第140話えぐいいじめをしていた女子高生達に反抗してみた1

 バイトを終えた奏介は荷物を持って、休憩室のドアを開いた。


「あれ、お前今日最後までじゃねぇの?」


 入れ違いで入ってきた高平が眉を寄せる。


「シフト見ろシフト」


 休憩室の事務机のカレンダーを指で指す奏介。高平はそれを確認し、


「あー小川さんと交換したのかー」


 いわゆるパートさんだ。子供ももう手がかからないらしく、長めに働いている。今日は少し遅い時間から友人と会食なのだそう。


「お前はちゃんと働けよ」


 高平にそう釘をさして、裏口から出た。今日は中々に冷え込んでいる。


 店の前を通ると、小川が畳んだ段ボールを片付けながら、道の向こうを不安そうに見ている。不思議には思ったものの、普通に声をかけることにした。


「お疲れ様です。お先に」


「あ、お疲れ様」


「何かありました?」


「娘がね、学校に家の鍵を持っていくのを忘れたから、うちのスーパーに寄ってから帰ってって言ったんだけど、遅いのよね」


「あれ、娘さんてもう働いてるんですよね?」


 短大卒の二十歳だと聞いている。


「それは上の娘。下はまだ高校生なのよ」


 小川は再び不安そうに道の向こうを見ている。


「そうなんですか」


「後五分で着くって連絡来てから十分以上経ってるから……大丈夫かしら」


「え、そうなんですか? じゃあ、帰りがてら探してみますよ」


「そう? えっとね、制服でメガネかけてる子。髪が腰より長いからすぐわかると思うわ。見かけたらでいいから」


「わかりました。じゃあ、何かあったら連絡いれますね」


「ええ。お疲れ様」


 小川に手を振る。


 すでに七時過ぎ、街灯の明かりはあるとはいえ真っ暗だ。


「メガネで髪が長い……か」


 特徴を聞いたものの、夜道に人影はない。時々自転車や犬の散歩をしている人が通りすぎたりするだけだ。


「どこかで寄り道とかか」


 わざわざ探すことはしない。小川も見かけたらと言ってたので。


 もうすぐバス停というところで、公園の前を通りかかったのだが、


「!」


 何かを踏んだらしく、砂利が擦れる音がした。


 慌てて足を上げると、スマホが落ちていた。


「ん……?」


 何か嫌な予感がして、それを拾い上げる。


 落とし物なのだろう、電源は入っていて、充電も三十パーセント以上あるが。


 と、何やら話し声が聞こえてきた。公園からだ。


 奏介は拾ったスマホをポケットにしまって、公園内へと足を踏み入れる。


 女子トイレからのようだ。


「……」


 正直、覗くだけで犯罪になってしまうだろうが、嫌な予感しかしないのだ。


 壁に背をつけて、ゆっくりと顔をスライドさせる。


「!」


 奏介は慌てて視線を戻した。


「きゃはははっ、ほんっとに脱いだー」


「まーじ、変態」


 スマホのカメラ機能のパシャパシャという音がトイレ内に響いている。


 女子トイレ内には四人の女子高生がおり、そのうちの一人はずぶ濡れでスカート、下着を履いていなかった。


 うつむいたまま震えており、それぞれの様子を三人が写真におさめているようなのだ。


 それはどうやら、現在進行形で行われている、いじめのようだ。


「じゃあ、次全裸ね。そんで、便器の水飲んで」


「いいね、それぇ」


 奏介は舌打ちをして、スマホを取り出した。








 小川リホはただ、道を歩いているだけだった。スマホを操作しながらの歩行は危ないと母に言われていたが、ついやってしまうのだ。


 母親の職場に向かう途中のこと、他校の女子高生とぶつかってしまい、一方的に罵られた。連れ込まれたトイレで水をかけられたり、スカートを脱がされたりして写真を撮られた。そして、ずぶ濡れでこの寒い中、全裸になれとまで言われた。相手は三人、逃げられなかった。


 バカにしたような笑いがこだまする中、リホは諦めて制服を脱ぎ始めた。寒さでカチカチと歯が鳴る。


「露出狂過ぎでしょ。言われたからってほんとに脱ぐやついる?」


「いないいない」


「きゃはははっ」


 と、女子トイレの入り口に誰かが立った。


「……え?」


 三人は慌てた様子で振り返る。


 それはどう見ても男子高校生である。


「きゃっ」


 リホは慌てた様子で胸を隠して座り込んだ。


 現実に引き戻された。まさか男性に見られそうになるとは。


「はっ……!? 何この変態っ」


「ちょっ、まじ!?」


 するとその男子高校生はこれまた慌てた様子で、


「す、すみません。間違えました」


 頭を下げて、出ていく。


「おいこら、待てっ」


「逃げんなよっ」


 三人は鬼の形相で追いかけて行った。トイレの窓から赤い光が点滅を繰り返している。






 住友すみともあきこは友人二人と覗きの変態男子高校生を追いかけた。せっかく面白いおもちゃを見つけてこれから楽しめそうだったのに。さっさと捕まえて同じ目に遭わせてやろう。気弱そうなやつだった。きっと三人なら抵抗できないだろう。そんなことを思っていたのだ。


 しかし、女子トイレを飛び出した瞬間、目に入ってきたのは、


「……え」


 パトカーに救急車、そして大人や高校生など男女合わせて十数人。彼らは険しい顔でこちらを見ていた。




 そして、先程の男子高校生が鼻で笑う。


「暴力沙汰は警察、怪我をしてる人がいたら救急車、それに被害者の保護者や関係者への連絡。全部しておいてやったぞ?」


「は……はぁ!? な、何言ってんの。暴力なんか振るってないっ、てかあんたの覗きの方が犯罪」


「あー、そうだったのか。女子トイレに入るわけに行かないから、聞こえてきた声で判断したんだよ。まさか、暴力沙汰じゃなかったなんてな」


 そんなやり取りをする中、救急隊と警察が中へと入っていく。


「君、しっかりっ」


「早くっ毛布持って来きて」


「低体温症になりかけてるっ」


 奏介はにっこりと笑った。


「で、中で何してたって?」


※後書き※


後で惚けられるので現行犯逮捕最強説。


この物語はフィクションです。実在の人物及び団体とは一切関係ありません。


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