第153話先輩に悪口を言い続けるその幼馴染みに反抗してみた2
耕太郎は目を瞬かせた。
「え、もしかしてほたるにブスって言ったことにキレてんのか?」
半笑い。
「あー、そりゃ悪いな。でも、オレら、こういう関係なんだわ。昔から軽口を言い合う幼馴染でさ」
「明石先輩、言われた瞬間に泣きそうになるのをぐっと堪えてから話し出しましたけど、気づいてます?」
「自分の女守りたいって気持ちが強いのは分かったらマジになんなよ」
耕太郎は、面倒くさそうにひらひらと手を振る。
奏介は小さくため息を吐いた。
「ブサイクなくせに話も聞けねぇのかよ」
「! また言いやがったな!?」
奏介は彼を睨みつけた。
「だから、言われて腹が立つんでしょ? それは明石先輩も同じだって言ってるんですよ」
「だからそれは冗談で」
「それならすぐに謝罪して、冗談なら冗談とはっきり言わないと、真に受けるに決まってるじゃないですか。それとも、明石先輩は人の心が読める特殊能力でもあるんですか?」
奏介はチラリとほたるを見やる。
「え、そんなの、あるわけ、ないじゃん。他人が何考えてるかなんて分からないし」
「ですって。だから、明石先輩はあなたが本気でブスだと言ってると思ってますよ」
「いや、さっきだって笑って返してたろ。そんなわけ」
「さっき言ったじゃないですか。一瞬泣きそうな顔してましましたよって」
「ああ、オレも見ていた。辛そうに体を震わせてな」
田野井がさらりと言う。
耕太郎は少し動揺して、ほたるを見やる。笑って否定してくれると予想したが、彼女は悲しそうにうつむいていた。
「もう少し考えた方が良いですよ。昔からの付き合いだかなんだか知りませんけど、ブスって言われて喜ぶ女性っているんですかね?」
わかばも肩を落とした。
「まぁ、いるわけないわよね。最上級の悪口だし」
「感覚が麻痺してるみたいなので言いますが、ブスという言葉は悪口です。それを言われて不快に思わない人はいません。それを会うたびに言ってたんですよね? 明石先輩の気持ちを傷つけてる自覚があったなら最低です。自覚がなかったなら、最低最悪ですね」
唇を震わせている耕太郎、奏介は続ける。
「明石先輩、自分はブスだから〜って本気で言ったんですよ。あなたが、小さい頃からそうやって言い続けてるから、自分がブスだって思い込んでます。冗談で言っていたと言いましたけど、それは言葉にしないと、絶対に伝わりません。冗談で言ってると思ってるのはあなただけです」
奏介はそう言って、目を細めた。
「……っ!」
耕太郎は何も言えなくなって、一歩後退。顔を引きつらせている。
と、婚約者だというツミレという女性が、この場にいる全員を見た。
「ごめんなさいね、耕太郎が失礼して。前から失礼だとは思ってたけど、ほたるちゃんはこれからは気にしないでね」
ツミレはそうニッコリと笑って、自然な流れで耕太郎の頬をスパンッと張った。
「ぼへぁっ!?」
「ほら、ほたるちゃんに謝って、帰るわよ」
頬をつねられ、耕太郎は頭を下げたのだった。
「今まですみませんでした……」
「それじゃ、お疲れ様」
ツミレは表情を変えずに、笑顔で手を振って、耕太郎を連れて帰っていった。
「本当に何も考えてなかったんだな。まったく」
奏介は呆れたように言う。
ぽかんとしていたほたるは、はっとして奏介を見た。
「ちょっ、ちょっと。会って三十秒で攻め過ぎっしょ。びっくりした。初手、ブサイクってっ」
ほたるは奏介を指で指しながらわかばへ視線を向ける。
「これがいつもの菅谷だから」
「うむ。通常運転だったな」
経験済みの二人が納得したように頷く。
「えー……。てか、アドバイスをしてくれるんじゃなくて、あんたが直接突っ込むんだ」
「ん? でも、頬を叩いて、『良い加減にブスとか言うのやめろ、クズ。ブサイクなてめぇに言われる筋合いはねぇんだよっ』ってあの幼馴染みさんに言って下さいというアドバイスをされたとして、実行出来ます?」
ほたるは顔を青くした。
「……無理。ガチじゃん」
「だから、代わりに言っただけです。俺も初対面で失礼なことを言われたので、若干私怨も混じってます」
「そ、そうなんだ」
かくして、今回の相談は相談者の玄関前で解決したのだった。
奏介達は家へは寄らず、帰ることにした。
「それじゃ、先輩、また集会でね」
「解決していなかったら、また同じように相談を持ちかけてくれ。風紀委員で対応するぞ」
歩き出すわかばと田野井。
「それじゃ、これで言われなくなれば良いですね」
「あ、菅谷君」
背中を向けかけて、振り返る。ほたるは気まずそうに頭をかく。
「あ、いやえーと、最初にオタクとか言ってごめん」
「そうですね、そこら辺は反省して下さい」
「う……。そこは笑って許すとこじゃない? まぁいいや。でも、顔じゃないイケメンているんだね」
奏介は首を傾げる。
「その単語については顔の良い男を現してるんじゃないですか?」
「そうじゃなくて! ……ありがとね。言ってくれて、気持ちがすっきりした」
「良かったです」
ほたるは恥ずかしそうに笑う。奏介も少しだけ笑って、手を振った。
「それじゃ」
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