第141話えぐいいじめをしていた女子高生達に反抗してみた2

 中で何をしていた?


 その問いにあきこはたじろいだ。学校でも同じことをしたことがあるが、改めて聞かれるのは初めてだ。


「なぁ、あの子と何してたんだよ。言ってみろよ」


 偉そうな態度に少し腹が立った。


「ただ遊んでただけでしょ。何ムキになってるの」


「遊んでただけで低体温症になるわけねぇだろっ」


 あきこは舌打ちをした。


 教師に見つかって指導されたことがあるが、その教師より偉そうだ。気にくわない。


「なんなのよ、いきなり」


「あの子は死ぬところだったんだぞ」


「は? 死ぬわけないじゃん。言ってるでしょ、遊びだってさ」


 何を大袈裟なことを言い出しているのか。


 奏介は親指でトイレの入り口を指差す。


 中から担架に寝かされたリホが運ばれてきた。真っ青な顔でぐったりしている。


「ただの遊びであんな状態になるわけねぇだろ? ただ寝てるように見えんのか? お前ら、あの子に対してやったことが犯罪って気づいてんのか?」


 あきこはため息を一つ。


「なぁにが犯罪よ。こんな大がかりな嫌がらせしてさ」


「周りを巻き込む嫌がらせとかうざいー」


 学校では同じことをしても注意されただけだったのに。


「ここは学校じゃねぇぞ」


「!」


 心の中を見透かされたようで、少しドキリとした。


「学校でやらかしたことは優しい先生や親が庇ってくれるもんな? 教師は学校として問題にしたくないし、親は娘を犯罪者にしたくないし、結局やられた側が泣き寝入りするわけだ。でも、今回は違うぞ。ここは公共の場なんだよ。その辺の人をトイレに連れ込んで水ぶっかけて服脱がして写真撮りまくったら、脅迫罪、強要罪、暴行罪、傷害罪辺りが適用されるかもしれないんだぞ? 無差別に人を包丁で刺す通り魔と同じだ」


 罪状を一気に捲し立てられ、さすがのあきこも動揺した。


「これくらいで犯罪になるわけ? んなわけないでしょ」


 と、運ばれるリホのそばで泣いている中年の女性を奏介が呼んだ。


「す、菅谷君」


 奏介は人差し指でまっすぐにあきこを、指した。


「こいつが娘さんに水ぶっかけて服脱がして写真を撮ってネットに流そうとしてたクズどもです。なんか言った方が良いですよ」


 あの女子高生の親だと言う女性が睨み付けて来た。


「うちの娘に何をしたの!?」


 恨みのこもった顔だった。


「え……」


 学校での時は相手の保護者に会うことなどなかった。直接対面したのは初めてだ。


「信じられない。娘が一体何したっていうのよっ」


 奏介も睨み付けながら腕を組む。


「楽しそうにやってたんで、きっと誰でも良かったんですよ。こういう趣味なんですよ」


「っ! あいつがぶつかってきたからよっ」


「そうそう、あいつが悪かったんだし」


 奏介はあきこ達をじろじろと見る。


「別に怪我してないんじゃないか? 怪我させられたわけでもないのにあそこまでやるのか? それはもう正当防衛とか仕返しのレベルを越えてるだろ」


 と、救急隊が小川を呼んだ。出発するらしい。


「後で親御さんを交えて詳しいお話を聞きますので」


 小川はそう言って、あきこ達を睨みながら去って行った。その途中で、警官にこちらを指差し、何かを話しているようだ。


 ここで逃げてしまおうか、そう考えもしたが、すぐに警官が近づいてきた。


「小川リホさんと一緒にいたのは君達だね? ちょっと話を聞かせてもらいたいんだ。親御さんにも連絡したいならパトカーで署まで行こうか」


「え、なんで」


「小川さん、意識障害を起こして危険な状態らしいんだよ。何故こういう状態になったのか詳しく話してもらいたくてね」


 そこで初めて、あきこは心臓がドキドキしていることに気づいた。パトカーで連行されるなど、初めてだ。学校内での対応とまったく違う。


 優しい口調だったが、警官達に囲まれ、パトカーへと促される。


「人を傷つけておいて、無事で済むと思うなよ」


 奏介はそれだけ言って、去って行った。






 呼び掛けて集まってくれた近所の人や通りがかりの人にお礼を言った。複数の他人が見ていたことで、事件の揉み消しを防げれば良いが。


 その後、警察からも少し話を聞かれた。




 ただの遊び中の事故、お咎めなしだけはさせない。まだやれることはある。



 奏介は帰路につきながら、拳を握りしめる。


(絶対に無罪にだけはさせないからな)


 余罪も含めてすべて公にしてやりたい。


 奏介は小学生の頃の自分を思い出し、小さく頷いた。



※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、事件には一切関係ありません。

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