第154話番外編 夢オチ 法律のない世界で物理的反抗をしてみた

※注意※ まえがき

この話では、普段の主人公ならやらないような行為をします。イメージが壊れる可能性があります。また暴力描写があります。ご注意下さい。

この話数を飛ばしても問題なく続きをお読み頂けます。



 いつもの夢だった。小学生の頃の。


 奏介は自分のクラスの前に立っていて、足がすくんでいることに気づく。


 始まりから夢だと気づいたのは意外に初めてだ。自分は高校生で今、小学生時代の夢を見ている。


(変な感じだな)


 目の前がふわふわしたり、白黒になったりカラーになったり。


 深呼吸をして、戸を開けた。


 途端に教室が静まり返る。どうやら石田を怪我させた後の世界のようだ。


 ヒソヒソと悪口が聞こえてくる。味方が消え、孤独になったあの時。


「おはよー、菅谷」


「え」


 声の方を見ると、何かが飛んできた。


「!」


 ばふっと粉が散って、黒板消しが当たる。


「あうっ」


 勢いで尻餅をつくと、石田がニヤニヤ笑いながら立っていた。


「よく学校来られるよなー」


 とチャイムが鳴り、皆が席に着く。手を貸してくれるものは誰もいない。そして、土岐が入ってきた。


「! あなた何をしてるの!? また余計なことをして、早く片付けなさいっ」


「え、いや、石田君が」


「言い訳してないで早くなさいっ」


「……」


 奏介は立ち上がって、黒板消しを黒板の下に引っかけた。それから服を払っていると、


「痛っ」


 誰かが投げた消ゴムがこめかみに当たった。結構な勢いで投げられたのか、石でも当たったかのよう。


 くすくすと聞こえる笑い声。奏介はようやく自分の席に着いた。机に……糊が塗られていた。


 授業はスキップをされたかのように一瞬で進み、給食の時間になった。


 自分の席に着いたところで石田が横に立つ。


「あー、手が滑ったぁ」


 トレーごとお椀やおかず皿などが床に舞い、奏介の机の上には何も残らなかった。


「……」


「ごめんごめん。今日ぴったりだからもうお前の分ないっぽいなー」


 石田は笑いながら自分の席へ戻って行った。


 そして、


「菅谷君っ、何食べ物で遊んでいるの。さっさと片付けなさい」


 土岐の声。石田の行いを目の前で見ていたにも関わらずこの発言である。


 そして、隣の女子も嫌そうに言う。


「ねぇ、早く片付けてよ。床、滑るでしょ」


 奏介はゆっくりと立ち上がった。それから石田の机の横へ。すでに食べ始めているが、彼はニヤニヤしながらこちらを見上げてくる。


「お、なんだ? 分けてほしいのか? キャベツくらいなら良いぜ?」


 奏介は上履きを脱いで、それを手に持った。そして、振り上げる。


「へあ?」


 石田のキョトンとした顔。振り下ろした上履きが石田の頭に直撃し、スコーンという小気味の良い音がした。


「いってぇぇっ」


 あまりに突然のことに石田が声を上げる。奏介は上履きをぱんぱんと手のひらで鳴らしながら、怯えた表情を作る。


「ご、ごめん、手が滑って……。だ、大丈夫?」


 おろおろした奏介の様子に、しんと静まり返る教室内。


「て、てめぇっ」


 勢いよく立ち上がったところを再び脳天をぶっ叩く。


 スコーンッ!


「あふっ!?」


 バランスを崩しそうになって、頭を押さえた石田は涙目になっていた。不意討ちの強烈な痛みから来るものだろう。このくらいで泣くやつではない。


「いった……。こ、この二度も」


「ごめんね、手が滑って」


 奏介は泣きそうな声で言ってみる。


 このアンバランスな奏介の様子にクラスメート達は困惑するばかりだ。


「よ、よくも」


「ご、ごめんなさいっ」


 奏介は数歩下がってから、上履きを力の限りぶん投げた。


「あがっ!?」


 見事眉間に直撃。石田は後ろに尻餅を着いたのだった。奏介は無言で彼の味噌汁お椀を持ち、頭からぶっかけ、その茶碗を顔面へ投げつける。


「ぶはぁ!?」


 それから上履きを履いている方の足で頭を思いっきり踏みつけた。


「おぐっ!?」


 額をかかとでグリグリ押してやると、


「いだだだだっ、な、ながっ、やめっ」


「調子に乗ってんじゃねぇよ、クソガキが」


 奏介はしゃがんで石田の胸ぐらを掴む。


「マジで、5、6、す、ぞ」


「ひぅ!?」


 奏介は石田を突き放すと、彼の給食のトレーを豪快に床にぶちまけた。


 唖然とする教室内。


「てめぇの分の給食もないみたいだな? でもまぁ、床に落ちた飯がお似合いなんだよっ」


「な、な、なんだ、お前、菅谷?」


 奏介は落ちていた白米を拾って、石田の口へと突っ込んだ。


「あが!?」


「氏ねっ、このクズっ」


 そのまま手のひらで押して、床に後頭部を打ち付けさせたのだった。


 泡を吹いて気絶した石田を見て、ゆっくりと立ち上がった奏介は教室内を見回す。


「で、次は誰だ?」




 そこで奏介ははっとした。


 薄暗い部屋、見慣れた天井。夢から覚めた後の疲労感。しばしぼんやりとする。


 あれだけやったのに、親呼び出しもない、土岐に叱られることもない。


「……続き見たい」


 奏介はすぐに目を閉じた。

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