第124話人の趣味をバカにする根黒の友人の姉に反抗してみた3
長見の反論に目を瞬かせる長見姉。予想するに、初反抗だろう。
「姉さんはいつもいつも、僕の部屋に侵入して、僕が買ったものを盗んで捨てたり壊したりするんだ。菅谷君が言った通り犯罪だよっ」
「なっ、盗んだ!? 人聞きの悪いこと言うなっ」
「今だって僕の部屋に勝手に入ってきていきなり悪口を言ってきたんだっ、非常識だよっ」
長見母は姉へ視線を向ける。
「ちっちゃい頃、よく慧のおもちゃとかゲーム壊してたけど、あなたまだそんなことやってたの? 散々叱ったでしょう」
「だからお母さん、あいつらのでまかせなんだって」
と、奏介が挙手する。
「いや、長見君のお姉さんはさっき、自白してましたよ。気持ち悪い声の女が出てくる九万五千円のアニメのDVDを捨てたって。しかも捨てられて当然だとも」
「っ! 言ってない」
奏介はスマホを取り出す。
「あー、すみません。いきなり暴言吐かれたんで、証拠として録音してあるんですよね。言ってること目茶苦茶で意味わからないし、どうせ言い逃れしそうだし」
そこで母親の目付きが変わった。
「あゆ、ちょっとこっちで話しましょうか。九万五千円て」
「え……」
母親が長見姉の襟を勢いよく掴んだ。
「!」
「ゆっくり話を聞いてあげる」
「いやっ、待ってって、慧の思うつぼだって。てか、九万五千円の下らないDVD買ってんだ、それは良いのか!?」
「良いっていうか、時々バイトしてたでしょ? 慧は欲しいものがあるって前から言ってたわよ」
引きずられていく長見姉に奏介は笑顔を向けた。
「そういえば見に行くって言ってた『海で君を追いかけて』は漫画が原作なんですよね。漫画アニメあんだけディスったんですから行かないで下さいね。迷惑なんで」
最後に見た長見姉は顔を引きつらせていた。
数分後。同じく長見の自室にて。長見母、姉が去り、3人だけになった。
「はぁ~。心臓に悪いよっ、菅谷くんっ」
何故か根黒が半泣きだった。
「出会い頭に喧嘩売ってきたんだから、カウンターで顔面に打ち込むのは当然。根黒もこれくらいできないと、また変なのに絡まれるよ」
「う、うん」
奏介は長見を見る。
「長見、大丈夫?」
彼は放心状態である。慣れないことをした反動だろうか。
「あ……はい。なんだか、物凄いことを言ってしまったような。……でも、ずっと言いたかったことを言えてよかったです」
苦笑い。
「菅谷君と根黒君が味方してくれたおかげですね。ありがとうございます」
「い、いやっ、僕何もしてないからっ、ほぼほぼ菅谷君だよ」
大袈裟に首を横に振る。
「だな。次は根黒ももっと擁護しなよ」
「次があるみたいな言い方……」
そんな様子に笑う長見。
「仲良いんですね」
「え!? そう見える!?」
何故か嬉しそうな根黒。
「僕、ほとんど友達いないので羨ましいですよ」
「ん? 長見と根黒は友達でしょ。連絡先交換してるし、家まで遊びに来てるし」
彼らはお互いに顔を見ると照れたように頬を赤くした。
「……なんか、気持ち悪いな。特に根黒」
「なんで!?」
そんな話をしつつ、帰宅する時間になった。長見が玄関まで送ってくれたのだが、
「お姉さん、もしかしてまだ怒られてる?」
根黒がびくびくしながら言う。
家の二階から、一度だけ母親の怒鳴り声が聞こえてきたのだ。
「うちの母、いわゆる元ヤンなので」
穏やかそうな女性であったが、人は見た目によらないのだろうか。
外へ出たところで、長見が二階を見上げる。
「……両親は贔屓とかしてるつもりはなかったんでしょうけど、昔から体が弱かった僕にかかりっきりで、姉は寂しかったんだと思います。いじめのきっかけはそれですかね」
「そうなんだ……。きっかけがあったんだね。悪い人じゃないのかな?」
奏介は首を横に振った。
「小さい頃寂しかったからって他人の物捨てて良いわけないだろ。やり方が悪質なんだよ。やり方が」
奏介は長見を見る。
「だから、姉に申し訳ないと思うのはおかしいからな? 迷ったら九万五千円のことを思い出せ」
「あ、あはは。凄いですね、菅谷君は。……それじゃ、ありがとうございました」
奏介と根黒は長見家を後にした。
「僕からも、ありがとう、菅谷君。友達として誇らしいよ!」
「ああ、うん。そう」
「……気のせいかな。目茶苦茶嫌そうな顔してない……?」
奏介は息を吐いた。
「それよりも、これから助けてやりなよ? 同じ学校の友達なんだからさ」
根黒は力強く頷く。
「わかってるよ! 長見君は友達だからね! もちろん、君も」
「ああ、そう、だな」
「うう、微妙な反応が傷つくなぁ」
そんな会話をしながら帰った。長見の置かれている環境や状況が改善することを祈るしかない。
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