、体質などの肉体的特徴を見て、どういう状態だから、女の赤ちゃんを妊娠できないというような、説明です。根拠がないのに言ってるなら、ハラスメントですよ」

「な、何、それ。そんな深い話してな」

「こっちはそういう深い話をしてます。憶測で他人のやろうとしてることを否定するのはパワハラですね。子供のいる前で人格否定して他人を泣かせる……ほんとに親ですか?」

 奏介は吐き捨てるように言うと、

「付き合ってらんない。他の店行きましょ、間嶋さん」

「そうね、これ以上変なのに絡まれたらたまらないもの」

 逃げるように離れていく二人。奏介は口元を手で囲う。

「綿貫さんに女の子が産まれたら、謝罪文提出お願いしますねー」

 大通りの人混みの中へと消えて行った。

 奏介は息をつく。

「大丈夫ですか?」

「え、ええ。ちょっとこみ上げてくるものがあって。ごめんなさいね。ありがとう」

 と、拍手が聞こえてきた。

 田辺と小野である。

「さっすが菅谷君。見事な追い返し」

「反撃の仕方が……凄いわ」

 小野は少し引いているようだ。

「お兄ちゃん、ありがとっ」

 晶哉が表情を輝かせていた。

「ああ、ちゃんと晶哉も言い返したな」

「なんだか、気持ちが楽になっちゃった。……女の子は欲しいけど」

 綿貫はお腹に手を当てる。

「無事に産まれてくれることが一番ね! 男の子でもめちゃくちゃ可愛がれる自信あるわ!」

 晴れやかな笑顔だった。



 後日聞いたところ、綿貫家四番目の子供は女の子で確定したらしい。

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